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葡萄畑

遅くなってしまいました。

申し訳ありません。

 外は明るかった。

 ドレスで肩を大きく出していることもあって少し肌寒いが、空を見上げると真上に満月があった。

「今晩は満月なんですね。」

「これだけ明るいと助かるような、そうでないようなだな。」

 ジークが苦笑している。


 月明かりの中、ジークは目的の建物の位置がわかっているのか迷いのない足取りで進んでいく。

 ずっとわたしの手を握っていてくれる。


 お屋敷からは、少し離れたところまできた。

 木々が両脇に並ぶ道を抜けたら、目の前になだらかな丘一面の葡萄畑が広がった。

 月明かりに照らされた葡萄畑は青白い光を浴び、まるでうっすら雪が積もったように美しい。


 その横に岩と一体になったような大きな建物が目をひく。

「…ジーク、これは… 葡萄畑ですよね。広大ですね…。先が見えない。」

「昼間に見たかったな。月明かりだけだと、山の方まではさすがに満月でも見えないな。きっと山の麓までずっと葡萄畑なんだろうな。」

「ジークは昼間に来たことがあるんじゃないのですか?」

「俺はこの葡萄畑は初めて見たよ。以前来た時は、お屋敷の地下から目の前のあの大きな建物に来たしね。」

「お屋敷とあの建物は地下で繋がっているんですか?それはすごいですね!」

「俺も驚いたよ。まさかだったよ。醸造所は目の前に見えているあの建物だよ。この建物の奥は洞窟になっていて、ワインセラーになっている。」

「お屋敷からここまでの地下にはなにが?」

「俺が見たのは、部屋がいくつかあった。そこになにか秘密がある。ただ、地下でインクの匂いがしていたところがあったのは間違いないよ。」

 インクの匂い… 偽札とつながってきますね。


 その時、わたし達が通ってきた道の奥からガラガラという音と男性のしゃべり声が聞こえてきた。

 使用人だろうか…


「足りなくなりそうだから、酒を取って来いなんてな。」

「オレら、ホールの警備しているのにな」

「なにかあってもオレ知らね〜」

 舞踏会での飲み物の追加を取りに警備についていたものが取りに来たようですね。


「リアーノ、チャンスだ。カップルのフリだぞ。」

 ジークがわたしの腰に手を回して、ジークのそばへとからだを密着させます。


 彼らが引っ張る荷台がガラガラと音を立てて近づいてきて、横を通るその時、


「君たち!」

ジークが使用人を呼び止める。


「「…はい?」」

「お願いがあるんだけど。」

「…なんでしょうか。」

「葡萄畑を見に来たんだけど、彼女があそこにあるワインセラーも見たいって。見せてもらっても良いかい?」


ジークが岩と一体になったような大きな建物を指さす。

「……。」

「もちろん、ユーデステル伯爵殿には許可を頂いているんだが。」

「…そうですか。では、一緒にどうぞ。」

ジークの機転で、平和的に建物の中に入れることになった。


「君たちはワインを取りに来たのかい?」

 ジークが歩きながら、使用人達に話しかける。

「はい。舞踏会の飲み物が予想以上に早いペースでなくなってきたので取りに来たんです。 貴族様は、舞踏会はよろしいんですか?」

使用人の中年っぽい男性が聞いてくる。

「舞踏会はかなり楽しませてもらったよ。ユーデステル伯爵殿が葡萄畑やワインセラーを自慢されるので、見たくなったのさ。」

「そうだったんですね。ここのワインは美味しいと評判ですし、これだけの規模の醸造所はなかなかないですからね。」

ジークがしめた!という顔をする。

「ワイン以外も自慢出来るものもあるんだってね。」

使用人達が顔を見合わせて、気まずそうにする。

「…… よくご存知ですね。伯爵が?」

「そうだよ。ユーデステル伯爵殿がね。僕もいい取引先になるかも知れないよ。いまから、試飲出来るかい?」

中年の使用人は怪訝な表情を浮かべる。

「中に入って酒を確認します。一緒に中へ。恐らく、試飲は大丈夫だと思います。」


 近くまで行くと煉瓦造りであることがわかった。

重そうな扉を開けて、荷台も一緒に建物の中に入れる。

 見たことのないような大きなタンクなどが並んでいる。

 それに目を奪われているその時、後ろから

ガッと肩を掴まれて、ジークと引き離された。


「悪く思わんでくださいよ。」

 そう、中年の使用人が言ったかと思うと、羽交い締めにされ、自由を奪われた。


 もうひとりの使用人もジークを羽交い締めにしようとしたが失敗したらしい。

 護衛騎士をしているジークに敵うわけがなく、あっさり形勢逆転で気づけば地面に転がってお腹を押さえて悶絶している。

 そして、ジークはわたしの方にやってきた。

「その女性を離しなさい。」

 わたしを羽交い締めにしている中年の使用人に静かに低い声で言い放つ。

「…誰が…言うことを聞くんだ! おまえは一体何者なんだ!!」

「…あなたに名乗る必要はないですね。」

ジークがニヤッとしたかと思うと、わたし達の後ろに回り、ジークの右足が上がったと思った瞬間、中年の使用人の背中を思いっきり蹴り飛ばした。

 弾みでわたしを羽交い締めにしていた中年の使用人の手が緩んだ。

 わたしは慌てて、中年の使用人から離れる。

 ジークはすかさず、中年の使用人に鉄拳をお見舞いした。

 ドサッ

 中年の使用人も地面に転がった。

本日もありがとうございます。

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