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身代わり

「お姉様が?」

 驚き過ぎて、言葉にできたのはそれだけだった。

 

 ステファニー王女殿下、つまりわたしの双子のお姉様はこの間うちの食堂にしばらく居候をして、手伝ってくれたような人だ。

 長い間その存在を隠されて離れて暮らしていたわたしとの姉妹の時間を取り戻すと言って。

 そんな大胆な一面と人情深い一面を持ち合わす、素敵なお姉様だ。

  そのお姉さまが行方不明?


「ジーク、ステファニー王女殿下とフィリップ様はもうすぐご結婚されるんだろう。フィリップ様を近隣諸国へお披露目をする舞踏会の招待状が少し前に、セイサラ王国の王宮にも届いていたぞ」

「そうだ。その舞踏会が迫っているんだ。ステファニー王女殿下が行方不明になって5日。城も王都中も極秘でくまなく探しているが見つからない。いまはまだ、ステファニー王女殿下は体調不良で寝込んでいると誤魔化せているが、さすがにステファニー王女殿下の婚約者のお披露目の舞踏会をステファニー王女殿下が欠席をする訳には行かない。舞踏会まであと一週間になってしまった。もう時間がないんだ。リアーノに頼るしか手段が残されていない」


 最後の方は声を絞り出すようにジークが話した。

 皆が一斉にわたしを見る。


 ジークの話はこうだった。


 お姉様はジークの兄、婚約者のフィリップ様と珍しく喧嘩をして飛び出してから、行方不明になったらしいのだ。攫われたのか、家出したのかそれさえもわからないらしい。目撃者が全くいないらしいのだ。

 可愛い喧嘩だったらしいので、思い直してすぐに戻ってくるだろうと皆が思っていたため、護衛もついておらず行方不明に気づくのが遅れたらしい。


 ジークがわたしの前に国の名前が立体的になるよう凹凸加工が施してある高級感のある、クリーム色の1通の封筒を差し出す。

「陛下からだ」


 ニシア国の陛下… つまりわたしの実父だ。

 半年前まではわたしは自分の出生の秘密を知らなかったので、実父が生きているとも思ってもいなかった。

 実父は一度、こっそりと訪ねてきてくれたことがあったらしい。そんな優しい同じ茶色の瞳を持つ実父の顔が思い出される。


 手紙には、ステファニー王女殿下の行方がわからなくなっており全力で探していること、近隣諸国へのフィリップ様のお披露目の舞踏会の日が迫っていること、そしてわたしにお姉様の身代わりでそのお披露目の舞踏会に出席してほしいことが丁寧なきれいな字で綴られていた。


「身代わり…」

 ステファニー王女殿下の双子であるわたしにしかできない。


 一緒に手紙を読んだアッサムも、その場にいるおじいさまもおばあさまも、心配そうにわたしを見つめる。


「ステファニー王女殿下が行方不明になったのはこちらの落ち度だ。でもいまのニシアの窮状を救えるのはリアーノしかいないんだ。勝手なことを言ってすまない。リアーノ、ステファニー王女殿下の身代わりを引き受けてくれないか?」

 ジークの表情からは、どんなに切羽詰まっている状況なのかはすぐにわかる。

 国の面子がかかっているのだから。

 

 そして、わたしの心はすでに決まっている。

 断る理由なんてない。

 わたしの大事な人たちが困っているのだから。


「お姉さま、いえステファニー王女殿下の身代わりをするわ」


 一同がその決定に息をのむ。


「俺も一緒に行く」

 アッサムが呟く。


「それは無理な相談だ。「アッサム殿下」」

 カウンター席でひとり優雅にお茶を飲んでいたホーシャック室長が立ち上がって、こちらのテーブル席に歩み寄ってくる。


「ホーシャック室長、本来ならいまは王都サハのはずですよね。なぜ、ここにおられるんですか?」

 アッサムが怪訝な表情で聞く。


「こちらも問題が発生したんですよ。アッサム殿下。至急、王都にお戻りください」

 おじいさまやおばあさま、そしてジークは驚く様子はない。

 先に事情を聞かされていたようだ。


「いまから、すぐに俺が行かなければならない事案ですか?」

 ホーシャック室長が黙って深く頷く。


「エシオにある国営工場で重大な盗難事件が発生しました」

「エシオ…か。まさか、盗難の被害に遭ったのは…」

 アッサムが眉間にしわを寄せる。

「お察しの通りです。火薬の原料です」

 アッサムが深いため息をつく。

「それなら至急、戻らないといけませんね」


 火薬の原料と聞いただけで、大変な事態であることがわかる。

 平和的利用で鉱山の発破や、花火に使われるならまだいい。

 盗んでまで原料を奪うんだ。

 武器利用される筋が濃い。

 エシオ国営工場とは一体、何を作っているんだろう。

 

「リアーノはその決断でいいんだな」

 おじいさまが食堂で料理を作っている時とは違う別の顔をしている。

「はい、おじいさま。覚悟はできています」

 おじいさまはジークの方をみると、お互いが頷いた。


「急いで出発しないと時間がない。ニシアへは先にジークと行きなさい。わたしは少し準備をしてからニシアに向かうよ」

 わたしは深く頷く。おばあさまがとても心配そうにやり取りの行く末を見守っている。


「アッサムもホーシャック公爵と早く出発した方がいい。こちらの部隊は必要か?」

 おじいさまがアッサムに問いかける。

 

 すでにアッサムは「殿下」の顔になっていた。

 「まずは街道の封鎖をしたいところですが、それだと経済的損害も大きくなるので橋での荷物検査ぐらいになると思います。まずは王城の騎士団で早急に対応して、その後の細かいところは相談させてください」

 おじいさまとホーシャック公爵がそれを聞いて頷いている。

 そして、満足そうに目を細めた。


読んでいただき、ありがとうございます。

ペースが遅くて申し訳ありません。

毎日、暑くてダレています。


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが上がります。


恒例化したい4コママンガならぬ、シュートコント。

作者、意外にノリノリで書いているんですよ。

夢はコント集!


ジーク :ここでクイズ!ニシアの陛下からの手

     紙の封筒の加工は現代では何という?

アッサム: あー アレな。字が凸凹になってたヤツ。

リアーノ: (即答)エンボス加工!

ジーク : なんや。知ってたんかい〰︎


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