抱擁
「おはようございます。」
久しぶりに事務室に出勤だ。
「リアーノ!おはよう!」
「え、ライラさま!!」
這いつくばるようになんとか起きて、出勤してきたけれど、これはうれしい!自然と元気が出る。
「ライラさまは今日からこちらに戻れるんですか?」
「今日は昨日、みなさんが帰られてからのことを報告に来たけど、王宮から派遣される文官と引き継ぎが終われば戻れるわ。」
「そうなんですね!早く帰ってきてくださいね!」
「すぐ戻るわ。記念式典までもうすぐだし、仕事が溜まってえらいことになっているわよ。」
机の上に無造作に置かれた書類の山々にライラさまが目を向ける。
「おおっ。えらいことになっていますね。」
一部始終を聞いていたダーリア殿も苦笑いをしていた。
「ホーシャック室長はまだ出勤されていないけど、レナード殿下はもう執務室にいらっしゃっているわよ。ご挨拶に行ってきたら?」
一瞬で心拍数が跳ね上がる。
ライラさまは満面の笑みだ。
「そ、そうですね。昨日は報告出来なかったので、報告に行ってきます。」
心拍数が跳ね上がって挙動不審になりそうなのがバレないように、そそくさと事務室を出て執務室に向かう。
扉をノックする前に深呼吸をして、なにを報告するのか頭の中を整理する。
あり過ぎて… 考えが上手くまとまらない。どれから報告しようか。
考えても仕方ない。腹を括ってノックをする。
「失礼します。リアーノです。レナード殿下、いま少しお時間よろしいですか?」
レナード殿下がガタッと執務机の椅子から立ち上がった。
「…どうぞ。中に入って。」
ゆっくりと扉を閉めた。
レナード殿下が長い黒髪の束を揺らしながら早足で近づいてくる。
眼鏡の奥の瞳と目が合った。
「リアーノ」
腕が広げられたと思ったら、ギュッと抱きしめられた。
それがぎゅうぎゅうとどんどん力が込められる。
少し痛いけど、でもなんだかホッとする腕の中。
額をレナード殿下…いや、アッサムの胸にそっと預ける。
「…アッサム…。」
「リアーノが無事で良かったよ。いろいろ大変だったな。大丈夫か?」
「…うん。元気よ。大丈夫。」
「…ごめんな。結局、リアーノをニシアで大変な思いをさせてしまったな。」
さらにアッサムの腕に力がこもる。
全てを知っていて、ずっとわたしをこうやって全部を包み込むように守ってきてくれたアッサム。
「…アッサム、ありがとうね。おじさまから全部聞いたわ。」
「そうか…。」
アッサムの腕の中から顔を上げ、眼鏡の奥の黒い瞳と見つめ合う。
その優しい眼差しを見つめていると、涙が溢れそうだ。
「…アッサム、…なにから話そうか。」
やっとのことで言えたのに声が震える。堪えていたのに涙が一筋流れた。
アッサムがわたしの頭をポンポンと撫でてくれ、とうとう涙腺が決壊した。決壊するともう止まらない。
しばらく、抱きしめられたままアッサムの胸を借りて泣いた。ニシアから帰ってくるまで、我慢をしているつもりはなかったから涙なんて忘れていた。
なぜ、いまはこんなに涙が出るんだろう。
「リアーノ、落ち着いた?」
「うん。ごめんなさい。泣き過ぎました。」
アッサムが優しく微笑む。
「ここに座って。」
応接セットのソファに手を繋がれたまま、座るように促された。
その時だった。廊下が騒がしい。
「ジーク様、少しお待ちください!!!」
ライラさまの声が聞こえたかと思うと、執務室の扉がノックされ、扉が開けられた。
「レナード殿下、失礼します。ジークです。」
ジークは目が真っ赤であろうわたしを見て固まった。
「レナード殿下、なにリアーノを泣かせているんですか。」
ツカツカツカとジークが入ってきた。
「…だから、目が離せないんだよ…。」
小さく呟き、ベリっと繋がれていた手を離した。
「ジーク、違うの!わたしが勝手に泣いてしまったの!」
ジークが怖〜い視線を投げてきた。
本日もありがとうございます。
最近、仕事がなにやら忙しく更新がペースダウンしていますが温かい目で見守ってください。
アッサム精神でよろしくお願いします。