シーズン
「わざわざ付いてこなくてよかったんだが……」
「そういうなって。お前だってこんな夜中に来なくてもいいだろうに」
現在7時。廃校を四人で歩く。
「…本橋さんは帰ってもよかったんですよ?」
「いえ! ついて行きます!」
いつになく秋はそう強く口にし、しかしガタガタと千夏の後ろにしがみ付いていた。千夏はと言うと……なんかニヤニヤしている。
「…海原、ちゃんと本橋さんを守ってくださいね」
「分かってるって! まあ私らに喧嘩売る奴なんてそうそういないでしょうけどね!」
こうして三十分歩く。どうしてか秋の『空間把握』に引っかからず地道に何度か冬人にコールしてもらうが、一向に音がしない。
「…なあ、本当にここなのか?」
その冬人の一言に少し揺らぐが、思い返せばどうも昨日の昼からなかった気がして探すのを続ける。
「冬人、もう一度––––」
それは突然、辺りに鳴り響いた。
流れているのは小五に流行っていたロボットアニメの曲。
響く曲に耳をすませ、その方向に着いた時僕らは背筋が凍った。
彼の墓の前だった。
固唾を飲み、僕はその携帯を手に取る。
それは最近流行りのスマホに似ていたものの、少し性能が違う気がする。
そこに映し出されていたのは、文字化けした名前と、通話を促すスワイプだった。
「…おいおい、霊界からとかだったら洒落にならないぞ?」
「ど、どうしますか春夜さん!」
「お、お、お、落ち着きなさいよあなななたたち!!」
「海原、お前が一番落ち着け。……もしかしたら持ち主かもしれない。あいつを訪ねて来てくれたのかもしれないし、一応出てみよう」
そしてスワイプし、スピーカーに変える。果たして………
『……あーもしもし、自分、そのスマホの持ち主なんですが』
やはりと言うべきか、僕らは安堵し会話する。
「あ、いえ、すみません。僕らも自分の探していた時に見つけたもので。どちらにおられますか? こちらから届けたいと思いますが」
『いやー、わざわざすみません! えーと、多分近くにいると思うんですが……あ、俺も拾ったスマホなんですよ。お借りしたかもしれませんね』
「いえ、お互い様だと思いますから。それより場所を教えてください」
声的には同い年の男子の声だった。どこか懐かしさを感じる気がするが、ひとまずは合流すべきだろう。
『…えーと、廃校裏の、ちょっと不気味な墓があると思うんですが』
「あ、はい。それで」
おそらく合流場所を指定しているのだろう。墓については仕方ないが、皆少しもやっとしてしまう。
『そこで待ってます』
「……えっと、あなたは今どこに?」
『え? だから墓前に』
その言葉にようやく違和感を感じて辺りを見渡す。暗いとはいえ、辺りには人影がない。
「……春夜さん」
スマホに聞こえない声で秋はある事実を告げる。
「……校内、校外に通話していると思われる人物が見当たりません」
「……そんな…」
絶句する。彼女の能力は決して弱くない。むしろその力と知識で『シーズン』の頭脳ですらあるほどの優秀さだ。なのに、彼女でさえ探知できていなかった。
「……あの、本当にあなたはどちらですか?」
『あ! 名前名乗るの忘れてました!』
緊張感を感じない声で答える彼が、もしかすると『防人』のメンバーかもしれないとさえ考える。一言すら相手に情報を与えてはならない。
––––そう、思っていた。
『俺は『平坂 史軌』! ここだけの話、何でも屋をしている葉坂高校の一年だ!』