真実
改めてアッサムの方に向き直り、まっすぐにアッサムを見る。
「聞きたいことって、なに?」
「ジークから聞いたの。アッサムはいずれレナード殿下になるって。どういう意味かは教えてくれなくて。自分で聞いてみろって。」
アッサムの目が大きく見開く。
「アッサムはジークの言葉通り、「レナード殿下」になるの?」
そのまま、表情を崩さないアッサム。
「リアーノ、その通りだ。」
しばらく沈黙が続き、その静寂を破るかのようにアッサムの言葉だけが低く響いた。
「その言葉どおり、俺はレナード殿下の身代わりでなく「レナード」になる。」
全く意味がわからない。
レナードになるってどういう意味?
レナード殿下はお体が弱くて、外に出れないからアッサムがその代わりをしていたんだよね?
「ごめん。アッサムの言っていることが全然理解できない。」
アッサムがなにかを決意したようだ。その眼差しには強い決意が見て取れる。
「リアーノ、落ち着いて聞いて。本当のレナード殿下は6年前に亡くなっているんだ。俺はレナード殿下と双子だった。」
な、な…んて…
「アッサムも双子…?」
「そうだよ。リアーノとステファニー王女殿下と同じように俺とレナード殿下も双子だ。セイサラ王国の王家も双子は不吉とされるから、俺は命は狙われはしなかったけど、リアーノもよく知っているアマシアの家族に預けられた。」
隣の家のおじさま、おばさま、だいぶ年上の兄様の顔が思い浮かぶ。
「でも、本当のレナード殿下が病気で亡くなっても王家は俺がいたから亡くなったことを公表せず、ここ数年は俺がアマシアと王都サハを行ったり来たりで、病弱設定でレナード殿下の身代わりをしていた。」
…レナード殿下が亡くなっている…。
しかも数年という長い年月をアッサムは身代わりをしていた。
全然気づいてなかった…
「アッサムが船で隣国に行くと言って出掛ける時はすべて、レナード殿下の身代わりでサハに行ってたの?」
アッサムは1〜2ヵ月いなくなることが多かった。そして、ひょっこり戻ってくる。時々、甘いお菓子のお土産を持って。
それがうれしかったのもよく覚えている。
「さすがに全部でないけど…。アマシアで実家の仕事をずっと手伝っていこうと兄さんと仕事をしようと幼い頃から思っていたから、レナード殿下が亡くなってからも時々は船に乗っていたよ。さすがに危険だと乗せてもらえなくなったけど。だから、俺がいなくなる大半はサハで第二王子としての勉強で出ていた。」
アッサムが少しひと呼吸おく。
「今回の記念式典で「レナード殿下の全快」が発表される。今までは表の仕事は少しの慰安訪問とたまにの御前会議ぐらいしか出ていなかったけど、これからは式典にも出たりと表舞台に多く出るようになる。」
その意味がよくわかる。
胸が張り裂けそうだ。
「ジークは、「レナードの全快を記念式典で発表をするから、今後もレナードをよろしくお願いします。」と陛下からお言葉があったんだ。ジークは俺がアッサムだと知っているから、それで気づいたんだね。」
アッサムが寂しそうに微笑む。
「…アッサム…」
「…突然、こんな話をしてごめんな。いつ、リアーノに伝えようかとずっと考えていたけど、いまになってこんな形でごめん。」
「ううん。アッサム、こんな大事なことをありがとう。でも、こんな大事なことをわたしに話してよかったの?」
「リアーノには知っていて欲しかった。最後にアマシアを出る時にリアーノにこのことを伝えたたり、俺の気持ちを伝えたかったけど、アマシアに残されるリアーノことを考えると勇気がなかった。もう、会えない覚悟をしてアマシアを出たのにここで会えるなんて…」
アッサムが言葉に詰まる。
そして、目でなにかを訴えてくる。
「リアーノ、おいで。」
隣に座っていたアッサムがわたしの手をグッと引っ張り、アッサムに引き寄せられる。
座りながら引き寄せたわたしを後ろからアッサムが包んだ。
背中にアッサムの温もりを感じる。
アッサムの太い腕が後ろからまわってきて、ぎゅっと強く抱き締めてきた。
アッサムはわたしの後髪に顔をうずめるようにして話しだした。
「リアーノも自由も何もかもを諦めて、アッサムの名を捨てて、記念式典を境にレナードにならなければならないと決心して、死んだようにここで仕事だけをしている俺の目の前にリアーノが突然現れた。」
うん。うん。
あれはわたしもびっくりした。
初めて、「レナード殿下」にあった時は麗し過ぎてアッサムだと気づかなかった。
「俺はここに来てからリアーノを諦めたことをずっと後悔していたんだ。自由は諦められる。けど…リアーノだけは攫ってでも連れてこれば良かったと…。真実や俺の気持ちを伝えておけば良かったと。あんな後悔をするぐらいなら、絶対もう2度と同じ過ちはしない。」
アッサムの腕がさらに強くわたしを抱きしめる。
「リアーノ、もう離さない。ずっと俺のそばにいて欲しい。」
本日もありがとうございました。