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帰国

「ジークフリート殿、どうされたんですか?」

 さっきまでアッサムだったのに、スッと冷静なレナード殿下モードに戻り、なにもなかったように澄ましている。


「ニシアでのことの報告と昨日は渡すだけになってしまった証拠品の説明にきました。」

 ジークは少し不機嫌そうだ。

「ありがとうございます。貴方からもいろいろとお話しを伺いたいと思っていたところでした。お座りください。」


 レナード殿下は真正面でジークはわたしの横に座った。

「で、…リアーノはなぜ泣いているんですか?」

 ジークがすかさずに突っ込んで聞いてくる。

「あの…ジーク、レナード殿下は貴方も知っていると思うけど、わたしの幼馴染で幼馴染の顔を見たら、なんだかホッとしてしまって涙が出ただけよ。心配してくれてありがとう。」

「ジークフリート殿、そういうことだ。他になにもないよ。」

 レナード殿下がジークに微笑む。

「…わかりました。そういうことだったんですね。」

 不服そうだが納得してくれたようだ。


 その後は2人でニシアのユーデステル伯爵家であったことの詳細を報告した。


「わかりました。ありがとうございます。」

 レナード殿下はわたし達の報告をひと通り聞くと、ふぅとため息をついた。

 レナード殿下が少し疲れた表情をする。

「レナード殿下、大丈夫ですか?」

「いえ、ダナン宰相が思っていた以上に前から計画的に犯行を進めていたのかと思うとね、なぜもっと早く気づかなかったのかと、あの時の自分はなにをしていたんだと悔やまれます。」

 レナード殿下は俯きながら拳を握った。


「ところでジークフリート殿。ダナン宰相の処罰についてだが、おそらく裁判の後に流刑になると思われる。ダナン公爵家は長男も密造酒を販売していた罪があるので、公爵家は次男が継ぐ方向になりそうだ。」

「そうなんですね。1年ほど潜入していましたので、わたしが去った後のことが気になっていたのですが、使用人のみんなにはなにもお咎めがなくて良かったです。リアーノを無事に送り届けられたし、これで安心してニシアに帰れます。レナード殿下との約束も守れましたしね。」

 ジークがニヤッとしながらレナード殿下とチラッとわたしを見る。


「ジークフリート殿には本当にお世話になった。感謝しています。ニシア国の王家に、貴方のご実家のフォンデル公爵家にも大変お世話になりました。みなさんによろしくお伝えください。」

 レナード殿下が少し照れながら、お礼を述べた。

「いえ、こちらこそ、いろいろありがとうございました。ゆっくりお話しをしたいとこですが、ニシアでのこの件の後処理がありますので、昼にサハを発ちます。」

「わかりました。陛下がお会いしたいとのことなので、いまから少しお時間を頂いても良いですか?」

「大丈夫です。」

「では、いまから行きましょう。」

レナード殿下が立ち上がり、わたしもソファから立ち上がろうとした時、横にいたジークに片手を掴まれた。

「レナード殿下、リアーノをニシアに連れて帰りたいのですがよろしいでしょうか?」


「えっ??」

 あまりにも突然のジークの発言に、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「ジークフリート殿?」

 レナード殿下も驚きを隠せない。

「いや、だからリアーノをニシアに連れて行きたいので許可をお願いします。」

「ジーク、突然どうしたの?」

 ジークに片手首をがっちり掴まれ、身動きが取れない。

「リアーノはニシア国の王家の姫君でもあられる。皆がリアーノの帰りを待ち望んでいます。」

「…ジーク。」

「リアーノ、ステファニー王女殿下も昨日、離れがたそうにしていらしたのは、よくわかっているだろう。君達には姉妹としての時間が必要だ。それに陛下だって、そっと君をアマシアまで見に行かれたぐらいだ。」

「…それは…。」

「リアーノはここにいても意味がないだろう。本当の両親に会いたくないか?」


 会ってみたくないと言えば嘘になる。

 でも、いまは…


「リアーノ嬢はどうなんだ?わたしは反対できる立場でもないからね。」

 レナード殿下がわたしを真っ直ぐに見てくる。

 まるでわたしの瞳に宿る気持ちを探るように見つめてくる。


 レナード殿下がひと呼吸を置いた。

「リアーノの気持ちを尊重するよ。」

 低く落ち着いた声だ。


 いまのはアッサムとしての発言だね。

 わたしは一瞬アッサムにどんな言葉を期待した?

 行くなと言って欲しかった?

 言って欲しかった… 行くな… と。

 悲しくなる気持ちをグッと堪える。


「…いまは…仕事でこちらにお世話になっているので記念式典まではしっかり与えられた役目を果たしたいと考えています。それが約束でもありますので。」


「リアーノはそれでいいのか?」

 ジークがわたしの方に向き直って両手首を掴んだ。

「ジーク、いろいろありがとう。とりあえず、記念式典までは精一杯仕事をして、それから先のことはゆっくり考えるわ。」

 ちゃんと、笑顔で言えているだろうか。


「それではいつかきっと君は傷つくことになる!だから、俺と一緒にニシアに来いよ!」

「…ジーク。でも、今は仕事があるし…」


「ジークフリート殿、わたしからもお願いする。リアーノ嬢の事情はわかっているつもりだ。今回はリアーノ嬢の気持ちを尊重して、記念式典まではこちらで仕事をしてもらう方向で良いだろうか?」

 レナード殿下が助け舟を出してくれる。

 

ジークは納得できないようではあるが。

「今回だけですよ。次はニシアに絶対連れて帰ります。次からは俺がリアーノを守りますから。」

 レナード殿下が目を見開く。

「それはどういう意味?」

「言葉通りですよ。レナード殿下がリアーノを守らないんなら、俺がそばで守ると言っているんです。」


本日もありがとうございました。


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