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舞踏会の外で

「突然びっくりしたわね。」

 ライラさまはさっきの陛下の挨拶について、かなり衝撃的だったんだろう。それはわたしも同じだ。

「本当に… これから、レナ…いや、 アッサム殿下の執務室や事務室もいろいろ変わりそうですね。」

 わたし達は、王宮の長い廊下を歩きながら、受付で使用した道具を事務室に運んでいる。

 ライラさまが大きくため息をつかれる。

「ねぇ、リアーノ。本当に今日で仕事終了するの?」

「はい。いままで大変お世話になりました。明日の朝に記念式典までの契約で終了した方が寮に何人かいたので、その方達と途中まで一緒に帰る予定です。」

「…そうなのね。淋しくなるわ。わたし達の結婚式には招待状を送るから来てね。」

「ありがとうございます!楽しみにしていますね。」

「それから、またここで働きたくなったら、いつでも来てね。リアーノなら大歓迎よ!」

「ライラさま、ありがとうございます。」

 本当はこれからも一緒にライラさまや事務室のみんなと仕事を続けられたら素敵だなと思うが、身代わりのレナード殿下にならなくてもよくなったとはいえ、アッサムは第二王子には間違いない。

 これからのアッサム殿下のお立場に邪魔になってはいけない。


 事務室で、式典から戻ってその後の舞踏会から逃げてきたホーシャック室長や留守番をしていたダーリア殿にもお別れの挨拶を済ませた。

 あとはジークを探すのみだ。

 ジークには、ザッハでのことや、その他いろいろ親切にしてもらった。アッサムが「アッサム殿下」になることを見越して、わたしが悲しまないようにと付き合おうと婚約までしようと言ってくれた。

 いくら友人とは言えども…ジークもニシア国では筆頭公爵家の次男だ。平民のわたし相手になにを考えているんだか…。

 とにかく、先日のことは記念式典で返事をすることになっている。

 恐らく、いま大広間で行われている舞踏会にジークも出ているんだろうけど、平民のわたしは入れない。

 大広間のロビーから続く渡り廊下で目立たないように、月でも眺めてジークが出てくるのを待つことにする。

 微かに会場の音楽が漏れ聞こえ、人々の笑い声なども聞こえる。


 良かった。


 良い雰囲気でアッサム殿下のお披露目も兼ねた舞踏会は進んでいるようだ。

 少しばかり、アッサムの凛々しい正装姿を最後に目に焼き付けたかったと思うが…

 アッサムは誰とファーストダンスを踊ったんだろうか。

 綺麗なご令嬢方の手を取り、あの優しい眼差しを向けて踊ったんだろうか。

 想像するだけで胸が痛い。

 

 半刻は経っただろうか。

 やっとジークが出て来た。

 でも、思っていたよりは早くて良かった。

 渡り廊下から、慌ててロビーに走る。

「…ジーク!!!」

「リアーノ!なにをしているんだ?」

「うーん、ちょっとね。少し、一瞬だけ時間ある?」

「いいよ。酔いを覚ましに出てきただけだからな。」

「良かったわ。あっちに…」

 人に見られてはジークも迷惑だろうと思い、渡り廊下を指差し、一緒に歩いていく。

「ジークにこの間の話しのことを…」

「ちゃんと考えてくれたんだ。ありがとう。俺は本気だよ。」

「ジークの気持ちは本当にうれしいわ。でも…ごめんなさい。」

 ジークが立ち止まる。

「アッサム殿下か?」

「アッサム殿下は関係ないわ。」

「じゃ、俺が嫌いか?」

 首を横に振る。

「むしろ、好きよ。でも友人として。わたしはアッサムを愛しているわ。だから、そんな気持ちでジークの横にはいれない。」

「俺はそれでもいいよ。リアーノはアッサム殿下の側にいれるのか?」

「それは…ないわ。わたしはアッサム殿下の側にはいれない。ジークもわかるでしょう。」

「それなら、俺の側にいろよ。絶対にリアーノを泣かすようなことはしない。」

 気づけば、涙が頬を伝っている。

 慌てて、袖で拭う。

「リアーノ、俺はいまのありのままのリアーノでいい。アッサム殿下を好きなリアーノでいい。俺の側にいて、少しずつ俺の方を見てくれたらいいから、ニシアに来ないか?」

 ジークの気持ちが伝わってくる。わたしを想っていてくれたんだ。

「ジーク、ありがとう。その気持ちだけでうれしい。ニシアにはまた、友人として遊びに行くわ。」

「…今回はわかった。でもリアーノはひとつ、忘れていることがあるから言っておく。俺はリアーノの「義兄の弟」でもある。」

「???」

「やっぱりなぁ。あえて言わせてもらうが、俺の兄はステファニー王女殿下の婚約者。ということは、兄が結婚したらステファニー王女殿下の妹のリアーノと俺は親戚。だから、親戚のお兄様と思って、いつでも俺を頼ってくれ。」

 

(ああ!いままで孤児だと思っていたから、その概念はなかった!)


「ありがとう。そっか…正式ではないけれど、ジークと親戚になるのね!思ってもみなかったわ。」

 お互いに顔を見合わせて、声をあげて笑い出す。

「あのね、ジーク。では、「義姉の妹」から厚かましいお願いをしてもいい?」

「なんだ?」

「さっき、ジークを待つ間ずっと考えていたの。いつか、アッサム殿下は貴族のご令嬢と結婚するでしょう。王子の結婚だなんて嫌でもいろいろな噂は耳に入ってくるはずだわ。その時にまだわたしの心の整理が出来ていなかったら、ずっと泣いているかも知れない。その時はわたしを元気づけてもらっていい?」

「お安い御用で。いつでも俺を頼って。」

「ありがとう。頼りにしているわ。」


 ひとりでがんばって耐えられる自信はある。

 その覚悟は出来ている。

 ジークの優しさに甘えないように、ジークとこんな約束をして自分を律しよう。


本日もありがとうございました。

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