ランプの灯と狭い部屋
部屋は簡易な作りのベットと机があるだけだ。
机の上のランプに灯を点す。
机の上だけがポゥと明るくなる。
アッサムはベットに腰を掛け、わたしもその横に座る。
狭い空間にアッサムと二人きり。窓からの月明かりだけが明るい。
いままでも、2人きりとかこんなことはよくあったのに、今日はなんだか落ち着かない。
最近、アッサムに抱きしめられたからかな。
アッサムはどの道、なんとも思っていないんだろうけど。
話しは業務連絡になる。
「リアーノはこのお屋敷に来て、気づいたことはあったか?」
「うーん。本当に役立たずで申し訳ないんだけど、なにも偽札のことについての活動できていなくて、気づくもなにも…。ナンシーさんはいまも使用人のお茶タイムに参加しているし、大雑把そうに見えて抜け目がなさそう人だから、なにかを掴んでいるかも知れない。」
ふと、夕方のあの疲労困憊した作業を思い出す。
「そう言えば、ダナン宰相って、お酒の販売もされているんだね。」
「えっ??」
アッサムが不思議そうな顔をしている。
今日の樽を運んだ作業一連のなどの話しをする。
アッサムがその話を聞きながら、なにか難しい顔をしている。
「樽の中身は蒸留酒っていうのは本当か?」
「門番さんは中身を飲んだことがないみたいで、たぶん蒸留酒だろうという言い方だったけど…それが問題なの?」
「いや…なんとも言えないが、そもそもダナン宰相が酒の売買の商売をしているなんて、聞いたことがない。」
「でも、門番さんの口ぶりでは、ここによく樽が届いて、それを販売しているのは普通のことのようだったわ。」
「…どういうことだ。…。」
不可思議な酒の売買。
宰相は一体なにをしているのだ。
「とにかく、引き続き残り6日、無事に過ごしてくれ。」
「もちろんよ。その間になにか掴めたらいいんだけど。」
「無理は禁物だ。リアーノ。思っていた以上にここはなにかある。」
「どういう…こと…?」
アッサムの黒い瞳と目が合う。
つい、目をそらし下を向く。
アッサムの大きな手が、わたしの頭を優しくポンポンとして、そのまま頬で止まる。
アッサムの親指がわたしの唇をゆっくりなぞる。
わたしは動けず、ただただ、アッサムを見つめる。耳が顔が熱くなっていくのがわかる。
「リアーノ。」
アッサムが切なそうな瞳でわたしを見る。
「だから… あと少し… 大人しくしていてくれ…」
額にアッサムが口づけを一瞬する。
そのまま、ぎゅっとアッサムに抱きしめられ、わたしの頬がアッサムの胸に埋まる。
しばらく、そのままでお互いの熱を感じる。
その時、コンコンコン とノックされる。
「リアーノ、いる?」
ナンシーさんの声だ。
わたしは即座にアッサムの腕から逃げ、アッサムの隠れる場所を目で探す。
「大丈夫。ナンシーさんだろ。知っているから。」
わたしはくぐもった返事をして、恐る恐るドアを開ける。
「リアーノ、お土産だよ。」
さっきのお茶会でテーブルに出されていたお菓子だ。
「わざわざ、ありがとうございます。」
「ナンシーさん。」
アッサムがドアに近寄ってきて、わたしの後ろからナンシーさんに声をかける。
「あれあれまぁ〜」
ナンシーさんの目がまあるくなる。
「ナンシーさん、狭いですけど入ってください。」
声を潜めながら、そっとドアを閉める。
「アッサム、びっくりしたわ。リアーノと「アッサム」として、知り合いだったんだね。」
「説明不足ですみません。リアーノとは幼馴染でして。」
「アマシアの?」
「リアーノに聞きましたか?そうです。家が隣同士で。」
ナンシーさんがなにかがわかった!という顔をしている。
わたしもアッサムとナンシーさんが知り合いだったのにはびっくりしましたよ。きっといまも顔に出ています。
「リアーノ、俺はナンシーさんとは仕事仲間なんだよ。「レナード殿下」の時もいろいろ協力してもらっているんだ。」
「そうだったんですね。」
「ところでナンシーさん、今日、リアーノが大量の酒の搬入を手伝ったようなんですが、その酒について、なにか知らないですか?」
「面白いことを聞いたよ。あの酒、ワインと見せかけて、蒸留酒なんだってね。」
「やっぱり…。」
アッサムは腑に落ちたようだ。
「あれをここ王都で安く卸しているらしいよ。イリ商会という名前で、宰相ではなく息子がやっているらしい。」
「アッサムはなにかわかったの?」
「いや、王宮で酒税の資料を調べないとなんとも言えないが、宰相の身内で酒税を納めている資料を見た覚えがない。それに中身をワインと偽って、蒸留酒であるからしても、その酒は密造酒の可能性が出てきたな。」
…密造酒に偽札…。
今日もありがとうございましたm(_ _)m
アッサム曰く…
我慢が大変だそうです。
なにの我慢かは想像にお任せします。