任務終了
いつもありがとうございます。
ザッハ編とも言うべき章がこれで終わります。
「これでステファニー王女殿下とリアーノの関係と生まれた時になにが起こったのか、よくわかりました。ダンさん、ありがとうございます。」
「わたしはなにもしとらんよ。ステファニー王女殿下は妹がいるとずっと前から知っていらして、いままでご両親が苦しまれるのを見たり、妹に会えなかったことがお辛かったでしょう。胸中、お察しします。」
ステファニー王女殿下の瞳が少し潤んでいるように見えた。
「ダンさん、レナード殿下はこのことを…」
ジークが心配そうに聞く。
「リアーノがここにいるので言いづらいのだが、レナード殿下はずっと昔から知っておられる。」
…アッサムがわたしの出生のことを知っていた?
「…やっぱりそうですか。だから、あんなにリアーノをニシアに連れて行くことに反対だったんですね。」
ジークがなにかを少し考えている。
「そうと、ダンさん。今日の報告はレナード殿下に無事にいきましたか?」
ジークが思い出したようにおじいさまに尋ねる。
「はい。上手くいきましたよ。恐らく、朝にはレナード殿下の元に鳩が着くと思われますので、あちらも近いうちに動かれると思います。」
「そうですね。ダナン宰相に今夜のことを勘づかれる前に動かないとまずいですからね。」
「後はレナード殿下が上手くやってくれると信じましょう。」
おじいさまが意味ありげにフォフォと笑われる。
「ジーク、今夜の件は全て予定通りにいったのだな?」
「ええ、お兄様。ほぼ予定通りでした。これでニシアで行われていた密造酒製造と偽札の印刷の件については解決しそうです。あとはセイサラ王国の方で密造酒の販売と偽札の印刷に関わる黒幕を捕まえてくれるでしょう。ステファニー王女殿下には、近衛騎士もお借りしておいて、本当に良かったです。ありがとうございました。」
そこにいたみんなの雰囲気がふっと和む。
「ジークはいつまでここにいられるんだ?」
そうです。わたし達の任務は終了しました。
「実はいまから仮眠を取って、朝の早いうちにセイサラの王都サハに向かって出発しようと思っていまして…。」
「もう、戻るのか!」
フィリップ様が驚きの声を上げる。
「わたしの主人、ダナン宰相の危機ですしね。」
ジークが今にも舌を出しそうな悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ジーク、悪い顔になってますよ。」
思わず、突っ込んでしまった。
一同が一斉に笑い、笑い声に包まれた。
荷造りに追われ、ほとんど寝る時間はなかったが、落ち着いて眠れる心境でもなかったので、すぐの出発は正直ありがたかった。
「では、リアーノ行こうか。」
「はい。ジーク、よろしくお願いします。今日はがんばって野宿しないで済むように飛ばして行きましょう!」
エントランスにお見送りに出てきてくれたみんなが微笑んでいる。
「リアーノ、次に会う時はゆっくりお話しをしましょう。」
ステファニー王女殿下は優しくリアーノの両手を握る。
「ありがとうございます。ぜひ、お願いします。楽しみにしております。」
わたしも両手で握り返し、お互いの瞳を見つめ合う。
…お姉様… ありがとうございます。…
「おじいさまは一緒にセイサラに帰らないのですか?」
せっかく、おじいさまに久しぶりに会えたのにろくにふたりで話せてもいない。聞きたい話がまだまだある。
「わたしはステファニー王女殿下の護衛をして、少しニシアの王都まで行ってくる。近衛騎士もユーデステル伯爵達の護送で人数も減ったしね。」
「ダンさん、リアーノは俺が守りますのでご安心ください。」
ジークが颯爽と答える。朝日がジークの金髪を照らして一層眩しい。
わたし達は別れを惜しみながらもザッハを急ぎ後にした。
読んでくださりありがとうございます。
いよいよ次はレナード殿下の活躍に期待しましょう。