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最終話

読んで頂きありがとうございます。

 翌朝、夜が白々と明けてきて、部屋も薄明るくなってきた。

 店舗の2階では毛布に(くる)まり、助け出された人達と一緒に雑魚寝をしていたが鳩のクルックーという鳴き声で目が覚めた。


 鳩の鳴き声で目が覚めるなんて、いよいよ普通でなくなってきたかもと、寝ぼけた頭で馬鹿なことを考えながら、側で一緒に雑魚寝をしていたアッサムがいないことに気づいた。

 

 助け出されたことで安心しきって寝息を立てて眠っている方々を起こさないように、そおっと起きて階下の店舗に忍び足で降りる。


 階下の店舗では、騎士団の方が騎士だとはわからないように平民服で夜通し警備に当たってくださっている。

 その方たちに挨拶をして、アッサムを探すと外にいるのを見つけた。


 ゆっくり歩きながら外に出ると、数羽の鳩がアッサムの周りを飛んでいる。


「アッサム、おはよう。鳩がいっぱいね」

「おはよう。起こしてしまったか?」

「大丈夫よ。みんなはまだ寝ているわ」

 アッサムの周りを飛んでいる伝書鳩の足には筒が付いている。


「もしかして、これ全部が報告?」

「そうだよ。どこも良い報告ばかりだ!」

 

 アッサムが手を上げると、1羽の伝書鳩がアッサムの腕に降りてきた。

 朝日が昇りだし、アッサムの背中を照らす。

 その光を纏うアッサムは優しく気高い。


「これから、アッサムはより一層忙しくなるね」

 きっと、今日でまた離れ離れになる。

 アッサムは王城のある王都サハに戻り、わたしはアマシアに。


 また、これから会えない日々だ。

 次に会えるのはいつになるのだろう。


 一緒にいたい。


 どうしようもないことだと頭ではわかっているのに淋しくて涙が溢れそうだ。

 

「ああ、そうだな。忙しくなりそうだ」

 眩しい朝日を纏い、アッサムがはにかむように笑った。

「あ、あのさ、リアーノ。提案があるんだ。いっ…」

「えっ?」


 その時だった。

 騎士様がアッサムを呼んでいる。


 アッサムは少し行くことに躊躇したが、わたしに言いかけた言葉をグッと飲み込んで行ってしまった。

(提案ってなんだったんだろう…)




 昨晩はダンカの安宿で泊まったお姉様とフィリップ様とふたりの護衛役のジークは、今日は攫われてきた人達と一緒にニシアに帰国する。

 そして、もうすぐ迎えの馬車が来る。

 もちろん、帰国する船は安全安心ながらに早いキーモンさんの船だ。


 キーモンさん達は攫ってきた人達を運んでいたマストが3本あるあの怪しい帆船を一瞬で制圧したらしい。

 ニカッと笑うキーモンさんを想像してしまう。きっとどんな海賊よりも果てしなく強い気がする。


 

「お姉様、昨夜はぐっすり寝られましたか?」

 わたしが先日まで着ていたアッサムの一張羅のベストとズボンのお下がりを着て、金髪のカツラを被るお姉様は美少年だ。

(わたしはどこからどう見てもただの少年だったのに…さすがだわ)

 これもニシアに極秘で帰城するためである。


「もちろん!よく眠れたわよ。フィリップが倒れるように眠ったのにはびっくりしたけどね」

 同室だったことをあっけらかんとわたしに報告してくれたお姉様は、隣にいたフィリップ様の顔が真っ赤になっていることに少しも気づいていない。


 それでも、ずっと気を張り詰めていたフィリップ様が晴れ晴れとした表情になっているのを見て、わたしもアッサムも同じく心が晴れた。


「今回の成果は未然に偏った思想の団体が計画した無差別爆破事件を阻止できたのはもちろんだけど、1番の成果は火薬の調合や導火線の作り方をわたしが覚えたということにあるんじゃないかしら?セイサラの投擲弾も作れるようになったわよ!」

 これまた、にっこりと無邪気に微笑むお姉様。


 その発言にわたしもアッサムも近くにいたジークも、そしてフィリップ様も一瞬にして凍りつく。


「それ、セイサラの国家機密ですからね。ステファニー王女殿下。貴女の頭の中だけに留めておいてくださいよ」

 笑っているのに笑っていない皇太子殿下が音もなく、怖ーいオーラを纏って現れた。


「今回の事件、いろいろと秘密にしなければならないことが多いのよ。ね!ミリカさん!」

 少し離れたところで攫われていた人達と談笑していたミリカさんという女性がお姉様に急に話を振られて、苦笑いをしている。


 実はミリカさん。ニシアの王城の調理場で働いていたことがある方だったらしい。

 お姉様が料理を学ばれたその場に立ち会ったこともあったようで、今回は最初はステファニー王女殿下だと確信はなかったそうだが、途中で王女殿下だと確信したらしい。

(なぜ確信したのかは、後日こっそりとフィリップ様に報告があったらしい。「色仕掛け」が発端だったとか?お姉様がなにか浮世離れしたことをしたに違いない)


