奇襲と計画
部屋にいる誰もが黙ってしまった。
ジークが渋い表情だ。
「ユーデステル伯爵はダナン宰相が印刷機で偽札を製造しているのは知っていたんですね。」
「…はい。偽札をセイサラ王国に輸送するのに、ワイン樽を使っているのですが、あの樽はわたしどもが手配をしていましたから。印刷に関わる人間はダナン宰相が手配した者たちで、時々ここに来ては作業をしていました。」
「つまり、ダナン宰相にこの屋敷の地下で偽札を製造する場所を提供し、その見返りに蒸留酒の機械と密造酒の販路の提供を受けるという利害関係に貴方達はあったんですね。」
「…そのとおりです。」
ユーデステル伯爵はうなだれて、顔面蒼白だ。
その時だった。廊下がバタバタと走る音が聞こえたかと思うと扉が勢いよく開いた。
「…何事だ?」
ジークとミハイルが咄嗟に剣を抜く。
武装した者が3人、部屋になだれ込んできた。
「ユーデステル伯爵、残念ですね。」
先頭のリーダーっぽい筋肉質の男がこちらを睨む。
「お、お前は!!印刷に来る…」
「そうです。ダナン様の使いの者です。秘密に関わる者は必要以上には生かしておくなと主から命令を受けています。」
一体、この状況をどこから聞きつけたのだろうか…
とにかく、これは非常にまずい状況だ。
わたしもドレスの中に隠していた短剣で応戦するしかなさそうです。
筋肉質な男が剣を振りかざし、突進してきた。
ジークが伯爵を守るように前に出て応戦する。ミハイルも扉のそばで応戦している。
わたしも短剣でこちらにやってきた男と対峙する。ジークがこちらをチラリと見る。これでもわたしはおじいさまとアッサムに仕込まれたのでそこそこ強いですよ。心配無用です。
男と剣を何度か交わす。剣と剣で力勝負になった。まずい…
バコン!!ドカッ!
目の前の男が誰かに峰打ちをされ、倒れた。
「お、おじいさま!!」
「間に合って良かった。」
おじいさまの助太刀もあって、すぐに制圧された。
騒ぎに気づいた使用人達も駆けつけてくる。男達は使用人によって、縄で拘束された。
お迎えの馬車に揺られ、ようやくジークの実家の別荘の明かりが見えてきたのは、満月がだいぶ西の空に近づいてきた頃でした。
あれから、ユーデステル伯爵の屋敷の外で待機していた近衛騎士に伯爵と、乱入してきた男達は連行されることになった。
王家の近衛騎士がタイミングよく、屋敷の外にいた訳ではないことぐらい、わたしでもわかる。
ジークがあらかじめ、ある程度こうなることを予想をして手配していたんだろう。
疲れた様子ではあるが、涼しい顔をして向かいに座るジークを見る。
「リアーノ、どうしたの?」
優しい眼差しでこちらを見る。
「ジークはこうなることをどこまで予想していたの?」
ジークがニヤッとした。
「うーん。それは秘密だな。まだ、計画の途中だしね。」
「…??まだ、なにか起こるの?」
「まあね。」
ジークがニヤニヤしながらこちらを見る。
「リアーノが剣を使えるのは予想外だったけどね。」
そんなことを言っているうちに、別荘のエントランスに到着した。
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