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腕の中へ

「ええっ?ジーク??」

 今日は新月なので暗くよく見えないが、その金髪でジークだとわかった。

「リアーノはどうしてここに?」

「…… ええっと… その…。」

 夜景を見たい気分で倉庫に登りにきた。それともアッサムに会えるかもと淡い期待を持ってきた。

 どちらも言えるわけがない…

 変な薄笑いを浮かべる。

 返答に困っていると、


「リアーノ嬢!!」


 長い黒髪を束ねた眼鏡の貴公子もこっちに来る。

「ええっ?アッ…レナード殿下???」

 ジークにレナード殿下。あり得ない組み合わせです。

「なにがあったのですか?」

「この組み合わせに驚いた?」

ジークがいたずらっぽく聞いてくる。

「とっても驚いています。」

「僕はリアーノに頼み事があって、食堂の前で君を待っていたら、レナード殿下に声をかけられたんだ。」

「レナード殿下から…そうだったんですね。」

 わたしにはジークに近寄るなと言っていませんでしたか?ん?自ら?

 レナード殿下の方をチラッと見ると、バツが悪そうに目線をはずされた。

 「ところでジーク、わたしに話ってなんですか?」

 レナード殿下が急に口を挟む。

「いや、リアーノ嬢がジーク殿の話しを聞くことはないよ。」

「レナード殿下それはないでしょう。ひどいですよ。」

 ジークが慌てる。

「リアーノ、聞いてくれ。俺と一緒に隣国ニシアの酒製造所に行ってみないか?俺も密造酒を追っている。なにかを掴めるかも知れない。」

!!!あの…酒製造所に!

ジークも同じことを探っている!!

なぜ…?

でも、行ったら…

なにかが解決するかも知れない。


レナード殿下を見る。

首を横に振っている。

「レナード殿下、またとないチャンスです。行かせてください。」

 わたしはレナード殿下に詰め寄る。


 レナード殿下が困っている。

 そして、なにか意を決したかのように言う。


「俺は行けない。リアーノを守ってやれない。なにか危険があったら、どうするんだ?」

 レナード殿下ではなく、アッサムとしての発言だ…

「わたしなら大丈夫です。自分の身は自分で守るし、ムリもしない。決してジークに迷惑をかけることはしないから、行かせてください。」

「リアーノは、わたしが全力で守ります。お願いします。」

 リアーノとジークがじっとレナード殿下の瞳を見る。


 しばらく沈黙が続く。

「…わかった。」

 ジークとわたしはふたり同時に目が合い、頷きあった。

 

「では、今日は俺はこれで失礼します。レナード殿下、後日にお時間を作ってください。こちらから、ご連絡させていただきます。」

「わかった。近いうちに。」

「リアーノはいろいろ混乱していると思うけど、事情はレナード殿下から聞いて。」

 ジークがうれしそうにわたしの両手を握る。

「よろしくね。」

 茶目っ気たっぷりに言うと、金髪を揺らし足早に駆けて行った。



 わたしとレナード殿下はジークを姿が見えなくなるまで見送る。

 「リアーノ、上に行かないか?」

 人差し指で空を指す。

 アッサムは、レナード殿下の身代わりをしている時はわたしのことを「リアーノ嬢」と呼ぶのに、いまはどうやらアッサムらしい。

「もちろん!」


 屋根の上から見える王都の街並みは、今日も家々の灯りがとても綺麗です。

 山から吹く風が心地良い。

 アッサムが横に座る。

「今日はもう「レナード殿下」は終了するの?」

「ああ…今日はもう疲れた。」

 そう言ってアッサムは眼鏡を外した。


「ジークとなにがあったの?」

「…ジーク殿は俺がアッサムだと知っていた。」

「ええっ!!いつから?」

 「ダナン宰相の屋敷の森でリアーノに会ったのを見られていて、この間の中庭でレナードとして会った時に同一人物と気づいたらしい。」

 ジークの観察眼、恐るべしです。


「そうだったのね。わたしもあの森にジークがいたなんて、全然気づいてなかったわ。」

「俺もだ…。ジーク殿は隣国の貴族で、密命を受けて、隣国の貴族と取引のあるダナン宰相を調べるために護衛騎士として潜り込み、密造酒について、1年前から調べているらしい。なにか策があって、リアーノに協力して欲しいとのことだ。偽札のことも詳しくはわからないようだが、気付いていたよ。」

 偽札のことまで…アッサムが話を続ける。

「ジーク殿は我々と利害が一致した。手を組むよ。思っていたより、悪いヤツではなさそうだ。」

「それは良かったわ。仲間が増えるのね!」

 アッサムが表情を緩める。


「そして、リアーノ。本当に隣国に行くのか?」

「ええ!そのつもりよ。酒製造所に行けば、何かがわかるはず。ライラさまも銀行に潜入するし、わたしはわたしの役割を果たすわ。」


 アッサムがじっとわたしを見つめる。


「リアーノの覚悟はわかったよ。」


そう言って、アッサムの腕がわたしを包み込んだ。

「…ア、アッサム…。」

アッサムの胸の鼓動が聞こえる。


「…このままで聞いてくれ…。俺は「レナード」の役割があるから、王都を長くは離れられない。だから、ニシアに一緒に行けない。それはきっと今後もだ。アマシアでのいままで通りの生活はもう難しいかも知れない…」


「……うん。なにかあるんでしょう。帰って来れない気はしてた…」


「…リアーノ…。」

 わたしを包み込んだ腕がさらにぎゅっとなる。


「…このまま…このまま…リアーノを俺の腕の中に閉じ込めておきたい…」


…うん。


「俺はリアーノが好きだ。」


 わたしを抱きしめていた右手が緩み、頭を撫で、頬に触れる。


 アッサムの瞳から目が離せない。

 熱い視線に耐え切れなくて、瞳を閉じる。

 唇と唇がそっと触れる。


「本当は俺も隣国ニシアに一緒に行って、リアーノを守りたいんだ。」


 わたしの左頬に添えられているアッサムの手の温もりを感じる。


「アッサム… わたし…」

 アッサムの人差し指がわたしの唇を押さえる。

「いまは俺がリアーノが大事だってことだけ、覚えておいて。」


 再びぎゅっと抱きしめられて、アッサムの胸から離れられなかった。


本日も読んでくださり、ありがとうございます。


アッサム、がんばりましたね。

眼鏡じゃない、レナード殿下姿ですが…。

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