姉
テオ夫妻がエントランスで心配そうに待っておられた。
「お帰りなさいませ坊っちゃん。お怪我はなさっていませんか?」
「…いや、だから坊ちゃんってやめてよ。怪我はないよ。」
ジークが真っ赤になって否定する。
「皆様も大丈夫でしたか?」
ミハイルとおじいさまも一緒だ。ふたりがそのやり取りを見て、ニヤニヤしている。
テオ夫妻は既に事情は知っておられるようだ。
「さあさあ、早く入ってください。お茶をお淹れしますね。あちらのサロンに移動してください。みなさんのお帰りをずっと心配されて、お待ちの方がいらっしゃいますよ。」
ジークがわたしの後ろにスッと来たかと思うと、わたしの背中をそっと押して、ジークに促されるようにサロンに入った。
「ジーク、無事だったか。大変だったな。」
金髪のジークの雰囲気によく似た端正な顔立ちの男性がソファから立ち上がった。
「兄さん、待っていてくれたんですか?ありがとうございます。」
ジークのお兄様のようですね。
背丈もジークと一緒ぐらいではあるが、少しジークよりも渋い感じである。
ソファには女性も座っておられた。
「あ、…。」
一目見るなり、言葉を失った。
雰囲気はわたしより凛としているが、よく似ている。髪の長さは違うけど、まるで鏡を見るかのようだ。
「ステファニー王女殿下、待っていてくださったんですね。ありがとうございます。改めて、紹介しますね。こちらがセイサラ王国のレナード殿下の命で来ているリアーノです。」
ジークがわたしを紹介してくれる。
この方がステファニー王女殿下!先ほど、わたしはこの方のフリをしていたのね。確かによく似ている。舞踏会で少しご挨拶をした、このドレス一式を贈ってくださった女性に違いない。
「改めまして。先ほどはありがとうございました。リアーノと申します。」
「そして、こちらは…あ…ええっ…と」
ジークがおじいさまを紹介しようとして、チラッと見て言葉に詰まった。
おじいさまが目を細くして、ジークを見る。
「ジークフリート様、お気遣いありがとうございます。大丈夫です。」
おじいさまがステファニー王女を真っ直ぐに見据えた。
「わたしはダンといいます。セイサラ王国とニシア国の両王家の特殊部隊の長が任です。そして、このリアーノの保護者でもあります。」
…… おじいさま? わたしは初めて聞く話に驚いた。特殊部隊の任?
なにがなんだかわからない。
ステファニー王女はなにか気づいたのか、ハッと息を飲む。僅かに震えている。
「は…初めまして、わたしがニシア国、第一皇女ステファニーです。そして…」
ステファニー王女殿下が何かを言いかけて、おじいさまを見つめた。
おじいさまはなにかを悟ったのか、うんうんとステファニー王女殿下に頷いている。
ステファニー王女殿下がわたしの方を向いて、大きく息を吸った。
「…リアーノ、あなたの姉です。」
そっと、ジークのお兄様がステファニー王女殿下に寄り添い、手を握られた。
わたしは唖然として固まった。
姉…??????
ステファニー王女殿下がわたしの姉?
おじいさまの方を見ると、おじいさまはとても落ち着いていた。まるでずっと前から知っていたかのように。
「… 。お、おじいさま?」
「リアーノ、事実だよ。ステファニー王女殿下はリアーノの双子のお姉様にあられる。」
おじいさまがにこやかな顔でわたしを見る。
ジークもジークのお兄様も知っていたのか、みんなわたしを見て微笑んでいた。
「…い、いろいろあり過ぎて… もうどこから、聞いていいのかわかりません。」
やっと、声を絞り出せた。
どこかでタイミングを見ていたのか、テオ夫妻がお茶を持って入ってきた。
「皆様、お話も長くなりそうですから、早くお掛けください。美味しいお茶を淹れてきましたよ。」
テオ夫人がお茶を手際よく淹れてくれる。
「ダンさん、僕達も詳しくは知らないんです。よろしくお願いします。」
ジークのお兄様がみんなの気持ちを代弁するかのようにおっしゃった。
おじいさまは大きくため息をついた。
「いまからお話しすることは老人の戯言と思って聞いてください。」
おじいさまは訥々と話しはじめた。
本日もありがとうございました。