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懐かしい

 夜空に瞬く星はもう春の星座だけど、実際はまだまだ冬だ。

 目が一瞬で覚めるぐらい寒い。

 でも、辛い物語を読んだあとだからか、この寒さが心地よいのも事実だけど、一体何時間ぐらい集中して読んでいたんだろう。

 もう夜更けだ。


 その時、隣の家の屋根に人影が見えたかと思ったら、慣れた足取りであっという間にわたしのいるベランダにやってきた。


 (まさか!!)


「アッサム!!」


 見間違えじゃない!

 アッサムだ!


「屋根にいたら、リアーノがベランダに出てくるのが見えた」

 優しい黒い瞳で少し照れたように笑う。

 屋根からわたしのいるベランダにアッサムが軽快に降り立つ。


「どうして…?王都サハじゃないの?」


 アッサムがわたしの唇に人差し指を当てる。


「静かにね。ダン爺に見つかったら怖いからな」

 思わずふたりで顔を見合わせ、声を押し殺して苦笑する。

 (きっと同じことを思ったよね…)

 

 絶対、おじいさま(ダン爺)は気づいてる…

 

 


「さっき着いたばかりなんだ。もう夜も遅かったから、朝1番でリアーノに会いに行こうと思っていたのに、リアーノの姿が見えたら居ても立っていられなくて。偶然にもいまリアーノに会えるなんて幸運だな」


「そうだったのね。アマシアに突然来るなんて、なんか事件でもあったの?」

 

 アッサムが悪戯っ子のようないつもの顔をした。

 (その表情を見るの、久しぶりだなぁ)


「ただの休暇だよ。陛下にアマシアの実家にたまには顔を見せて来いって言われたし、兄貴の船もようやく帰ってきたとこだしね」


 血は繋がっていないのに、年が離れているせいか、意外に仲の良い兄弟。

 キーモンさんはあまり手紙でやり取りをしていないようなことを言いながら、ちゃんとお互いに連絡は取り合っているんだ。

 

「キーモンさん、今日のお昼に食堂に来てくれたわよ」

「それ、さっき兄貴も言ってたわ。兄貴に絡まれなかったか?」

「いつもの感じだったわよ。調理中のおじいさまが怖くて、誰も座ってくれないカウンター席を独占してたわよ」

「あーー なるほど」

 アッサムはその場面の想像ができたのか、クックッと笑うと、急に真面目な顔をした。


「リアーノの明日の予定は?少しだけでも時間ないか?」

「いつも通りで朝から食堂を手伝って、お昼が終われば、あとはカードのサンプルを渡しに行くだけだから大丈夫よ」

「カードの仕事もがんばっているんだな」

 アッサムがポンポンと頭を撫でてくる。


 (あっ… 随分と懐かしい感じがする)

 

 だけど、アッサムはすぐにその手を引っ込めてしまった。


「わかった。じゃ、明日なっ。ランチは一緒に食べるぞ」


 そう言うと、わたしの返事を待たずに、またしてもひらりと俊敏にベランダの手すりを超えて、屋根伝いに帰っていく。


「リアーノ、おやすみ」

「あ、うん。おやすみ」


 寒いはずなのに、顔が熱かった。



 翌日は朝からなにかとおじいさまに掃除を頼まれて忙しかった。

 なぜか、おじいさまは機嫌が悪く、おばあさまはニタニタしながら、せっせと料理の準備を進めていく。

 昼前には海の男達で食堂がいっぱいになる。


「なぁ、リアーノちゃん」

 注文を取りに行ったら、話しかけられた。

「最近、良いことあった?綺麗になったよな」

「俺もそれ、思ってた。恋人ができたんじゃね?」

 店内にいた、顔見知りの海の男達がわたしにやいのやいのと聞いてくる。


「あははは。ありがとうございます。綺麗になりました?」

 どう答えようかと返事に困っていたら、勢いよく扉が開いてキーモンさんとアッサムがタイミングよく入ってきた。

 

「いらっしゃいませ」

「なんか、みんなで盛り上がってるな」

 キーモンさんの目が好奇心で爛々としている。

 

「リアーノちゃんが最近綺麗になったからさ、恋人が出来たんじゃないかって話をしていたんだよ」

 それを聞いたキーモンさんが、それはそれは悪そうなニタ〜とした顔でアッサムをチラリと見る。

「だってさ、アッサム」

 アッサムはあさっての方向を見ながら「そうなんだ」と生返事をしている。


 ドンッ!!!

「リアーノ、出来たぞ!」

 おじいさまがお皿に盛られた料理を勢いよくカウンターに置いた。


「なーるほど、そう言うことか。ダンさんも大変だな」

 男のひとりがアッサムに手で合図をしながら、目配せをしている。


「そういうことらしいぜ」

「そうか。そうか」

 海の男たちはなにに納得したのか、みんながいい笑顔でアッサムとわたしを見ている。


「少し、来るのが早かったな。あとでもう一度来るよ」

 アッサムがバツが悪そうにわたしに話しかける。


「ここにいろ」

 おじいさまがカウンター席を指さした。


 その後は、ランチタイムのお客様の波が引くと、おじいさまに強制的にランチを出されて、キーモンさんと3人でうちの食堂でランチをした。


読んでいただき、ありがとうございます。


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが上がります。



キーモン:おっ、アッサム久しぶりだな。おかえり!

    とうとう殿下業はクビになったのか?

アッサム:俺の仕事(殿下業)はなかなかクビにならな 

    いし、出来ないんですよ。

キーモン:俺の情報網ではそうでもないらしいぞ。

    舞踏会で婚約破棄騒動を起こしたり、

    悪い女に操られてクビになる「殿下」が

    あちこちの国で続出らしいぞ。

アッサム:なるほど!そういう手があるんですね!

キーモン:えっ?まさかの転職希望?

アッサム:登録だけでもしておこうかな〰︎笑


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