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 昼間の海とは打って変わって、夜の海は漆黒の闇に吸い込まれそうな感じだ。

 

 船室でゆっくり寝ていたらいいと言われたが、いろいろと思いを巡らせてしまいこのままでは眠れそうにない。

 風に当たろうと思い切って甲板に出ると冷たい風が頬を刺した。


「リアーノ、まだ起きていたのか。やっぱり似合ってるじゃないか」

「キーモンさん!」

 短時間で準備をして、この夜の海に人知れず出航できたのも、キーモンさんの船だからだ。

 確かにキーモンさんなら、アッサムが任せられると言っていたのも納得だ。

 

 わたしはニシアに行くのに、いつもの女性の格好だとお姉様、つまりステファニー王女殿下と双子で似ているので人目につくと良くないので、キーモンさんがその変装衣装も用意をしてくれた。

 アッサムのズボンとベストのお下がりで「良いところのお坊っちゃま風」の変装なんだけどね。

 これって、昔はアッサムの一丁羅だったと記憶している。


「アッサムのお下がりが良く似合っているな。」

 キーモンさんが上機嫌だ。


「アッサムにこれを探し出した俺に感謝してもらわないと。ほかの男の服をリアーノに着せたら、あいつに無言で睨まれるからな」

 なにやら小さな声でブツブツとキーモンさんが呟いているが風でよく聞き取れない。

 

 キーモンさんはあの短時間で用意したのは服だけでなく、金髪で耳と肩の間ぐらいまでに切り揃えられたかつらも用意をしてくれた。


「いろいろありがとうございました。ところでキーモンさんはこのかつらはどこから?」

「それは秘密だ。俺に調達できないものはない」

 ニカッと歯を出しすごい笑顔で、いつもの口癖が飛び出したキーモンさんは自慢げだ。


「アッサムの「レナード殿下」のかつらもキーモンさんだったんですよね」

「まあな。あの頃のアッサムにしてやれるのはそれぐらいだろう。身代わりなんて仕事はアッサムと別人になることでアイツの安全を守れるからな」

 夜の海を見つめるキーモンさんが少し寂し気な目をした。

「一緒にずっと貿易の仕事をするつもりだったのにな…」

 ポツリとキーモンさんが呟く。

 

 知っている。

 アッサムが少年だった頃はよくキーモンさんの後を追いかけてた。

 キーモンさんの船に一緒に乗れることを誇らしそうにしていたもの。


「アッサムもそのつもりだったと思います。いつもキーモンさんの船が戻って来るのが見えたらすぐに港に走ってましたから」

 懐かしいな。うん、うんとキーモンさんが頷く。

「リアーノ、俺はね。両親の貿易の仕事も裏の仕事も引き継ぐよ。アッサムが「殿下」を続ける限りな。大事な弟を支えてやらねばな」

 ニカっとキーモンさんがいつもの笑顔で笑う。

 

「リアーノは、ニシアで向こうの国での立ち振る舞いなどで、気を病むことがあるかもしれない。でもな、リアーノはダン爺やばあさまやたくさんの人たちと関わって生きてきた。みんなに愛されて育ったリアーノはどこにだしても恥ずかしくない立派なレディだ。最近はニシアの国の勉強もがんばっていたんだろう。だから自分の思う通りで大丈夫だ。自分を卑下することなく、自信をもってしっかり「身代わり」を務めてこい。あとは俺たちを信じろ。リアーノが困ったときはいつでも助けに行くからな」

 

 キーモンさんがキーモンさんの言葉で背中を押してくれる。

 いま、この漆黒の夜の海の闇に飲まれそうな不安な気持ちの時に欲しかった言葉をくれる。


「キーモンさん、ありがとう。」

「昔もこれからの未来も俺の妹だしな。もうすぐ本当の妹だ。未来が楽しみだよ」

 キーモンさんがうれしそうにニヤッと笑った。


 涙がこぼれそうになり、顔を上に向ける。

 今冬最後の雪がひらひらと舞い落ちてきて、熱くなった瞼を冷やしてくれた。



 3日はかかると思っていたのにキーモンさんの船はニシアの王都カイカックに1日半という速さであっという間に着いてみせた。

 俺は風と潮を読むのは得意なんだと誇らしげに語ってくれた。

 ジークが「こんなに早いなら、行きからキーモンさんの船がよかった」とずっと言っていた。


 さすがはニシア国の王都、カイカック。

 国随一の貿易港でアマシアの倍ぐらいはある大きさがあり、活気づいている。

 出入りしている船もあまり見ない外国の船まであり、思わず目が釘付けになる。


「ジーク、カイカックって大きい港なのね。想像以上だわ」

「まぁ、王都だからな。いまから俺たちはあそこに行くぞ」


 ジークの指さす方向には市街地を見渡せる丘陵の絶壁に王城があった。

 初めてみる王城は荘厳であるけど、砂岩造りで温かみのある赤いお城だった。

 そして、わたしが生まれた場所でもある。

 

「ニシアの王城も高いところにあるのね。」

 セイサラ王国の王都サハも王城は山城だったが、やっぱり城というものは、どこでも高いところにあるものらしい。まるで街を見守るかのようだ。

 

 キーモンさんの船に別れを告げ、ジークが手配してくれた馬で王城を目指す。馬車だと目立ち過ぎるらしい。

 大きな川に架かるアーチ状の立派な橋を渡り、オレンジ色の屋根の建物が立ち並ぶ市街地を抜けて、険しい坂道を登ると立派な石造の城門が見え、馬から降りた。


「打合せ通り、リアーノは俺の従僕ということでよろしくね」

 小声でジークが呟き、目配せをしてきた。

 わたしは小さく頷く。

 

 いよいよ、わたしの仕事が始まる。

 その重責に身のすくむ思いだが、真っすぐに赤い城壁の王城を見据える。

 しっかりとお姉さまの身代わりをこなし、そしてお姉様を見つけ出す。

 そう、改めて決意した。

読んでいただき、ありがとうございます。

気づけば9月ですね。

早い…一年が終わる笑


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが上がります。


アッサム:出した服はちゃんとなおして。

キーモン:なおす?治す?

アッサム:片付けること!

アッサム:あー大阪弁、通じへん


大阪弁あるある。第二弾。

これの似たようなんで、

トランプをきる、くるがあるらしい。

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