アッサム視点 孤児院編
今日もアッサム視点です。
第6部
思い出しながらの作業でした。
孤児院訪問の日程が決まった。
いつも式典や訪問などの行事出席は、皇太子殿下の役割なのだが、どうやらあちらも日程が詰まっているらしい。あと半年程で記念式典なので、バタバタしているのだろう。
珍しく、こちらで対応することになった。
俺の公的なスケジュール管理を担当をしているダーリア殿は、申し訳なさそうに事前レクをしてくれる。
「当日の同行はリアーノ嬢になりました。」
しれっとダーリア殿が言う。
普段、「レナード」は病弱設定なので、あまり感情を出さない、物静かな人間を演じている。なのに、俺は間違いなく一瞬動揺を見せたと思う。
ダーリア殿が、なにやら言いたそうな顔をしたかと思うと、意味ありげにニコッとする。
俺になにを言わそうとしているんだ。
リアーノへの想いは誰にも言っていないのだから、知るはずもないだろう。
「わかりました。」
なにもなかったように俺は答えた。
心の中では、よっっしゃ!!と叫んでいたけどね。
そこへホーシャック室長が執務室へやってきた。
「レナード殿下、事前レクは進んでいますか?」
一見、好々爺に見えるこの御仁はとんでもない狸爺だ。それをおくびにも出さないんだから、末恐ろしい。
でも、幼少の頃からこの御仁は俺には甘いんだ。俺はいつもそれに甘えているが…。
「ええ。だいぶ頭に詰め込みましたよ。」
「リアーノ嬢は初同行なのでよろしくお願いしますね。「アッサム」になってはいけませんよ。」
ホーシャック室長の目が面白いことは起こるかもとワクワクしている。
「なんか、他人事だと思って楽しんでいませんか?」
「いつ、リアーノ嬢はレナード殿下が「アッサム」だと気づくんでしょうね。」
ダーリア殿もうれしそうに笑っている。
「孤児院訪問では、完璧に「レナード」でやり抜きますよ。」
俺はハァと溜息をついた。
人の気も知らないで…。
当日、同じ馬車に乗り、俺の正面にいるリアーノは見てわかるぐらいに緊張をしていた。
アッサムと気づかれないためにも、持ってきた書類に目を落とすが、全く内容が頭に入ってこない。
「リアーノ嬢は、アマシアの出身だったかな。アマシアも王都と一緒で記念式典に向けて、賑わっているらしいね。」
緊張をほぐそうとリアーノに声をかける。
緊張しながらも一生懸命に答えてくれるリアーノは本当に可愛い。
「リアーノ嬢は、アマシアで好きな場所はあるかい?」
知っているけど、聞いてみる。
例の砂浜だと話してくれた。
リアーノが「海からの贈り物」として、やって来たあの砂浜。
ダン爺は、砂浜に籠に入れられて置かれていたとリアーノには説明しているが、本当は違う。
俺はあの時、ダン爺と一緒に砂浜にいたんだ。だから、知っている。
男同士の約束だから、リアーノには絶対言えないが。
孤児院訪問は無事に終了できるとホッとした時、まだ、歌や劇で興奮冷めやらぬ子どもたちから、かくれんぼのお誘いを受けた。
ゲームがはじまり、隠れるところを探す俺の後ろをリアーノが、少し距離を取ってついてくる。
その距離がもどかしい。
思わず、リアーノの手首を掴み、目についた物置の影に隠れた。
このまま、手を離したくない。
掴む手に力が入る。
リアーノが困っているのがわかる。
俺を意識してもっと困ればいい。
リアーノの薄い茶色の瞳を見つめる。
その時、ピカッと激しい閃光が走った。
リアーノが悲鳴を上げる。
「!リアーノ!!大丈夫だから!」
咄嗟にリアーノを俺の胸に引き寄せた。
リアーノのふわっと甘い匂い。
この王都サハで再会してからずっと抱きしめたかったリアーノが俺の胸にいる。
想いが溢れ出る。
思わず抱きしめてしまった。
小さく震えるリアーノが愛しい。
「…雷、苦手だったよね。」
リアーノの甘い匂いを包みながら、囁く。
このまま、時間なんて止まってしまえばいいのに。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
思った以上にアッサム視点が長くなりそうで…
次はサハでのデート編。
気長にお付き合い頂ければ、幸いです。