アッサム視点 レナード殿下の秘密編
アッサム視点
第9部のところですね。
書くと止まらずで、こんな形で連続投稿になってしまいました。
リアーノがこの世のものではない物を見たかのように、目を見開いて俺を見つめる。
「ーーアッサム?? アッサム…なんだよね。」
長い黒髪の束をグッと握って聞いてくる。
俺の覚悟は出来た。小さく頷く。
「そうだよ。リアーノはいまごろ気づいたの?」
リアーノと同じ馬車に乗っても気づかないんだから、本当に今ごろだけど。
「アッサムって、本当にいま気づいた!どういうことなの?」
もう、リアーノはなんて鈍感なんだ。そこも可愛いけど。
「見ての通りだよ。俺はレナードもやっている。」
リアーノがハッと気づいたのか、聞いてくる。
「アッサムが言ってた、近いけど遠くに行くという仕事はこれなの?レナード殿下の身代わり?」
確かアマシア最後の夜に本当のことが言えず、リアーノにそう説明した。まだ、本当のことは言えないけど…
「うーん。そうだね…。」
と、静かに肯定する。
「わたしが王宮に来てから見てたのは、全部アッサム??」
「そうだよ。孤児院に一緒に行ったのも俺だよ。まさか気づかないなんてね。リアーノは冷たいよ。」
俺はわざと拗ねた顔を見せる。あの時、リアーノをどさくさに紛れて抱きしめた感触がまだ残っている。
「ものすごい麗しい殿下だと思っていて… 実際にそうだったけど。変装は素敵だったわよ。」
リアーノが、騙していたことを怒らずにそればかりか、俺を麗しの殿下だと褒めてくれる。
「リアーノ、ありがとうね。」
いま、この状況を一生懸命に理解しようとしているリアーノ。
こんな会話が出来ると思っていなかった。
こんな他愛もない会話なのに、その言葉ひとつひとつが真珠のように輝く粒のようだ。
「でも、どうして、こんな危険な仕事を引き受けるかなーー。てっきり、船で隣国に買付けに行ってるものとばかり思ってた。」
ここ数年は王都に行く時は買付けだとリアーノには言ってきた。
「リアーノがそう思うようにしていた。こんな仕事だって知っていたら、心配してくれた?」
心配してくれていたなら、どんなにうれしいか。リアーノの心の中に少しでも俺がいるってことだぞ。
「当然でしょ!こんな仕事と知っていたら心配するわよ。毒を盛られることもあるんでしょ!だから、アッサムがレナード殿下の身代わりしているんじゃないの?」
リアーノが少し語気を強める。リアーノが俺を思って心配してくれている。
それだけでこのどうしようもない運命を呪わなくて済む。
「確かに危険だね… でも、これが俺の仕事だから。」
そう。なにもかも諦めて俺が決めた道。
「リアーノ、ところでどうして、こんなところにいるのかな?」
ここはリアーノに説教をしておかなければ。
屋根に登るって…
これって、アマシアでの俺が悪いよな。それは置いておいて…。
「あの… だからね、眺めの良い場所を探していたら、ここを見つけちゃって!」
リアーノがわざとニコッとして戯けた顔をして見せる。可愛いけど、駄目。
「リアーノこそ、危険だと思わないのか。いつもの実家の屋根とは訳が違うよ。いまも…」
そうだ。そうだ。重要なことを…リアーノは…
「さっき、なにか聞いたよね。リアーノ。」
ああ… なんてことだ。
さっきのダナン宰相の話しを聞いていたよな。
「ううっ… ごめんなさい。聞くつもりではなかったんだけど…。」
やっぱり…か…
はああああーーーー
大きくため息をついてしまった。
「ごめんなさい。でも、このことだよね。」
慌てるリアーノがスカートのポケットから、クシャクシャになった5ヤーロを取り出し、見せてきた。
!!!5ヤーロ!
なんだ?
