小話 友人の披露パーティーにて
ダーリア殿とライラ嬢の結婚式
お時間があれば、読んでみてください。
待ちに待っていた招待状が届いた。
セイサラ王国の建国300年周年記念式典から3カ月。
レナード殿下の事務室の記念式典までという期限付きの仕事を終わってからこの3カ月いろいろあったが、いまは地元アマシアでおじいさまとおばあさまの食堂を手伝っている。
そして、アッサムの横にいても恥ずかしくないように勉強もはじめた。
基本的な貴族のマナーや知識は知らず知らずのうちに幼い時から、いつかニシアの王宮に戻る日が来ても困らないようにと、おじいさまとおばあさまに教育されていたらしい。
自分ではそういう勉強が普通だと思っていたがそうではなかったらしいと初めて気づいた。それでも、足らないところは多々ある。
いまはニシア国とセイサラ王国の両方のことを勉強する日々だ。
そんな食堂の手伝いと勉強の日々を報いるかのようにご褒美の招待状だ。
事務室での素敵な同僚、ライラさまとダーリア殿が1カ月後に結婚式をされるとのこと。
王都サハにある観光名所にもなっているミリ教会で挙式をされ、その後はダーリア殿のご実家で小さい披露パーティーをされるらしい。
王都サハまでは馬車で2時間ほどのところなので、当日におじいさまが馬車で送ってくださることとなった。
久しぶりの王都サハ。
早朝から上から下からの大騒ぎで支度を済ませた。
ドレスはニシア国の母が以前から用意をしてくれていた、あの潜入した仮面舞踏会で着た上品な濃紅のベルベット生地の裾に刺繍をあしらったベーシックなものだ。
首元には姉のデビュタントの時にお揃いで作ってくれていたダイヤモンドがひとつついているシンプルなネックレスをつける。
「うん。完璧ね。ニシアの王妃様のセンスは本当にいいわね。」
おばあさまがうれしそうにわたしを見ていたことを思い出して、ついつい笑顔になってしまう。
「リアーノ、久しぶりの王都で浮かれる気持ちはわかるけど、くれぐれも羽目を外さないようにね。夜はナンシーさんの食堂で集合だ。」
「はい。わかりました。おじいさまも羽目を外さないでくださいよ。」
「わたしはついでに仕事をしに行くんだよ。」
特殊部隊の長だとは言っていたが、わたしを降ろしたあとは一体どこに行くのだろう。
なんとなくわかるがここはあえて口にしないでおこう。
教会の少し手前で降ろしてもらった。
気持ちが先走り、少し早歩きになってしまう。
「そんなに急ぐと転げるぞ。」
後ろから聴き慣れた声が聞こえ、振り向くとそこにはアッサムがいた。
「ア、アッサム!…殿下…」
風にたなびく黒髪に優しげな黒い瞳。
今日は近衛騎士のような飾りの多いジャケットで上下を濃紺で揃えられ、これが黒髪と黒い瞳によく合っている。
あまりにもの凛々しさに声を失う。
よく見ると、アッサムもなにかに驚いていて、思わずわたしの前方になにかあるのかと、キョロキョロしてしまった。
慌てて道の脇に寄り、一歩下りカーテシをする。
「お久しぶりでございます。」
「リアーノ嬢、元気だった?」
アッサムに会ったのは1カ月前に砂浜でプロポーズをされた時以来だ。
あの晩は、うちの食堂が両国の王族貸切専用になったことは記憶に新しい。
本当に非現実だった。
「はい。ありがとうございます。元気にしておりました。」
「そう。良かった。」
アッサムは頻繁に手紙を送ってくれるが、わたしからは迷惑だろうと思い書いてない。
どう考えても、どんな理由があっても食堂の娘が第二王子に手紙を書くのはおかしい。
(ニシアの姫であることはまだ公表されていないしね。)
それが見つかってしまってはなおさら良くない。
今日はダーリア殿とライラさまの上司として、出席されるのだろうか。
アッサムが通り過ぎるのを待ち、護衛騎士の後に続くことにした。
一目、アッサムを見れたことだけでもうれしかった。
