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失脚

 王立銀行は王都サハのなかでも、歴史ある建物で石造りでなかなか荘厳な雰囲気が漂っている。

 国庫の管理やお札の発行や流通、管理などを行なっている国の重要な機関だ。

 事前に訪問することを伝えているので、わたし達の馬車が着くなり、行員が飛び出してきた。

「レナード殿下、お待ちしておりました。」

 大理石の廊下の中ほどにある貴賓室に案内される。

 その手前で、王立銀行頭取と副頭取が顔色を悪くして立って待っていた。

「急にお伺いして、申し訳ありません。」

「いえいえ、殿下どうぞお部屋へ。」

 

「今日は急にどうされたんですか?」

 王立銀行の頭取が部屋に入るなり、開口一番に聞いてくる。

「用事がなければ、わたしは来てはいけないのかな?わたしはここの管理者ですからね。」

 眼鏡の奥からジロリと頭取を見て、チクリと嫌味を言ってみる。 

 ダーリア殿がちょっと困った顔でこちらを見ている。

「あ、いえ、そんなことは…。」

 頭取の顔色は冴えない。

 しばらく沈黙が続くが、その沈黙を破るかのように、扉がノックされたかと思うと、勢いよく扉が開いて、ダナン宰相がズカズカと入ってきたと同時に大声で怒鳴るように話し出す。


「レナード殿下、突然わたしを王立銀行にお呼びになるとは何事ですか?貴方が外に出られるまで回復していたなんて聞いてませんよ!!」


 わたしのことは病弱設定で情報操作している。陛下も皇太子殿下もわたしがそう表には出ないで済むように尽力してくださっている。


「ダナン宰相、お呼び立てして申し訳ありません。まぁ、ソファにお掛けください。それにわたしは見ての通り、外にも出ますよ。外に出れないほど病弱だったのは昔の話しですよ。」

 わたしはクックッと高笑いをしてみせる。

 ダナン宰相が苦虫を噛み潰したような顔をしている。正直な人だ。わたしが元気だと都合が悪いことが多いのだろう。

「今日、みなさんにお集まりいただいたのは、この件です。」

 ダーリア殿が持ってきた鞄から偽札を一枚取り出して、テーブルに置く。

「…これは…。」

 頭取が真っ先に手に取って、透かしてみたり、撫でて見たりしている。

 そして、その横に座る副頭取に渡す。

 ダナン宰相は、さすがというべきか、その様子を見ながらも腕組みをしたまま顔色ひとつ変えない。


「なにか、分かりましたか?」

「ええ… こ、これは偽札ですね。」

「そうですね。頭取がおっしゃったとおりですね。」

 副頭取も同意する。

「ダナン宰相もご覧ください。この偽札、本当に良く出来ているんですよ。」

 ダナン宰相にも偽札を渡す。

 興味のなさそうに、表裏をぺらっと見て、テーブルに置いた。

「偽札だな。で、この件は王立銀行に任せておけばよろしいのでは。レナード殿下が出てくる必要もないでしょう。」

「いえいえ、そういう訳にはいかないんです。よく見てください。この偽札、印刷の図柄があまりにも精巧だと思いませんか?紙質も配合が本物によく似ているのか、手触りでわかるかわからないかのギリギリのところの品質です。」


 そして、以前にダーリア殿が発見した5ヤーロの原版の作成依頼書とその原版の納品書をテーブルの上に出した。

 ダナン宰相と副頭取の顔が一瞬引きつった。

 

「レナード殿下、これは?」

 不思議そうに頭取がその書類を覗き込む。

「5ヤーロの原版の作成依頼書と納品書ですが、心当たりがありますか?」

「この日付のものは初めて見ました。でも、この作成依頼書には王立銀行の書類の通し番号がありません。どういうことですか?」

「どういうことなんでしょうね。副頭取、説明をしてください。」

 一斉に副頭取に視線がいく。

 副頭取が真っ青の顔で一点を見つめている。

「こ、これは… 。」

 副頭取が顔を上げて、すがるような目でダナン宰相を見る。

「わしは何も知らん。」

 ダナン宰相がシラを切る。

「ダナン宰相、これでも知らないと言い切れますか?」


 もう一枚、紙を出した。

 そこには、ダナン宰相に宛てた報告書であった。

 偽札の原紙とインクの発注数と金額、偽札の印刷枚数と納品枚数が書かれている。

「なんだねこれは。誰かがわたしを陥れようと書いたんじゃないのか!」

 ダナン宰相が語気を強める。


「いえ、そんなことではないのはダナン宰相ご自身が一番よく知っておられるでしょう。」

 そして、もう一枚も出す。

 ダナン宰相が書いたと思われる指示書だ。

「…こんなもの… どこで。」

 ダナン宰相の顔がみるみる赤くなる。

「ニシナ国のユーデステル伯爵家と申し上げれば、お分かりになりますか?」

 ダナン宰相の顔がもう真っ赤だ。

「なに!!!貴様!!」

 レナード殿下に掴み掛かろうとしたダナン宰相をダーリア殿が咄嗟に払いのける。

「いまごろ、イリ商会とお屋敷には密造酒の差しどめの部隊が向かっていますよ。」


「クソッ!!」


 頭取と副頭取はなにのことかわからず、呆然とやり取りを見ている。


「あいつら、なにやってんだ。」

 ダナン宰相がそう呟いたかと思うと、扉の方に走っていき、扉を開けて大声を出す。

「中にいる奴等を殺せ!」

 石造りの建物にダナン宰相の声だけが響き渡り、廊下は静まり返ったままだ。

 遠くの方からカツンカツンと早歩きの足音とその後にゾロゾロ続く足音が聞こえる。


「お待たせいたしました。」

 冷たい表情のライラ嬢が立っている。

「お前は誰だ?!俺の護衛騎士や部隊は?」

「みなさま、先ほど護衛騎士の方のひとりが来られて、なにやら話をされてから、みなさんで帰って行かれましたよ。」

「わたし達は貴方様をお待ちしておりました。」

 ライラ嬢の後ろには王家の近衛騎士隊が待ち構えていた。


今日もありがとうございました。



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