まさか、噂の偽札か…
「見せてもらってもいい?」
紙質も僅かだが違う。インクの匂いも少し違う。ただ、版に違いは見られない。
でも、偽札に間違いない。
「リアーノはこれに気づいたの?」
「うん。昼間にライラさまと貿易商のお店でお買い物をした時にもらったおつりなんだけど、手触りに違和感があって。これ、偽札だよね。」
さすが、普段から多くの種類の紙を触っているリアーノだけはある。気づいたのか。
「…そうだ。これは偽札で間違いない。」
ここまでわかっているなら、認めるしかない。
「アッサムはなぜ屋根に?まさか、この偽札と関わりが?」
リアーノが不安気に聞いていた。
ここは下手に嘘は言えない。
「俺は関わってないよ。むしろ、この出所を探している。仕事だよ。」
リアーノがあからさまにホッとした表情を見せる。なにを想像していたんだ。想像はつくけど…
「いろいろ聞きたいけど、アッサムが諜報員ということかしら。」
「そうだな。秘密だぞ。」
リアーノの誤解は簡単に解けたようだ。
「この偽札の出所が解決したら、アッサムはアマシアに早く帰れるのよね。だったら、わたしも協力するわ。いつもアッサムにはお世話になりっぱなしだしね。」
なにか、とんでもないことをリアーノが言い出した。
この案件に足を突っ込む気か…
危険が伴うのは間違いない。そんなことはさせたくない。
でも、これをリアーノと共有できるんだぞ。
この案件が終わるまで、同じ時間を共有できる。
俺の中で悪魔の囁きをする、もうひとりの俺がいる。
「リアーノ、危険だぞ。これは遊びじゃないんだ。」
「あら、心配してくれるの?でも、わたしが言い出したら聞かないってこと、アッサムが一番よく知っているでしょ!」
そう。リアーノは言い出したら聞かない。
よくわかっているよ。どれだけの時間を一緒に過ごしたと思っているんだ。
俺の心は決まった。
「では、リアーノ。よろしくね。でも、覚えておいて。俺はリアーノを一番に守るよ。」
そう。守り切るよ。どんなことがあっても。
「ありがとうね。アッサム。でも、大丈夫よ。アッサムの妹分として、アッサムの手を煩わせることのないようにがんばるわ!」
リアーノが満面の笑みでこちらを見つめている。
俺の妹分って…
リアーノ、そこは違う!
俺は君がとても大事なんだ。
まだ、俺の気持ちにまだ気づいてないのか…
「…先が思いやられる…。」
リアーノに聞こえないように小さく呟いてしまった。
「ところで、アッサムはあの男2人が誰だかわかったの?わたしは、ぽっちゃりお腹の方に見覚えがあるんだけど、名前が思い出せなくて…。」
「あれはダナン宰相だよ。この間、執務室に来ただろう。」
ああっ〜!そうだ!と思い出したのか、納得している。
ダナン宰相は、国政に真面目に取り組んでいる政治家だと思っていた。
「まさかとは思ったんだけどな。偽札に手を出すとは…。」
「うん。アッサム。わたしでも深刻なことがわかるよ。偽札で通貨の信用を失墜させて、経済を撹乱し、国家転覆を狙っているってことだよね…。」
さすが、ダン爺。リアーノにそういう知識もしっかり教え込んでいるんだ。
でも、市井の人としてなら、必要ない知識なんじゃないのか。
ダン爺、なにを考えている。
さあ、明日からは忙しくなる。
ホーシャック室長にも、執務室の面々にも報告をして、協力を仰がなくては。
でも、今夜はなんだか清々しい気分だ。
リアーノに少しでも秘密を打ち明けられたこと、これから共有できることが増えたこと。
そして、守り切る。
そう、改めて覚悟を決められたこと。
この王宮の下に広がる家々に灯る明かりに集う多くの人を守らなければ。
本日もありがとうございました。
日本の城って、大体が激しく坂や山を登らないと、本丸に行けない…。セイサラ王国の王宮も山城…。
自然と鍛えられる日々を過ごす、アッサムにリアーノに執務室の面々。体力に自信ありだそうです。




