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逢引きに見える?

 ダナン宰相のお屋敷での仕事は、ひたすら、じゃがいもの皮を剥いたり、玉ねぎを切ったりなどの野菜の下処理やその他雑用です。ナンシーさんは煮物の担当で鍋に張りついていますよ。


 ダナン宰相は生憎、隣国に用事で行かれているらしく、まだ一度も姿をお見掛けしていません。

 お屋敷内を偽札のことで探ったりするタイミングをナンシーさん共々、なかなか掴めなくて、そうこうしているうちにもう4日も過ぎてしまいました。


「おーい、誰か!手が空いていたらこっちを手伝ってくれ!」

 晩餐の野菜の下処理がちょうど終わった時に、外から呼ぶ声が!

「はーい、いま行きます!」

 外に出て呼ぶ声の方に慌てて行くと、そこは食料庫の前でした。

 樽がいくつも並んでいます。

「おおっ!臨時ちゃんが手伝ってくれるのかい!いつものこれが届いたんだよ。」

 お屋敷の門番さんですね。

「はい!もちろん、お手伝いさせていただきます。それにしてもすごい量のお酒ですね。」

 大きな樽が10個は並んでいる。

「全部ワインですか?近々、旦那様主催の舞踏会でもあるんですか?」

「いやいや舞踏会はないよ。これは売りものの酒だよ。ワインではなさそうだがね。たぶん、蒸留酒じゃないかな。」

「蒸留酒なんですね。まさか、ここのお屋敷で作られているんですか?」

 門番さんはアハハハッと大声で笑われる。

「ここには酒製造所はないよ!隣国のザッハという街にある酒製造所から買って売るんだぜ。」

 なるほど。作ってはいないんですね。

「旦那様がいま隣国に行かれているから、また買われたんだろう。」

 宰相は、買付けに隣国に行かれていたんだ。


 その後は大きな樽を2人でヒィヒィ言いながら転がし、食料庫の地下になんとか入れましたよ。


 お屋敷の使用人さん達といつものように賄いをいただいて、みんなでワイワイしながらの楽しいお茶タイムです。

 ナンシーさんは情報収集がてら、お茶タイムに参加するとのことですが、わたしは樽を地下に入れる作業で疲労困憊のため、先に上がらせてもらうことにしました。

 「ナンシーさん、すみません。先に部屋に帰りますね。」

「リアーノ、お屋敷の庭は広いから迷子になるんじゃないよ。」

「ふふふ。た…ぶん、大丈夫です。」

 疲れ切っていて、作り笑いも上手くできません。


 使用人用の建物は広い庭の先の樹々が鬱蒼と生い茂る一角の奥にあります。

 ひとりになれた解放感と、庭に咲く花の甘い匂いで疲れが癒やされていきます。

 樹々が鬱蒼としているところは薄暗く、気味が悪いので早足で抜けようとした時、木の影から黒い物がこちらに向かってきました。


「!!!ッーーー」

手を掴まれます。

咄嗟に振りほどこうとすると…

「リアーノ!オレだよ。」

 聞き覚えがある声に、ハッと見上げるとアッサムです。

「ごめん。驚かせてしまった。」

アッサムがすまなさそうな顔をしています。


「アッサムで良かったぁぁーー。」

 心の底からホッとします。一瞬、お屋敷にきた目的がバレたのではと、焦った。

「リアーノはいまは部屋に戻るとこ?」

「うん。そうだけど… アッサムはどうしてここに?」

「リアーノがちゃんと仕事をしているか心配で見にきた。」

 アッサムがいつもの悪戯っ子のような顔をしてニヤッとしています。

「わたし、信用ないなー。」

 ちょっと、ふてくされます。

「そんな顔をしないで。心配していたのは本当だ。」

 アッサムの大きな手がわたしの頭をポンポンと優しく撫でる。

「アッサムは王宮にいなくて大丈夫なの?」

「大丈夫。いまは「アッサム」だし、上手く抜けてきた。朝までに「レナード」に戻れば問題ないよ。」

「あんまり危ないことはしないでね…。」

 胸が少しチクッとする…ような。


「リアーノ、ここは目立つからリアーノの部屋に行ってもいい?」

 んんっ?なにを言い出すかと思えば!

「…いいけど。ヘンなことしないでよ。」

「ヘンなことってなんだよ。子どものくせに意味がわかっているのか?」

 アッサムがニヤニヤしている。

「もう!わかってるわよ。わたしだって、いつまでも子どもじゃないわよ!」

 こんな会話が恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってくるのがわかって、堪らずプイッとする。

 いまが夜で良かった。赤くなった顔を見られなくて済む。

「ごめん。ごめん。ふざけ過ぎた。」

 アッサムが困っている。


 レナード殿下に変装している時は、この人は本物の殿下なんだと思えるほどの高貴さや麗しさを纏っているのに、いまは屈託なく笑ういつものアッサムだ。


「リアーノ、部屋まで手をつなごう。」

「なに、言ってるの…なんで…手なんか…」

「ほら、誰かに見つかっても逢引きに見えるだろ。」

 名案だろうと、得意げだ。

 わたしの返事を待つことなく、手をつないでくる。アッサムの指とわたしの指がひとつずつ絡む。

 胸の鼓動が指からアッサムに伝わってしまうんじゃないかと思うぐらい、胸がドキドキする。

 アッサムなのに… アッサムに…。

わたしはドキドキしている。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。


リアーノ曰く、

飾り字を書くチャンスがない…

一式、持ってきているらしいです。

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