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別荘にて

「おかえりなさいませ。坊ちゃん」


 坊ちゃん呼びにギョッとするジークを見て、初老の白髪混じりの男性と、その横に男性の奥さんらしい女性が立っていて、ニコニコ笑っておられる。


「坊ちゃんって、リアーノの前でやめてよ。こちらは友人のリアーノ。先に知らせたとおり、セイサラ王国の仕事をされにこちらに滞在される。お世話をよろしく頼むね。」

 ジークが照れながら、紹介してくれる。


「リアーノです。よろしくお願いします。」

「リアーノ、この別荘を管理してくれているテオ夫妻だ。本当なら、使用人がもう少しいるんだけど、今回の滞在は使用人の人数を減らして対応するね。この別荘にいるのはこの2人と、ほかに護衛騎士などがいるだけだよ。」

「いろいろお心遣いありがとうございます。」

 テオ夫妻は、ジークと気心が知れているのか、この場の雰囲気が和んでいる。


「さあさあ、ご到着すぐで申し訳ないのですがリアーノ様には、明日の舞踏会のドレスのサイズ合わせをお願いします。」

「そうだね。頼んでいたものは全部届いている?」

「はい。全部坊ちゃんの手配通りですよ。昨日の今日でよく届きましたね。」

「俺って凄いだろ。あとは見立て通りだといいんだけど。リアーノのサイズ合わせが終わったら、ランチを食べながら明日の打ち合わせをしよう。」

「わかりました。お願いします。」


 慌ただしく、テオ夫人と別室に向かう。

 客室であろう部屋に通された。部屋は絨毯敷きで落ち着いた雰囲気の品格ある家具が揃えてある。


「リアーノ様、このドレスにお着替えをお願いします。」

 用意されていたドレスは、上品な濃紅のベルベット生地で、裾に素晴らしい刺繍が施してあり派手なリボンもなく、流行に左右されないベーシックなデザインのものだった。

 これがまた、嘘みたいに胸を省けばピッタリのシンデレラフィットである。

「テオ夫人、ジークがこのドレスを選んだのですか?」

「そうですよ。坊ちゃんが手配されたようですね。ここまでピッタリだと、坊ちゃんに対してある意味ひいてしまいますね。」

 ふたりで目を合わせて、思わず吹いて笑ってしまった。


 ランチはせっかくの機会だからと、ジークとテオ夫妻と4人でいただくことになった。恐らく、ジークとわたしの2人だけだとわたしが緊張するのではと、ジークが気を利かせてくれたのだろう。


 「明日、舞踏会に行く貴族の家はユーデステル伯爵家と言って、このザッハの街の有力貴族だよ。街の外れの山の麓に広大な屋敷を持っておられる。ワイナリーももちろん経営されているよ。」

 ジークがわたしにもわかるように説明をしてくれる。

「俺たちは、あの屋敷で蒸留酒が作られている証拠を押さえ、セイサラ王国との繋がりを知ることを目的だよ。俺の知っていることといえば、ダナン宰相が絡んでいる偽札も、あの屋敷に秘密が隠されているのは間違いない。秘密の場所の前までは護衛をしたことがあるんだ。場所は大体わかるから、ふたりで探そう。」

 ジークはだいぶ調べがついているようです。


「ジーク、本当にいろいろありがとうございます。では明日はお互い目立たないように会場を抜けて行動ですね。」

「そうだね。よろしくね。リアーノ。」

 ジークが満面の微笑みだ。

 今回わたしがなんの不安もなく、ザッハに来れたのも、ジークのこの明るい人柄のおかげだろう。



 翌日は朝から舞踏会の支度に追われた。

 テオ夫人の魔法のような手腕で、わたしは別人のように仕立てていただいた。

 髪を結い上げ、用意していただいていた濃紅のベルベットのドレスに、間違いなく高価なダイヤモンドとわかる宝石が真ん中にひとつついているシンプルなネックレスを合わす。人生でこんなドレスを着たことはない。

 

 鏡の向こうの自分の姿を見ながら、アッサムに見せたかったなと思う自分がいる。

 アッサムは褒めてくれるだろうか… 照れながらも大きな黒い瞳を真っ直ぐに向けてくれるとうれしい。


 階下でジークが着替えて待っていた。

 わたしも支度がようやく終わり、急いで階下に向かう。

 ジークは近衛騎士の正装のような美し飾りのついた真っ暗なベルベット生地の衣装に身を包んでいた。

 サラサラ金髪が黒の生地によく映えて、より一層端正な顔立ちが美しい。


「ジーク、お待たせしました。」

 ジークは一瞬、わたしを見て目を大きく見開き、その後うれしそうにしてくれた。

「俺の見立て通り、よく似合っているよ。」

「ドレスの手配、ありがとうございました。時間もなかったのに本当に助かりました。」

「それは、とある方からの贈り物だよ。」

 贈り物??

「そんな方がいらっしゃるんですね。本来ならお礼に伺わないと…。」

「大丈夫!いつかお会いできるよ。その時でお礼はいいんじゃないかな。」

 ジークが悪戯っ子な瞳で微笑む。


「承知しました。ジークもすごく素敵ですよ。本当の王子様みたいですよ!」

 ジークが頬を赤く染めるのがわかった。

 よく見ると、ジークのポケットチーフが濃紅でここでペアをアピールしているんですね。

「今宵は仮面舞踏会だよ。」

 ジークが仮面を差し出す。

 わたしはそっと受け取る。

「リアーノ姫、出陣ですよ。」

本日もありがとうございます。

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