 お姉様と瓜ふたつのほぼ見分けがつかないわたしの存在も攫われてきた人達には驚きと見てはいけないものであり、口止めをお願いしたものの、まことしやかに都市伝説となるのは時間の問題だろう。


 お姉様達を乗せる馬車が到着をして見送る時間となった。


「リアーノは一緒にニシアに帰れないの?」

「また、近いうちにこっそりお伺いします。わたしのなけなしのお小遣いや服をターナーさんに預けたままなので、引き取りに行きますね」

「こっそり伺うとか言わないで。ニシアはリアーノの第二の故郷なんだから」

 お姉様がわざと可愛く頬を膨らませて拗ねてくださる。


「ありがとうございます。とりあえずはここを片付けて、おばあさまが心配していますのでまずはアマシアに帰ります」

「えっ?なにを言ってるの?リアーノはここに住むんだよね。そうだよね?アッサム?」


 わたしとお姉様の会話を楽しそうに聞いていた皇太子殿下が、驚いたように会話に入ってきて、アッサムに確認をしている。


「兄上…ぇぇぇ」

 アッサムが耳まで真っ赤にしながら気まずそうに皇太子殿下を見た。


「えっ?まだリアーノに言ってなかったのか?」

「いろいろ忙しくて、まだ…です。機会を逃したんですよ!」

 アッサムが珍しく、ものすごく照れている。


「これだから。仕事人間は!昨夜、アッサムに助言したよな?早く言った方が良いって!リアーノにも言ったよね?これから新しい生活が始まるけど覚悟は出来てる?と」

 

 花火大会の時にそのようなことを言われた覚えはあるんだけど…

「???」

 何のことかがわからない。

 わたしがダンカに住む?

 もしかして今朝、アッサムが言いかけていた言葉と関係がある?


 一連のやり取りを見ていたフィリップ様がジークに耳打ちをしてなぜかふたりが照れている。

 お姉様もフィリップ様に耳を寄せてなにかを聞いて、目を見開き息を呑むように口に手を当てた。


 アッサムが空を見上げると、なにかを呼ぶように右手を高く上げた。



 クルックー クルックー


 鳩の鳴き声に一斉に皆が空を見上げる。

 1羽の鳩がスゥーとアッサムの腕に降りてきた。


 伝書鳩の脚には見たことがないほど精巧に作られた綺麗な深い青色の筒が付いている。


 アッサムが真剣な表情でその筒を取る。

 その手つきからアッサムは筒の中身がなにかをわかっているようだ。


 みんなが固唾を呑んで見守るなか、筒から「ころん」とアッサムの手のひらに指輪がひとつ出てきた。


 一同が察して息を呑む。


 アッサムが緊張した面持ちで指輪を握りながら、ゆっくりとわたしの前に来るとひざまづき、わたしの右手を取った。


「リアーノ、婚約指輪だ。愛している。ずっと一緒にいたい。一緒に暮らそう」


 真っ直ぐにわたしを見つめるアッサムの綺麗な黒い瞳。


 その言葉…

 アマシアでも「一緒に暮らしてみないか?」と言ってくれた。

 ずっとそう思っていてくれたんだ。

 アッサムも「一緒にいたい」とわたしと同じ気持ちだったのが、叫びたくなるほどうれしい。


 「アッサム、ありがとう。わたしも一緒にいたい!アッサムと一緒に暮らしたい!」


 震えるわたしの右手をアッサムが温めるように両手でぎゅっと握ってから、慣れない手つきでゆっくりとアッサムが指輪を嵌めてくれる。

 指輪にはアマシアの海と一緒の深い青色の宝石が嵌め込まれている。

 アマシアの砂浜で拾ったシーグラスと対のような宝石。

 そして、なぜかサイズがぴったり!


「この指輪はまだ未完成だ。思い出がひとつずつ増えていく度に指輪を増やせるように重ね付けできるデザインにしている。完成はずっと先の未来だ。ふたりでひとつずつ増やしていこうな」


 いつもの悪戯っ子のような顔をしながら、わたしの頭をポンポンとアッサムが撫でた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次回、書ききれなかったので後日談のエピローグです。


★面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

今後の作者の執筆のモチベーションが上がります。

何卒、よろしくお願いします!




⭐︎第1章がコミカライズされています。

「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」

まんが王国さんで先行配信中。

他電子書籍さんでも配信中。

作画は実力派の渡部サキ先生!

渡部先生のキャラ愛溢れる作品をぜひぜひ見に行ってくださいね。

マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。

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