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姉からの叙事詩と栞

第2章開始です。

第2章から初めて読んでくださる方や第1章を読んだけど忘れた方は、第1章から読んでいただくことをオススメです。

アッサムの秘密やリアーノの出生については第1章でご確認くださいね。もちろん、どんな事件に首を突っ込んだのかもご確認ください。

 わたしの名前はリアーノ。

 このセイサラ王国の第2の都市、貿易がさかんな海沿いの港町で食堂を営むおじいさまとおばあさまと3人で暮らしている。

 このセイサラ王国は半年ほど前、建国300周年記念式典を無事に終えた、古くから続く王国だ。

 その式典では得意の飾り字でのカード作りの腕を買われて、王宮での記念式典の招待状作りに携わり、そして思わぬことに我が国の宰相の偽札偽造事件や隣国ニシアでの密造酒と脱税の事件に関わることとなった。

 その事件の中でわたしの出生には大きな秘密があり、そして幼馴染のアッサムの秘密を知ることとなった。

 

 ガランガランと勢いよくお店の扉が開く。

「昼も過ぎているのに相変わらず今日もこの店は人が多いな」

 扉を開けるなり店内を見回す日焼けした筋肉質な大柄な男性。

「キーモンさん!お久しぶりです。帰ってこられたんですね。適当に空いているところに座ってくださいね」

 大股で歩き、空いているテーブル席を素通りして、迷うことなく調理場を見渡せるカウンター席を選ぶ。


「久しぶりにいつもの「帰れ!鶏肉へ」が食べたい。まだあるか?」

「大丈夫ですよ」

 おじいさまの食堂にきてくれたのは、お隣の家の幼馴染の兄弟の長兄で、実家が経営している貿易商の仕事を両親としているキーモンさんだ。

 

「リアーノ、アッサムはたまにでもリアーノに手紙を送ってきているか?俺にはさっぱりだけどな」

 ガハガハとキーモンさんが笑う。

 

(やっぱりキーモンさんにも心配させちゃっているのかな)

 

「たまに届きますよ。でも、わたしのほうから、アッサムにはあまり手紙を送ってこなくていいと言ってあるんですよ」

「そうか!アイツ、仕事ばっかりだから、とうとうリアーノに愛想をつかされたという訳だな」

 グフグフとキーモンさんが可笑そうに笑う。

 

「そうじゃないですよ!」

 なんだか変な汗が出て、声が大きくなって裏返ってしまう。

 おっと、これはイケナイ。

 声のトーンを落として、キーモンさんに耳打ちをする。

「アッサムも立場があるしね」


 そう。

 わたしの隣の家の幼馴染でもあるキーモンさんの弟のアッサム。

 いまは王都で仕事をしている。

 それも「殿下」という仕事だ。

 そして、わたしの「婚約者」でもある。

 まあ、婚約者っていうのは口約束なんだけどね。

 

「人を使っての手紙のやり取りが嫌なら、「鳩」を使えば良いじゃないか?」

 キーモンさんが少し声を潜めて話す。

「アッサムがたまに送ってくる手紙はすでに全部「鳩」ですよ。人だと、わたしが困惑するのをわかっているので」

「アイツ、職権濫用だな」

 また、キーモンさんは可笑しいことを聞いたとばかりにグフグフと面白そうに笑う。


 実はわたしは、食堂の娘以外にもうひとつの顔がある。

 それがセイサラ王国の隣国にあるニシア国という国の第二皇女である。

 でもその存在はなかったこととして隠されている。極々限られた人しか知らない事実。

 肝心のわたしでも、半年前に知ったのだから。

 姫がなぜ、食堂で働いているんだといわれると、生まれてすぐにいろいろあった訳で、わたしを育ててくれたおじいさまは元はニシア国の前陛下の王弟あたる人物だ。

 本当なら公爵という身分になっていたらしいけど、それは性に合わないとあっさり辞して、いまはこうして小さな食堂を隠れ蓑に、セイサラ王国とニシア国の両国の架け橋的な役割を担い両国間での表立って解決できない裏の仕事を引き受ける特殊部隊を率いているらしいが、全貌まではわたしもよく知らない。



 今日も食堂は忙しかった。

 港町は朝が早く夜は早いため、夕方には店を閉める。

 そして、まだ春先のため夕方には風も冷たくなる。

 夕食を終えて早々に自室に戻り、机の上に置いてある読みかけの本を手に取る。

 

 それは辞書かと思わせるような分厚い叙事詩が書かれた本。

 セイサラ王国や隣国ニシア国などがあるこの大陸の吟遊詩人や語り部たちの間で細く長く語り伝えられている出来事を物語として更に詳しく書かれているものだ。

 この本は、隣国ニシア国のわたしの双子の姉、ステファニー王女が王立図書館で大事に保管されている禁書を送り届けてくださった。


 王族のみが閲覧を許される本。


 ステファニー王女からの手紙には、「事実関係を知ることは大事」とだけ、書いてあった。

 わたしの出生の秘密の元になった伝説や王族のみだけが知っておけばいい悲劇の物語の数々。

 姉の短い手紙に多くの言葉が要らないのはよくわかる。胸が痛んで書けなかったのだろう。


 本には赤い花の栞が挟みっぱなしになっていた。

 間違いなくお姉様が途中で挟んで忘れたのだろう。

 次に会えた時に渡せば良い。

 古代の教会の挿絵があるそのページを開き、そっと抜いておいた。

 


 少しずつ叙事詩を読み進めるが、棍を詰めるのも良くない。

 ひとつの章を読み終えたところで、夜風にあたろうとベランダに出た。


読んでいただきありがとうございます。

少しずつですが、書いていきます。

よろしくお願いします。


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