小話 プロポーズ大作戦
本編の小話でアッサム視点です。
最終話で書ききれなかったところです。
リアーノがアマシアに帰った。
俺には直接なにも言わずに…
いつもなら、こういうことは自分でちゃんと言ってくるのに…
まさか、そんなことを他人の口から聞くなんて…
記念式典の後の舞踏会が遅くまで続いた。
もちろんあの倉庫にはずいぶん夜遅くに行ったけど会えるはずもない。
翌日の早朝には寮仲間何人かと連れ立って出発したらしい。
最近はどうやら避けられているようで、倉庫に行っても全く会えない日々だった。
記念式典の少し前にお互いの気持ちを確かめ合えたのにそれ以降、ずっとすれ違っている。執務室でも声を掛けようにも多忙でなかなかタイミングがなかった。
もう、どう考えても意図的に避けられているとしか思えない。
どうして…
理由はなんとなくわかっている。
嫌な予感しかしない。
ライラ嬢はどうやら事情を知っているようで、執務室では俺をジト目で見てくる。
なにか知っているなら教えて欲しいんだが、なかなか私的な話をするチャンスがない。
ダーリア殿もライラ嬢経由で知っているのか、気の毒そうに見てくる時がある。
たまたま、ダーリア殿が執務室に書類を持ってきてくれたタイミングで2人きりになれたので、ここぞとばかりに聞いてみた。
「ダーリア殿、少し聞きたいことがあるんだがいま少し時間は良いだろうか?」
「はい。アッサム殿下。どうかされましたか?」
「いや、実はリアーノのことなんだが… そのライラ嬢からなにか聞いてないか?」
ダーリア殿がピクッとした。
「…それは…。」
ダーリア殿が俯いて黙ってしまった。
「答えにくいことを聞いてしまったね。リアーノがここの仕事の継続の打診を断って帰ってしまった理由を知りたくて…。」
「…あ、それは…。」
ダーリア殿も正直な人だ。
なんとも言えない気まずそうな顔をしている。
俺に面と向かって言いにくい理由なんだと察することができた。
「俺が理由だよね。」
「そうですね…。」
正直なダーリア殿は肯定してくれる。
「やっぱりそうか…。」
「…アッサム殿下、事態は相当悪いですよ。」
「?」
堰を切ったようにダーリア殿がしゃべり始める。
「ライラが言うには、少し前からジークフリート殿がリアーノ嬢に猛アタックしていそうだと…」
「えっ?」
「いえ、確証はないんですが、宰相の事件の後にジークフリート殿が帰国された直後から、リアーノ嬢の様子がおかしかったと…。」
ダーリア殿が大きくため息を吐く。
「アッサム殿下、おふたりが想いあっておられる仲なのはわかっておりますが、それ故にこのままだと打ちひしがれるリアーノ嬢をまんまとジークフリート殿に持っていかれますよ。」
以前からジークがリアーノに気がありそうなのはわかっていた。だから、ジークの存在は警戒していたがすでに行動に起こしていたのか!
「…ありがとう。ダーリア殿。少し状況が掴めました。」
想像するにダーリア殿が言われる通り、相当状況が悪い。
リアーノは身分のことを気にしていた。王子と食堂の娘だと、だから一緒にはいれないと言っていた。
リアーノは俺の身分のことを思って、変な噂が立つ前にと身を引いたのだろう。
リアーノの幸せを考えると、ジークとニシアに行く方が幸せになるに決まっている。
あのジークなら、リアーノを幸せにできるのは間違いない。
でも、でもだ。
リアーノが俺の知らないところであの可愛らしい笑顔をジークに向け、これからの人生をふたりが手を取り合い歩んでいくだなんて想像すると耐えられない。リアーノのすべては俺のものだ。
もう、諦めない。
俺がリアーノを幸せにしたい。
とにかく、俺が持っているすべてのカードを駆使しよう。
まずはダン爺に協力の要請の伝書鳩を飛ばす。
すぐに返事が来たが、これがまた最悪の事態が書いてあった。
アマシアの食堂にジークがもうすぐ居候しに来ると。
もう、最悪だ。
今すぐにでもアマシアに帰りたいが、立場があるいま、飛び出して駆けつけることは出来ない。
何事も粘り強く根回しだ。
早る気持ちをグッと抑える。
リアーノの気持ちが簡単に変わらないと信じているが、もし、ジークにニシアに攫われたらジークの身分といい、他国ということもあり、手も足も出なくなる。
善は急げだ。
ニシア国に訪問をする許可をもらうために気づけば、陛下の部屋に駆け込んでいた。
陛下に、ニシア国も双子の秘密があるということは話せないので、リアーノの存在も話すことが出来ず、ニシアには先日の記念式典のお礼の訪問に行きたいと話したが、ホーシャック室長が先にあることないこと報告していたのか、ニヤニヤされながら許可をくださった。
一体、ホーシャック室長は陛下になにを吹き込んだのだろう。
