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式典の朝

 多くはない荷物の荷造りをしてから、悶々とベットでこれからのことを考えていたら、あっという間に朝になってしまった。


 今日は記念式典の日。

 気に入っていた白ブラウスに深緑のふわふわロングスカートの制服を着るのも今日で最後だ。今日のために支給されたスカートと同じ深緑色のジャケットを羽織って部屋を出る。

 初めて事務室に来た時、この事務室の扉が荘厳過ぎて開けることを躊躇したことがまだ半年前のことなのになんだか懐かしい。


 「おはようございます。」

 ダーリア殿とライラさまが既に出勤されていた。

 「「おはよう」」

 昨日、お茶をしている時にライラさまがアッサムとわたしの仲を大変心配してくださったが、今日はなにもなかったように普通に接してくださり、それが大変ありがたい。

 

「今日は室長はレナード殿下に同行される。僕は事務室の留守番。リアーノ嬢とライラは受付の担当をよろしく頼むね。」

「はい。ありがとうございます。がんばってきます。…あの、ダーリア殿。ライラさまとのご婚約、おめでとうございます。」

 これだけはお会いしたら、すぐに言いたかった。

 ダーリア殿が慌てて、ライラさまを見られる。ライラさまが満面の笑みでこちらを見て、ひらひらと手を振られる。

「昨日、ライラさまに教えていただきました。」

 ダーリア殿が真っ赤にされながら、ぎこちなく笑われる。

「ありがとう。」

 なにか言いたげなダーリア殿だが、そこは気づかないようにして、受付に持っていく物の準備を始めた。


 記念式典は王宮の中の大広間で行われるが、受付は大広間前のロビーだ。明るく広々としていて、赤い絨毯敷なのが更に高級な雰囲気を醸し出している。

 他部署の文官や警備の騎士の方などとの打合せや準備を終えて、あとは招待客を待つのみとなった。

「ライラさま、昨日は大変ご心配をおかけしました。」

「…心配、いまも心配しているわよ。」

 ライラさまが目を細めてこっちをジロリと見る。

「…もしやなんか怒っています?」

「そうよ。リアーノが変な方向でがんばろうとするんだもの。」

「…すみません。もう、それしかアッサムを守る方法を思いつかなくて…」

「リアーノはそれで自己満足できても、アッサムの気持ちはどうすればいいの?」

「じ…自己満足。おっしゃるとおりですね。でも、きっとアッサムの気持ちは時間が解決してくれると思います。それこそ、ほらあそこにおられるような綺麗なご令嬢とかと…か、家庭と…」

 全然駄目だ。

 自分の気持ちをコントロール出来ると思っていたのに…

 涙が出そう。堪えろ。

「… あー、家庭とか持たれたら、ほら、綺麗さっぱりわたしのことなんて、忘れちゃいますよ。」

 いま一番の笑顔を決めて見せる。

 ライラさまが大きくため息を吐く。

 まだ、話していたかったが招待客が受付に来られる時間になり、次々から次へと対応に追われて、それ以上の話をする時間はなかった。


「ジークフリート・フォンデル様ですね。お待ちしておりました。」

 ライラさまの声がワントーン上がる。

「リアーノ、フォンデル様よ。」

「は、はい!」

 リスト表にチェックを入れようと必死に探す。

「リアーノ!!」

「?はい?」

 若い男性の声が頭上からして、リスト表から顔を上げると相変わらずサラサラ金髪の端正な顔立ちのジークが立っていた。

「ジーク!!」

 そうだ。ジークは隣国ニシアの筆頭公爵家の次男だ。フォンデル家には招待状を送っていたと記憶を辿る。

「リアーノは元気そうだね。」

「ありがとうございます。ジークもみなさまもお変わりありませんか?」

「ありがとう。みんな、元気だよ。今日は父と出席させてもらうよ。兄は留守番だけどね。」

「そうなんですね。フィリップ様に会えないのは残念ですが、みなさまお元気でよかったです。」

「ところでリアーノ、いま少しだけ時間ある?」

 チラッとライラさまを見ると、ライラさまが見えないように小さく指でマルを作っている。

「少しだけなら、席を外せます。」

「じゃ、あの渡り廊下を渡って右に曲がったところで待っているから。」

「わかりました。すぐにいきます。」

 ジークは先に歩き出した。

「ライラさま、すみません。少し行ってきます。」

「もう、ほとんど最後だからゆっくりしてきてね。」

 なんだか、意味ありげに早く行きなさいと言わんばかりに手でしっしっと急かされる。

「ありがとうございます。」

 小声で話すと慌てて席を立ち、ジークを追いかけた。


 渡り廊下を曲がったところでジークとおじいさまが待っていた。

 来賓者の待機室がずらりと並ぶところだ。


「おじいさま!!!」

「やあ!リアーノ、久しぶりだね。元気かい?あれ以来か?」

「そうよ!おばあさまは元気?」

「もちろん元気にしているよ。毎日、リアーノがいなくて淋しいと言っておるわ。」

「さあさあ、みなさまがお待ちかねですよ。」

 ジークがニコニコして来賓者の待機室の扉を指す。

「そうだ。積もる話は後で、先に会ってきなさい。」

 おじいさまもジークもうれしそうだ。

「リアーノ、ニシアの陛下ご夫妻と俺の父が中におられる。緊張しなくて大丈夫だからね。」


やっぱり。

この扉の向こうに本当の両親がいるかと思うと自然に身体が強張る。

一度、深呼吸をする。


ジークが扉をノックして、そっと開けてくれた。


部屋の中央にある応接セットに中年の男女が3人、楽しそうに談笑をされていた。

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