アッサム視点 屋根は危険です編
お待たせしてしまいました。
アッサム視点もそろそろ中盤…
第8部のアッサム視点です。
最近、きな臭い噂を耳にした。
王都で偽札が出回っている…と。
俺は身代わりをしている「レナード」が第二王子のため、この国の闇の部分を片付ける役割を引き受けている。
記念式典というビックイベントの好況に乗じ、このまま偽札が増え続けると近いうちに通貨の信用不安から、国の経済が混乱するのは間違いない。
陛下と皇太子にだけ、この件ついて動くことを伝える。2人は最大の協力を約束してくれた。そして、身代わりを続ける俺をいつも気遣ってくれる。いつかは2人との関係性にも向き合わなくてはならないが、いまは目の前のことで精一杯だ。
ダナン宰相が妙な物を大量に注文している。
綿とリネンを混ぜた特殊な紙。
そんな情報を掴んだ。
ダナン宰相が注文した特殊な紙は、紙幣に使われる紙とよく似ているらしい。もちろん、紙の原材料の配合は国家機密であり、同じ物を作るのは難しい。しかも同じような配合の紙を作ることさえ禁じられ、違反をすれば罰せられる。そんな注文がきたら、誰でも断わるはずなのに…。
この案件は根が深い。直感でわかる。
今日は城内の広場で貿易商が市を開いていますよ。
ホーシャック室長が教えてくれた。
いつもは昼休みになっても、パンを片手に仕事をしているライラ嬢もリアーノも今日は昼休みの時間になった途端にそそくさと出ていった。なるほど。そういうことか。
貿易商か… 知っているところだろうか… ぼんやり、アマシアで実家を手伝っていたことを思い出す。父母や兄は今ごろどうしているのだろうか。
夜、陛下と皇太子と打ち合わせと称した、俺を気遣って用意してくれた晩餐の帰りにダナン宰相を見かけた。
従者もつけず王宮の外れの倉庫が建ち並ぶ一角でだ。不自然過ぎるだろう…。
とりあえず距離を取り、様子見をしていると、大きな木から何者かが倉庫の屋根に飛び移ったのが視界の隅に入った。
…?女性…?スカートが風になびいている。
ダナン宰相の関連の者か?
いや…見覚えのあるシルエット。
!!!リアーノじゃないか!
その下にはダナン宰相。
リアーノは一体なにをしているんだ!
いま、リアーノがダナン宰相に見つかるのは相当危険だ。
俺はいまは「レナード」だが、とにかく行くしかない。
ダナン宰相に見つからないよう、焦る気持ちを抑えて急いで木に登る。
リアーノは座り込み、下にいるダナン宰相と何者かの話を真剣に聞いているようだ。
足音を立てないようリアーノにゆっくり近づく。
「リアーノ嬢、僕だよ。驚かせたね。でも、声を出さないで。」
俺は人差し指を唇に当てて、小声でシッーとリアーノに合図をおくる。
リアーノがものすごく驚いた表情でコクリと頷いてくれた。悲鳴を上げないリアーノにホッとする。
ふたり、息を殺してダナン宰相とどうやら貿易商らしき者の話しを聞いた。会話が終わり立ち去って行くダナン宰相をつけたいが、ここから先は姿を見せない優秀な部下が仕事をするだろう。
「リアーノ嬢、どうしてここに…。」
リアーノにここにいる事情を聞こうと話しかけるが、レナードの姿だということもあり、顔が強張っているのがわかる。
「…あの… 偶然、で…。」
消え入りそうな声だ。
俺はアッサムだよ。その警戒心を解いて…
リアーノをこの腕の中に抱きしめて言いたい。
レナード殿下と話すのに自分が座っているのは不敬と思ったのだろう。リアーノが慌てて立ち上がろうとする。
リアーノの体が…
グラリーー
リアーノがバランスを崩した!
!!落ちる!!!
「!!!リアーノ!!」
思わず、アッサムの時のように「リアーノ」と呼び、手を差し出した。
長い黒髪の束も体と一緒に揺れる。
リアーノが俺の手ではなく、咄嗟に俺の髪の束を掴む。
髪の束は括っているだけなので、簡単に取れる。
「あっ!!!!!!。」
尻もちをつくように倒れた。
なんとか下に落ちずに止まってくれた。
リアーノの手にレナードの長い髪の束だけが残されている。
「……。」
「………。」
…さて、どう説明するか…
「…大丈夫?」
ぽかーんとしているリアーノに声をかける。
俺も落ち着こうと動揺しているのか、いつもの癖でアッサムがリアーノにしているように頭をぽんぽんと触ってしまった。
落ち着け!よく考えろ!
この状況をどう説明するか…
むしろ、髪が取れて良かったじゃないか。
これでやっと、リアーノに打ち明けられる。
思わず笑みが溢れる。
これで良かった。
俺自身の中に覚悟が芽生える。
眼鏡を取ろう!
今日もありがとうございます。
この後、連続で読んで頂けるとありがたいです。
レナードの黒髪の束…
簡単に取れるようですね。改良の余地あり!