事後処理
お待たせしてしまいました。
アップ直前で全てのデータが消えるという…
「なんでだ!!なぜ、俺なんだ!」
怒りの収まらないダナン宰相が叫び続ける。
「ダナン宰相、貴方様がどれほどの偉いお立場の方でも簡単に「殺せ」とおっしゃってはいけません。偽札偽造及び密造酒販売の容疑でご同行をお願いします。王城でお話しをお聞かせください。」
ダナン宰相がライラ嬢を殴ろうと手を挙げた時、近衛騎士達がダナン宰相の腕を掴んだ。
「離せ!離せ!俺が誰だかわかっているのか!」
「連行してください。」
ライラ嬢が冷たく言い放つ。
罵詈雑言を吐き、暴れ続けるダナン宰相が両脇をガッチリ固められ、近衛騎士に引きずられるように大理石の長い廊下を連行されて行く。
そして、ライラ嬢が丁寧にお辞儀をして部屋に入ってきた。
「副頭取もゆっくり王城でお話しを聞かせてもらえますね。」
顔面蒼白でソファにもたれかかるように無言で座っていた副頭取はそのまま頷き、近衛騎士に抱き抱えるように立ち上がると部屋から連れ出された。
「ダーリア殿、この後はダナン宰相と副頭取のふたりをよろしくお願いします。乗ってきた馬車を使ってください。ライラ嬢はこちらに残り事後処理をお願いします。わたしはホーシャック室長に加勢するため、イリ商会かダナン宰相の屋敷に向かいますのでよろしくお願いします。」
「「レナード殿下、承知しました。」」
ダーリア殿が2人を追いかけるように部屋から出ていった。
「ライラ嬢、お疲れ様でした。ジーク殿がこちらに来て、ダナン宰相の護衛騎士を説得してくれたのかな?予定外のことで驚かれたでしょう。」
「はい。ジーク殿がすごい勢いで来られました。ダナン宰相は王城に護送されることなどを丁寧に話されて護衛騎士達を説得してくださいましたので、こちらの手間が省けて助かりました。」
ライラ嬢が少しホッとしたのか、微笑んだ。
「頭取はいつから偽札が流通していることに気づいていたんですか?」
一連の顛末を唖然と見ていた頭取がハッと我にかえる。
「…。あ、いや…。その…」
「もう、小芝居はいいですよ。気づいていましたよね。」
頭取が気まずそうにレナード殿下を見る。
「はい。1ヶ月半ほど前に市場に行った時に釣り銭をもらって偽札が混じっていることに気づきました。その精巧な図柄からは原版が印刷局で使用しているものとほぼ同じ一緒であることはすぐにわかりました。」
わたしは眼鏡を掛け直す。
「原版の流出に気づいて、原版が印刷局から盗まれていない限りは、ある一定以上の立場の者がこの件に関わっていると判断したんですね。」
「はい。わたしの他にも部下の何人かが偽札の流通に気づきました。副頭取にはこの件は伏せてチームを作り、出どころを探っていました。そうとは知らずにライラ嬢にはそのチームの事務をお願いしていました。」
「そうでしたか。わたしがもっと前から、貴方に健康であることを伝えていれば、相談ぐらいはしてくれたんでしょうね。申し訳ないことをしました。これからは一緒に王立銀行を立て直しましょう。」
少し俯いていた頭取が顔を上げ、目を見開く。
「…レナード殿下が、か…回復…。ありがとうございます。」
その見開いた瞳が潤んでいるのが見て取れた。
わたしがアッサムの生活を捨てきれず、中途半端にレナードだったために、今回の事件はダナン宰相にそこに漬け込まれたんだろう。
わたしにも責はある。
もう「レナード」からは逃げないと覚悟は決めている。これから少しずつ「レナード殿下」になっていけばいい。
「ところであの数々の証拠品はどうされたんですか?わたしどももなかなか見つけられずにいたのに…。」」
頭取が不思議そうに聞いてくる。
「ああ!!あれは作成依頼書と納品書はダーリア殿が王宮に上がっていた報告書から見つけ出しましたよ。あとはニシア国の伯爵家で手に入れたものです。ダナン宰相の指示書は偽物だけどね。」
頭取が驚きを隠さない。
それを横で聞いていたライラ嬢はやはり察しが良い。
「リアーノ作ですね。」
コソッと聞いてくる。
「ま、そういうことだ。」
ひと通り軽く打合せ、ホーシャック室長の加勢に向かうために王立銀行を出ると、向かいの木に見たことがある鳩が筒をつけて待っていた。
ホーシャック室長からだ。イリ商会では販売差し止めが無事に終わったこと。いまから、ダナン宰相の屋敷に向かうことの報告であった。
わたしも同じように報告を簡単に書き、鳩に託す。
そして、指笛でもう一羽を呼ぶと同様の報告を王宮に飛ばした。
今日もありがとうございました。
やっと、次回はアッサムとリアーノが再会できそうで、わたしも楽しみです。