ようやくニシア国への訪問をこぎつけた。
今回は仰々しいのは避け、非公式の訪問扱いにしてもらい、ダン爺というニシア国に縁の深い心強い味方と合流する事ができた。
「なあ、アッサム。本気か?」
「ええ。ダン爺が来てくださって感謝しています。俺は本気ですよ。リアーノと一緒になれるためなら、なんでもしますよ。」
「そうか。ようやくだな。アッサムの気持ちはアマシアにいる時から気づいていたよ。リアーノが好きな人間と一緒になって幸せになるなら、俺もなんでもするぞ。いまのリアーノは空元気で、見ていて痛々しいからな。でも、身を引くことを考えるなんて、真っ直ぐなあの子らしいよな。」
ダン爺がリアーノを思い浮かべたのか、フフと笑う。
「ありがとうございます。頼りにしています。ニシア国王ご夫妻にリアーノとの婚約を許してもらえるようがんばりますよ。それには双子の話しもしないといけないのが辛いところですが…。」
「そこは俺に任せろ。文句は言わせない。」
ダン爺の気持ちが嬉しい。
王宮では、ニシア国王ご夫妻にステファニー王女殿下と婚約者のフィリップ殿が歓迎してくださった。
(ジークが不在なのが気になるところだが…。)
ステファニー王女殿下は、話しに聞いたとおりリアーノと双子だけあって、よく似ている。
ダン爺が自分の家のように王宮を知り尽くしているのには正直驚いたが、よくよく考えてみたら、普段は意識していないが、ニシア国の先代陛下の王弟でここで生活をしていたんだから、当然だと言えば当然だ。
事情を察しておられるのか、ニシア国王は人払いをしてくださった。
「先日は我が国の建国300年記念式典にご出席を賜わり、ありがとうございました。」
「アッサム殿下、硬い挨拶は抜きにしよう。」
ニシア国王のリアーノと同じ紅茶色の瞳が優しい。
「今日、こちらに伺ったのはプロポーズはまだなのですが、リアーノ嬢にプロポーズの承諾をいただいたあかつきには、婚約を許して頂きたくお願いに参りました。そして、そちらの事情もわたしは幼い時から理解しておりますが、出来ればリアーノ嬢をニシア国の姫として、婚約をさせていただきたく存じます。」
ニシア国王ご夫妻が顔を見合わせている。
ステファニー王女殿下もフィリップ殿と顔を見合わせている。
少し間がある。
良い反応なのか、それとも…
「アッサム殿下、ありがとうございます。」
ニシア国王が満面の笑みで泣きそうな顔をされる。
「えっ?」
「アッサム殿下、わたしたちは貴方の横に座っておられるダン叔父さまから、ずっと昔から貴方のことも聞いております。小さいリアーノの面倒を本当によく見てもらっていたと。大人になってからもずっと守ってもらっていたと。なんと、お礼を言っていいのか…。」
王妃さまに至っては、ステファニー王女殿下と手を握りあって興奮しておられる。
チラッとダン爺を見れば、嬉しそうに頷いてくれた。
「あの… では、お許しいただけるんでしょうか?」
「もちろんだよ。そして、ニシアの姫としてリアーノをよろしく頼む。」
「でも…それは…。」
「ご存知の通り、我が国も双子伝説によって、私たちは苦しんできました。セイサラ王国には一歩先をいかれてしまいましたが、我が国も機会を作ってでも、リアーノのことは公表しようと考えていたところなんです。」
「そうだったんですね。本当にありがとうございます。」
来て良かった。
ニシア国王夫妻はしっかりリアーノのことを考えてくださっている。
心が感動で震える。
「あの…それでですが、この婚約にあたり、わたしの父にニシア国の双子の伝説の話しをしてもよろしいでしょうか?」
それを聞いて意味ありげにニヤリとニシア王がされる。
「もう昔からご存知ですよ。セイサラ王もホーシャック公爵もダン叔父さまもみんなグルですから。」
「!!!!!」
「どうされました?アッサム殿下。びっくりされましたか?わたし達はずっと、こんな日が来ることを楽しみにダン叔父さまを通じて、連絡を取ってきたんですよ。」
横を見ると、ダン爺もそれはそれは悪い顔ですごい笑顔だ。
「貴方を試していた訳ではないのですが、今までずっと我が国の秘密を守ってくださっていたお人柄から、とても誠実な方だと拝察いたします。貴方のような方なら、安心してリアーノを託せます。ぜひ、リアーノにプロポーズして承諾を得てください。心から応援します。」
俺は唖然としながらも、これまた大人達に見守られてきたんだと、改めて知ることができた。
セイサラ王国に帰ったら、1番に陛下…父に会いに行こう。
そしてその後、あり得ないことが起こる。
アマシアの小さな食堂に両国の陛下ご夫妻が集まるという奇跡。
本日もありがとうございました。
また、不定期に書いていこうと思います。
よろしくお願いします。