エピローグ 〜カモメのような鳩のような〜
最後まで読んでいただきありがとうございます。
お姉様達がニシアに帰国してからすぐ入れ替わるように、ニシアにいるおじいさまからアッサムに報告がきた。
幻覚草の栽培畑がニシアのとある侯爵家の領地で発見されたとのこと。
それは国境に隣接する広大な土地で栽培されており、末端価格にしてニシアの国家予算の半分相当!
発見された幻覚草は全て燃やされ、その煙が10キロ先まで見えたとか。人々は自分たちの身近にそんな恐ろしいものが栽培されていたことに驚愕したらしい。
それにお姉様を事件に巻き込んだ教団の教会と同じような拠点がいくつか発見され、全てに調査が入ったとのこと。
すべての黒幕はニシアのあるひとつの侯爵家であり、常日頃から黒い噂が絶えない一族でマークされていたため、今回の事件ではすぐに尻尾を掴めたとのことだった。
事件解決までにあまりにも早過ぎる。
ニシアの陛下とおじいさまのことだ。
取り押さえる機会を今までずっと伺っていたに違いない。
ただ、規模が規模だけにニシアのひとつの侯爵家だけや教団だけでは資金面など難しい面もあり、同盟国以外の国が裏で手を引いている可能性が否定できない。
そこはまだ調査中とのことだった。
アッサムもそして執務室の面々も、この件に関してこれから動いていくらしい。
セイサラの鉱山で原料の窃盗を働いていた者たちも一斉に騎士団に捕縛された。
よくある話だがこの事件を機に、身元の確認や入出庫管理が厳しくなり、それを怠った時の厳罰化も検討されている。
皇太子殿下は法律を変えなければならないこの案件で、各所の調整に忙しくされているらしい。
お姉様からも無事にニシアの王城に着いたとの知らせと改めてお礼の手紙が届いた。
お母様とターナーさんはお姉様の顔を見るなり泣きじゃくって、落ち着くまで大変だったらしい。
その様子がありありと目に浮かぶ。
お姉様ももらい泣きをして、きっと微笑ましい光景が繰り広げられていたことだろう。
お姉様とフィリップ様の結婚式がもうすぐだ。
結婚式に1番に招待をするからねっ!と力強く書かれていたけど、もうお姉様の身代わりはしませんよ。
フィリップ様の独占欲にまみれたドレスを纏い、仲睦まじくファーストダンスを踊られるお姉様を見るのが楽しみだ。
さて、どんなカツラで変装をして出席させてもらおうかな。
まずはキーモンさんに相談してカツラの注文をしなきゃ!
いつかお父様やお母様、そしてお姉様の4人での食事ができる日もそう遠くないのかも知れない。
そんな日が訪れるとうれしい。
わたしにも大きな変化があった
大々的にプレオープンの花火を打ち上げたから、早々に店を閉めることができなくなってしまったのだ!
突入時の火薬の爆発事故に備えて、人々の避難が1番の目的だったとはいえ、開店します!とあれだけ派手に宣伝したんだから、そりゃそうだ。
皇太子殿下が「新しい生活が始まるけど覚悟は出来ている?」とおっしゃっていたのはこのことだったのね。
わたしはアマシアに戻らず、しばらくここでカードのお店をすることになった。
カードのお店をする傍ら、文字を教える教室も始めた。
そしてもちろん、アッサムも一緒だ。
王城がある王都サハからダンカまでは近く、馬なら飛ばして20分ほどの距離のため、なんとアッサムはこの店から「通勤」をしているのだ。
「通勤」や「同棲」をする殿下なんて聞いたことがないけど、それが許されるセイサラ王家は先だっての陛下の宣言通り、新しい時代に合わせていく柔軟性を持ち合わせているらしい。
「リアーノ、生徒さんの椅子がまた1脚出来上がったよ!」
「ありがとう!!」
ジークは次期公爵としていろいろと忙しいはずなのにここで居候をし、カードの店を手伝ってくれている。
家具職人さん顔負けの器用さで椅子まで作ってくれているのだ。
本当にこの人はなんでも出来てしまう。出来ないことってあるのかしら?
「こんな眉目秀麗な家具職人さん、見たことがない!」と店舗兼教室の開店のお祝いに来てくれた旧友がジークを見て騒いでいた。
「アッサムはとっとと「出勤」しろよ」
ジークが悪そうな顔をして笑いながら、出勤前のアッサムを急かす。
「店は俺たちに任せておけ!」
エプロン姿が良く似合うキーモンさんもニカっと笑いながら、アッサムの見送りに出てくる。
キーモンさんもここに居候をしている。
貿易の仕事はどうしたの?と聞いたが、いまは、とある怖い長からの特命を受けて、任務を遂行中とのこと。
ジークも同じ任務に就いているらしい。
名残惜しそうに入口に向かうアッサムにぎゅっと抱きしめられる。
「リアーノともっと一緒にいたいのに!」
痛いほど、ぎゅうぎゅうとキツく抱きしめられて窒息しそうになる。
最近のアッサムは人目を憚ることがない。
ジークがあきれ顔で割って入ってきた。
「待って!ダン爺にこんな姿を見られたら、どんなに恐ろしいことが起こるかわかる?アッサムはよくわかるよね?コウノトリがまだ訪れないように見張るのが俺とキーモンさんの特命任務なんだから!!」
ジークがベリっとアッサムからわたしを引き剥がす。
「コウノトリの訪れにはまだまだ早いからね!!」
ジークがなぜか照れている。
「地味に仕返しをされている」と小声でブツクサ呟いているアッサムが不服そうだ。
わたしがジークとアッサムのそんなやり取りを見て屈託なく笑っていると、アッサムがハッとした様子でわたしを見る。
ふと何かが頭に浮かんだようだ。
「リアーノ、コウノトリの意味をわかっているよね?」
「えっ?カモメのような鳩のような、それでいてまだ飛んで来てはいけない伝書鳥がいるってことだよね?」
一瞬、みんなに間があり笑いの渦に包まれた。
「うん?似ているようでなんか違うよな?リアーノ、肝心な部分がわかってない!」
ジークがお腹をよじって笑い転げている。
「やっぱり…。俺が教えるのか?」
そう言うと、アッサムが顔を真っ赤にして耳まで赤い。
キーモンさんがなぜかアッサムを気の毒そうに見ながら、ムフッと含み笑いをする。
うん。
この空気感が好き。
ずっとこの笑顔が続きますように。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ここまで書き続けて来られたのも読んでくださる方々がおられたからです。
改めて、感謝申し上げます。
尚、第1章が渡部サキ先生の素晴らしい手腕と愛でコミカライズされていますので、ぜひぜひそちらも!
より、面白く可愛く麗しく、きゅんきゅん♡と「幼馴染は隣国の殿下」らしい「幸せな空気感」で満ち溢れています。
★コウノトリの意味をリアーノと一緒で知らない読者様へ
コウノトリは赤ちゃんを運んでくる祝福と幸福の鳥なんですよ!最後のシーン、アッサムがなにやら想像をしてデレましたね。
ちなみに鳩は平和の象徴であったり、希望、愛を意味する鳥なんですよ。
ひとつ前の「最終話」をこの意味をお含みの上、もう一度読んで頂くとよりお楽しみ頂けるかな。