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深い青色のシーグラス

「ごめんね。今日は朝からおじいさまの機嫌が悪くて、せっかくのランチもうちの食堂になっちゃったね」

 ごめんね。と顔の前で手を合わせ、アッサムに謝る。

 アッサムが海風にきれいな黒髪を靡かせながら、クスッと笑う。


「ダン爺の料理を久しぶりに食べたかったから、むしろ良かったよ。それにダン爺の機嫌が悪いのはきっと俺のせいだよ」

「そうなの?」

「そういうもんさ」

(なにか怒らせるようなことでもアッサムはしたのかしら?)


 港から少し外れた、人のいない小さな砂浜。

 わたしのお気に入りの場所で、そしてこの国にきた初めての場所でもある。


「やっぱり、ここはいいわね。落ち着くし、大好き」

 冬の海は少し波が高いが、いい天気だ。

 ザザッと波の音だけが辺りに響き、耳に心地よい。

 アッサムと砂浜を流木を拾いながらゆっくり歩く。

 

「リアーノ、青色のシーグラスだ」

 アッサムが屈んで親指ほどもあるシーグラスを手に取り、わたしに見せてくれる。


「珍しい!すごく大きいし綺麗ね。この海と一緒の青色だわ」

「長い時間をかけて、波にも揉まれてここにやってきたんだな」


 わたしはそのシーグラスを手に取り、陽にかざして色を確かめる。

 アマシアの海と一緒の深い青。

 その時、ふわっと後ろからアッサムに抱きしめられた。


「…アッサム」

「昨夜から…いや王都で離れてからずっとリアーノをこの腕に抱きしめたくて。昨夜は我慢したんだ。しばらく、このままでいてくれないか」

「うん」

 海風で少し寒いはずなのに、抱きしめられたその背中が、そして頬が熱を持つ。


 波の音と胸の高鳴る音だけの世界。


「はぁぁぁ…」

 私の耳元でアッサムが声にならない声で呟き、わたしを抱きしめている腕に力がこもる。

「どうしたの?」

「いや、さっきも食堂であれがリアーノの日常なのかと思ったら、ちょっと嫉妬した」

「えっ?」

「だから、アイツらにだよ。いつでもリアーノと話せる。それだけのことに嫉妬したんだよ。俺は王都暮らしだからリアーノの声も聞けない」


 アッサムでも嫉妬をしてくれるんだ。

 その感情に、ちょっぴりうれしくなる。


「今日はいまから、行きたい店というか、用事を済ませたい店があるんだけど付き合ってくれる?」

 アッサムは王都サハの王宮で暮らしているし、王都の方がなんでも揃っているのに、アマシアで行きたい店があるだなんて、そんな珍しいこともあるんだ。

 

「いいわよ。どこのお店なの?」

「例の眼鏡を調整をしてくれる店」

「ええっ!「レナード殿下」の眼鏡って王都サハにあるお店で作っていたんじゃないの?」

「用意したのはホーシャック室長だぞ。アマシアに決まっているだろう。それに「仲間」の店で作ったんだ」


 なんか、納得。

 じゃぁ…恐る恐る聞いてみる。

「あのカツラは?」

「ホーシャック室長が兄貴に頼んだ」

「ええっ!出所はキーモンさんだったの!」

 

 キーモンさんの口癖が「俺に調達できないものはない!」だ。

 えらくドヤ顔をしているキーモンさんが想像できる。


「「レナード殿下」は正真正銘、アマシア産だったということだよ」

(それに全然気づかなかったわたしって…なんか、落ち込むわ)


 アッサムに頭をポンポンとされる。

 見上げるとアッサムが優しく微笑んでいた。



 アッサムが行きたいという店に一緒に向かう。

 アマシアの海沿いのメインストリートにある有名な宝石店だ。

 ショーウインドウを覗いたことはことはあるけど、わたしにはちょっと高級店過ぎて、入ったことはない。


 この海沿いの石畳のメインストリートを手をつなぎ、ふたりで歩く姿は、どんな関係に見えているんだろう。

 わたしはそんなに背が高くもなく色気もないから、下手をすればやっぱり婚約者や恋人でなく、アッサムの妹とかに見えるかも。

 6つ年上のアッサムのほうが、随分と大人っぽい。

 幼馴染のアッサムとはいままで、幾度となく手をつないだ。

 あの頃から変わったといえば、いまは指と指を絡めてつないでいる。それだけ。



 お店の外観には神話に出てきそうな動物の彫刻が置いてあり豪華そのもので、店内も赤い絨毯が敷かれていて、香水のようないい香りがし、想像通りのまさに「高級店」そのもの。

 ガラスケースに並べられている指輪やネックレスは見たことがないような大きさの宝石がついているものもある。


 アッサムはよく来ていたのか、店員さんと顔なじみのようだ。

 店員さんと軽く挨拶を交わし、奥でオーナーが待っていると案内された。

「リアーノ、ここで少し商品を見て待っていてくれないか」

「うん。わかった」


 そう言うと、アッサムは奥の部屋に入っていった。

 気おくれしないで颯爽とスタスタと奥に入って行くアッサムの後ろ姿を見ながら、そういうところが「殿下」だなとしみじみ思ってしまう。


 慣れない豪華な店内にひとり取り残されて、所在なさげにしていると、少し年配の女性の店員さんが声をかけてくれた。


読んでいただき、ありがとうございます。

読書の皆様にご報告。

この度、渡部サキ先生の作画でコミカライズされました。

まんが王国にて配信中です。

詳しくは活動報告にて〰︎


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが上がります。



アッサム:「ダン爺注文いい?「帰れ!鶏肉へ」1つ!」

ダン爺 :「ない」

リアーノ:「おじいさま、わたしも!」

ダン爺 :「わかった」

アッサム:「俺も!」

ダン爺 :「ない」

アッサム:「………」

きっとこんなやり取りがあったハズ。

      



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