思わぬ再会と地下
今回も遅くなってしまいました。
使用人の2人が苦悶の表情を浮かべ、転がったまま、起き上がれないようだった。
「リアーノ、ケガはないかい?」
ジークが声を掛けてくれて、慌てて我にかえり頷く。
ジークはゆっくりとわたしに近づき、肩を抱き寄せ、ぎゅっとわたしを抱きしめた。
「ケガがなくて良かったよ。荒っぽいことに巻き込んで怖い思いをさせたね。」
肩越しに呟くようにジークが言う。
ジーク???
そして抱きしめていた腕を緩め、わたしを見つめながら髪の後ろで結んでいた仮面の紐をそっと解き、仮面を取ってくれた。
ジークも、仮面が邪魔だったのか仮面を取り、そして大きな扉の方に視線を向けた。
「そこにおられるんでしょう。出てきてください。」
ジークが扉に向かって声を掛けると、ギギッとゆっくり扉が開いた。
男性が2人入ってきた。
「貴方様が「ダン爺」ですね。」
ひとりは見たことがない人であったが、もうひとりはリアーノが見間違うことのない、おじいさまが立っていた。
「…お、おじいさま!!!」
「リアーノ、久しいね。元気そうでなにより。手紙ぐらいは書きなさい。」
…… いま…それ…。
やっぱり…。怒られた。
「貴方様がフォンデル家のジークフリート様ですね。さすが、お察しがいい。」
おじいさまがジークに声を掛ける。
「レナード殿下から、ダンさんのことは聞いています。よろしくお願いします。」
ジークが微笑む。
もうひとりの男性は、ジークの護衛らしく、手際良く地面に転がる男性を紐で縛っている。
ジークもその男性から紐を受け取ると、地面に転がるもうひとりを縛り上げた。
「さて、どうしようかな。まず、リアーノはダンさんにいろいろ聞きたいことがあると思うけど、それは後にしよう。いまは再会を喜び合っている時間がない。まずは、蒸留酒の確認と回収する者と偽札の製造について部屋を調べる者の二手に分かれよう。」
おじいさまとミハイルと呼ばれる護衛とわたしがジークの方を見て頷く。
「では、俺とリアーノで偽札を。そして、ダンさんとミハイルでその男達に蒸留酒の場所を聞き出して現物を確保してくれ。」
「「承知しました。」」
「はい。」
わたしはジークと、ミハイルが持っていたランプを借りて、お屋敷の地下とこの醸造所の建物を繋げているいう地下通路を目指します。
薄暗い階段を降りると、暗く長い通路と幾つかの扉が見えました。
これが例の地下通路!先が見えません。
一体、どれぐらいの時間をかけて掘ったのだろう。
「この辺りは古い鉱山の跡らしい。何本もの坑道があるらしいんだ。」
「ジークは偽札の印刷室の目星が付いているんですか?」
「ここはダナン宰相と来たことがあるよ。以前、扉の前までは護衛をしたからね。」
なるほど。さすが、1年前に潜入していただけのことはある。
「この扉だった気がするな。」
ある扉の前でジークが足を止めた。
ジークがドアノブを回すと鍵がかかっていた。
わたしは自分の髪の毛に刺さっているヘアピンを1本取り出す。
「ジーク、ちょっといい?」
屈んで、ドアの鍵穴にヘアピンを突っ込むこと5秒。
カチャ
鍵が開いた。
「すごい!リアーノ!どうして?」
「小さい頃からアッサムとよく悪戯でこれで遊んだのよ。」
ヘアピンをヒラヒラと得意げに見せる。
部屋は真っ暗でなにも見えないが、木で組まれた大きな機械があるのはわかった。
「やっぱり、思った通りだな。」
ジークの睨んだ通り、それは印刷機だった。
印刷機の中央に原版があった。ランプで照らして確認すると、それは間違いなくセイサラ王国の5ヤーロ紙幣の原版であった。
「この場所にこれがあることが、すでに犯罪ですね。」
「ああ… そうだな。ユーデステル伯爵はどうして…。」
ジークが悔しそうだ。
ワイン樽が印刷機の横に置かれていて、その中には印刷され、きれいに裁断されて整えられたお札が途中まで入っているのも確認できた。
たった一つのこの印刷機だけで経済が混乱するのかと思うと恐ろしい。
壁際に机が並んでいる。
わたしはそこになにかのノートがあるのを見つけた。
取引が事細かに記されていた。
紙やインクの発注数、納品数に偽札印刷枚数に納品数…。
「ジーク、このノート…」
ジークがじっとノートの内容を見て考えている。
「リアーノにお願いがある。いまからこれを書けるかい?」
ジークが机の引き出しから見つけ出していた書類をわたしに見せた。
「ここにあるインクと紙でこれと同じ内容を筆跡を真似て書くということね。」
容易いことだった。
「リアーノ、頼むね。」
その間、ジークは原版と偽札を袋に詰めていた。
ひと通り書け、ジークに渡す。
「ではリアーノ、あともうひと仕事お願いするね。とりあえず、この部屋のことはこれで終わろう。」
蒸留酒の方も気になる。おじいさま達は無事だろうか。
時間もそうある訳ではない。足早に地下を出た。
本日もありがとうございます。