「リアーノ!!」
「ライラさま!!」
教会の控え室に伺うと、純白のドレスに身を包んだライラさまがおられた。本当にお綺麗だ。
「ライラさま、おめでとうございます。」
「リアーノ、ありがとう!」
お互い、手を握り合い、離れていた時間を埋めるかのようにギュッと力を込め、瞳に涙を浮かべる。
「ライラさま、本当にお綺麗です!」
「リアーノのドレス姿も綺麗だわ。」
「ありがとうございます。このドレス、あの潜入捜査の時にニシアで行った仮面舞踏会で着たドレスですよ。」
そう言うと、ライラさまが目を丸くされて、そして、お互い顔を見合わせてクスクス笑った。
「今日はゆっくりしていってね。」
「ありがとうございます。ライラさまの晴れ姿を目に焼き付けますね。」
荘厳な教会で静かに始まった結婚式はそれはそれは素敵だった。
自分も一度はあんな風に愛する人と結ばれて、愛を誓い合ってみたいと憧れるようなお式だった。
ダーリア殿がいつもより頼もしく見え、誓いの口づけをされる時など幸せそのもので胸が熱くなった。
それからは場所をダーリア殿の実家に移し、立食の披露パーティーが行われた。
わたしは顔見知りの他部署にいた同僚を見つけ、壁際でおしゃべりを楽しんでいた。
「リアーノ嬢、ご歓談中失礼。同僚のよしみでわたしと1曲踊っていただけるかな?」
周りにいた女性たちから悲鳴のような黄色い声が上がる。
もうみんな、口元に手を当て赤面している。
声を掛けられた方向に振り返るとアッサム殿下がおられた。
「…わたくしですか?アッサム殿下?」
「ええ。わたしの同僚だったリアーノ嬢、あなたです。」
相変わらず麗しく、吸い込まれそうな黒い瞳がわたしを映している。
アッサム、ありがとう。心でそう呟く。
そうやって、理由をつけてもらえば、アッサム殿下の手を取れる。
一気に注目を集め、少し緊張するがアッサム殿下の差し出された手を取り、広間の中央へと進む。
一度はドレス姿でアッサムと踊ってみたかったダンス。
夢のようだ。
アッサム殿下と向き合い、見つめ合う。
不思議とさっきまでの緊張が解けていく。
ワルツが始まった。
やっぱりアッサム殿下とのダンスは踊りやすい。
アマシアの実家の食堂でおじいさまたちの集まりで最後はダンスパーティーになって、よく一緒に踊ったことが思い出される。
「リアーノと踊るのは久しぶりだね。」
「そうね。だいぶ前の食堂のパーティー以来かしら。懐かしいわ。」
「ニシアの仮面舞踏会ではジークと踊ったんだろう。」
「ええ。誘われたので。」
「それを後で聞いて、俺は嫉妬で狂いそうだったよ。ドレス姿のリアーノをジークは独り占めだぞ。」
「仕事だったので仕方ないですよ。」
「それでも許せない。今日、初めてリアーノのドレス姿を見て、女神かと思うぐらい綺麗だった。もう、今日はこのまま誰の目にもリアーノを晒されないように、連れ去りたいんだけど。」
直球でそう言われて、思わず赤面してしまう。
「ダーリア殿とライラさまが困り顔になりますよ。」
「あいつら、先に幸せになってるから、少し困らせるぐらいがいいんだよ。」
思わず、アッサム殿下らしからぬ発言に笑ってしまう。
仲睦まじくダンスを踊るふたりに周りは目が離せない。
なぜか息ぴったりのダンスを踊り、なにを話しているかはわからないが、熱のこもった瞳で見つめ合うふたり。
アッサム殿下が麗しいのはもちろんだが、同僚だと言われて手を引かれていった女性が気品に溢れて、アッサム殿下と並んでも見劣りしない。
アッサム殿下の濃紺の服とリアーノ嬢の濃紅のドレスが広間の中央でクルクルと回る度に感嘆の声が漏れる。
その様子をダーリア殿とライラ嬢が微笑みながら見守っていた。
ありがとうございました。
もっとアッサムとリアーノを甘々で書きたかったのですが…
いつか、また激甘の日が来るでしょう。