再会
岬の途中までくると、アマシアの湾と反対側にある小さな入り江が見えてきた。
その入り江に隠れるようにマストが3本ある見慣れない帆船が停泊している。
「見慣れない帆船だな」
アッサムが呟く。アッサムの実家は貿易商で、アッサムは幼いころからよく船に乗って遠くまで行っていたので様々な船に詳しい。
「アッサムでも見たことがない船なの?」
「最近は海に出ていないから何とも言えないけど、初めてみるな。誰の船だろう。しかもあの入り江は潮の流れが速いから、みんなあんまり使わないんだけどな」
ふたりで顔を見合わせながら、帆船をみる。
その時だった。
見たことのある伝書鳩がわたしたちの頭の上を旋回していることに気づいた。
アッサムも気づいたらしい。
「ダン爺からだ!」
伝書鳩の足についている筒の模様でおじいさまからだとわかる。
アッサムが指笛で伝書鳩を呼ぶと、すぐに降りてきた。
「なにが書いてあるの」
アッサムが鳩の足についている筒から小さな紙を取り出して、真剣な表情で読んでいる。
「至急、食堂に帰って来いと書いてある」
「鳩を使うなんてよっぽどね。なにが起こったのかしら」
「これだけではわからないな。とにかくすぐに戻ろう」
(アッサムと一緒に岬の先端のベンチに座ってみたかったけど、諦めるしかなさそうね)
「リアーノ、次は必ず一緒にベンチに座ろうな」
わたしの気持ちを見透かしたように、アッサムがいつもの悪戯っ子のような表情で笑っている。
「アッサムも噂を知っていて黙っていたのね!」
「もちろん知っていたよ。だから誘ったのに」
(下見をしたことがあるとはリアーノに格好悪くて言えないけどな)
思わず、ふたりとも照れて一瞬無言になる。
「行くぞ」
アッサムは表情を見られたくないのか、くるっと背を向けた。
大きな背中が照れているのがうれしかった。
急いで食堂に戻ると、夕方の閉店作業を終えたおじいさまとおばあさまが険しい顔をして待っていた。
なぜかホーシャック室長もいて、カウンター席でお茶をひとりで飲んでいる。
目が合い頭を下げると、テーブル席の方を指さして、あっちに行けと目くばせをする。
そして、久しぶりに見る顔がそのテーブル席にあった。
「「ジーク!!」」
アッサムとわたしが驚きの声を上げる。
「おふたりさんとも仲良く一緒で元気そうじゃないか」
ジークフリート・フォンデル。
半年前の偽札事件やそれに絡む密造酒・脱税事件が両国にわたる事件だったため、共闘した仲だ。
そして、金髪の端正な顔立ちの彼は隣国ニシア国の筆頭公爵家の次男で、彼の長兄フィリップ様はわたしの双子の姉、ステファニー王女の婚約者だ。
「ジークが従者もつけず、しかもその姿でここに居るということはニシア国で重大なことが起きたんだな。しかもダン爺の元に来たということはリアーノ絡みか?」
アッサムがなにかを感じ取ったのか険しい顔になった。
ジークは、半年前の事件では、ニシア国からの密命で動いていた。
今回もそのようだ。
わたしは久しぶりの再会の嬉しさに気を取られていたがジークをよく見れば、急いできたのか靴は汚れ、シャツもクタクタになっている。
「相変わらずアッサム殿下はよく見てるし、勘がいいな」
ジークがその端正な顔立ちで苦笑いをする。
「殿下はやめてくれ。ここでは「アッサム」だ」
アッサムが殿下呼びをされたのが面白くなかったのか、顔をしかめる。
「了解。遠慮なくアッサムと呼ばせてもらうよ。アッサムもいろいろ大変だな」
「お互い様だろ」
アッサムとジークはこんな気安いやり取りをし、戦友に再会したかのようだ。
わたしとアッサムはテーブル席で、ジークの話を聞くことになった。
おじいさまとおばあさまも一緒だ。
「ステファニー王女殿下が行方不明になられた」
息をのむ。
わたしもアッサムも悪い知らせだろうと想像はしていたが、その予想を遥かに超えるものだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
やっとジーク登場!
ジークファンっているかなぁ〰︎
お待たせしました。
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作者のモチベーションが上がります。
友人A:岬の先端にある善意のベンチの噂知ってるか?
アッサム:最近は王都暮らしだから知らないな
友人A:恋人と座ったら幸せになるらしい。知らんけど
アッサム:了解!とりあえず、下見行ってくるわ
きっと、友人とこんな会話をしたハズ。