コミカライズ最終回記念SS:キーモンの秘密のひとつ
時系列では、第2章の最終話とエピローグ〜カモメのような鳩のような〜の間です。
キーモンとジークがダン爺からの特命任務を受けて集合!
今日は俺の秘密のひとつである例の道具について、密かにある人物に伝授しようと思う。(仲間の許可は取っている)
その人物とは最近、難しい仕事を一緒にこなし、信頼のおける人物だ。
その人物がとある特命任務のためにアマシアの港に降り立った。
まっ、どうしても俺の船に乗りたいと手紙をよこすから、わざわざ俺が隣国ニシアに仕事のついでに迎えに行って、俺の船に乗せて連れて来てやったのだが。
「待たせたな。そろそろ行こうか」
船の係留作業を食い入るようにジッと見ていた、この人物。
頭はキレるし、その上器用なもんだから、あの一瞬で係留方法を覚えたに違いない。
ここに来るまでも、船の操舵方法や海図の見方などを逐一いろいろと俺に聞いてきた。
本当に隣国ニシアの筆頭公爵家を継ぐんだよな?
この人物、好奇心旺盛な青年だとは思っていたが、まさか海賊にでもなるつもりか?
この人物が海賊になんぞ本気で目指してしまったら、あっという間に部隊の先輩である俺を超えて、世界の七つの海を支配してしまう気がする。
そんな恐ろしい未来を一瞬想像して身震いをするが、これまた俺の可愛い弟とこの人物が一緒になって船を意のままに操り、海を制するところを少し見てみたい気がするのは俺の心だけに留めておこう。
この人物とは、そう、あの隣国ニシアの筆頭公爵家の次男のジーク・フォンデル。
ジークに俺の秘密のひとつである「かつら」について、伝授するのだ。
ちなみに最近アッサムはこれを俺の「趣味」だと思っている。
アマシアの港の人が少なくなった倉庫街にふたりで歩いて向かう。
この倉庫は、我が家が所有する建物のひとつだが、ここの存在を知るのは家族と限られた仲間だけだ。
パドロック(南京錠)を開錠し、重く大きい鉄扉を人が入れる分だけ開ける。
「キーモンさん、ここは?」
「俺達、特殊部隊の道具置き場だ」
倉庫に入ると、冷んやりとして薄暗い。
そう言えば、もうそろそろ日の入りの時刻だ。
ランプを用意していないので、少し急がねばと足早に最奥まで歩いて行くが、ジークも興味深そうにキョロキョロしながらも黙ってついてくる。
聞きたいことが山のようにあると顔に書いてあるんだから、本当に可愛いやつだ。
俺の弟と気が合うのもわかる気がする。
そして最奥の窓のない部屋に着くと、次は鍵穴にヘアピンを突っ込んだ。
「ま、待って!キーモンさん!キーモンさんもそれ出来るんですか?」
鍵穴にヘアピンを突っ込んだまま思わず手を止めた。
ジークの驚きぶりにこっちが呆気に取られる。
「普通にこれで開けるけど、これがどうした?」
ジークがものすごい目を見開いている。
「リアーノも… 」
そう言いかけて、ジークが急にものすごい破顔した。
「ここではこれが日常なんだ!」
なにかを呟きながら、妙にひとりで納得をしている。
「ヘアピンが気になるのか?」
「そうですね。キーモンさんに話したいエピソードがあります」
ジークはそう言うと、満面の笑みでクスクス笑う。
一体、これだけのことでなにが面白いんだろう?
扉を開け、ジークを先に中に入らせる。
部屋の中は狭いし、窓のない部屋は扉からの明かりしかないため、だいぶ暗い。
これもかつらを良い状態で保管するためだ。
ジークが「すごいっ」と言って、言葉を失っていた。
その反応がうれしい。
なっ。俺のコレクション、凄いだろう。
壁一面に掛かっている様々なかつらを撫でたり、「被ってみても?」と俺に確認しながら嬉しそうに被る。
そして、アッサムの「レナード殿下」のかつらをジークが見つけた。
この時ばかりは彼から笑顔が消え、大事そうに手に取った。
神妙な面持ちでゆっくりかつらを撫で、そっと壁に戻す。
「キーモンさん、いまから飲みに行きましょう!」
「おう!俺は元よりそのつもりだよ。ダンカでの話もゆっくり聞きたいしな」
「キーモンさんに話したいことがいっぱいあります!」
「いいね。じゃ、さっさと行くか」
そう言えば、ジークと2人で酒を飲むのは初めてだなと思いながらも、2人で語らうのも悪くないなと今宵の酒に心が躍った。
読んでいただき、ありがとうございます。
この後、このふたりは様々なことをお酒を酌み交わしながら語らうのですが、第2章配達人役で一部なにを話したのかが書かれていますよ。
気になる方はぜひ一度、そちらもチェックしてみてくださいね。