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第1章 第1話 海の最果て

〜前話Abstract〜

孤島住みのカルソーとフラマは嵐の夜に浜辺で壊れかけの機械人形の少女エリダを見つける。フラマの祖父ガラドム最期の大仕事によりエリダ再起動に成功。その際に孤島の街から人のいなくなった灰色の未来のビジョンと"終わり"のメッセージが発せられる。祖父を失い平和な暮らしの終焉を恐れたフラマはまだ見ぬ外の世界へ救いを求め、三人で船出を決意した。

◆◆◆◆


 いい天気だ。船出から一日が経った。とりあえず浜辺から真っ直ぐ島を離れる方向に進み続けているが、景色も全然変わらず流石に退屈だ。食糧はまだまだもちそうだが、果たしてどれぐらいいけば《偽りの水平線》にぶつかるのやら。

 俺達は考え無しに島を飛び出したわけじゃない。フラマの言う"終わり"のことを疑うつもりはないし、エリダを見ちまっちゃあ外の世界の存在も疑いようはないだろう。だが、そもそも未知の場所への航海なんて普通はするものではないのだ。食糧が半分になって何も見つかっていなかったらおとなしく引き返すとフラマにも伝えてある。

 二人の方を見やる。

 出発してからどこか気が張っていたフラマは、今は少し疲れているようでぼーっとしている。

 エリダはずっと水面を眺めている。興味津々といった様子だ。近寄ってみるとへんてこな形をした魚が泳いでいるのが見えた。クラゲみたいに透明で海の青に溶け込んだその姿は、魚というよりはお伽噺の妖精のような雰囲気がある。


 「きれい」


 「なーんだ。かわいらしいこと言うじゃねえの。てっきり食べるつもりなのかと思ったぜ」


 日光も豊富で食糧が限られている船旅で、エリダはフラマから食事制限を言い渡されていた。


 「む…失礼。この魚は何?」


 「ん? えーと、そうだなあ…」


 「どれどれ? うーん、見た目の特徴からすると深海魚に近そうだけれど」


 フラマが割り込んできた。


 「透明でやわらかそうだし、お腹の模様みたいなのは発光器なんじゃないかな。目が小さめなのも退化したものかもしれない」


 「おいおいフラマさんよお。魚の話で出番をとられちゃあ流石の俺も泣くぜ? まあこんな形の魚見たこたぁなかったけどよお」


 「まあまあ。普通の食用の魚だったら君にはかなわないよ。たまたま本で読んだだけさ。それに僕も種類まではいちいち覚えていない」


 「でも、こんな水面近くに深海魚なんかいるもんなのか?」


 「わからない。成長過程で移動するものや一日の中で深度を変えるものはいるようだけど…ふん…もう一つさっきから気になっていることがあるんだ。海底ってこんなにくっきり見えるものなのかい?」


 ほんとうだ。おかしいぐらいに透き通っていて、普通これほど外洋に出たら見えないはずの海の底まですっかり見通してしまえそうなほどだ。


 「それは深海魚となんか関係あるのか?」


 「逆なんだ。この魚の特徴と合わない。太陽の光が水面の百分の一になる水深までを真光層、ギリギリ光が感じ取れる程度までを薄光層、それより下を無光層と呼ぶそうで、深海魚は基本的に薄光層よりは下にいるはずなんだ。ここらは深さは十分ありそうなのに、どういうわけか海底までだいぶ光が届いている。これじゃあ目の退化や発光器の説明がつかないよ。あれ?そもそもお腹の発光器をカウンターイルミネーションとして使うなら目の退化とも矛盾するなあ。ってことはどっちかが間違って………」


 難しそうな話が始まったなあと思いつつ、また魚とその下に広がる海を覗き込む。


 目を凝らせばどこまでもはっきり見えそうで、吸い込まれそうな感覚がする。


 もしこの海に飛び込んだらどんなだろうか。


 …


 底に何か見えている気がする。


 あれは…船?


 …「カルソー、」


 「おい!カルソー!」



◆◆◆◆


 「すまねえ。ぼけっとし…ウオッ!」


 突然船体が揺れる。顔を上げた俺の視界を、水飛沫が暗澹と飲み込んだ。


 「は? いや、嘘だろ?」


 つい先程までからっと晴れていた空には黒雲が一面に垂れ込んで、降りだした雨に気づいた寸刻の後にはもはや二艇身先も見えないぐらいになっていた。


 あの嵐の時と同じだ。いや、荒れ具合で言えばこないだの比じゃない。水面は怪物の如くうねっているというのに相変わらず海の底は不気味なほどにくっきりと見える。


 「間違いない。ここが《偽りの水平線》なんだろう」


 馬鹿げてる。まるでヒトを嘲笑っているみたいだ。「大いなる自然の力」なんて言い聞かされてきたが、これが自然現象の一言で片付けられるような代物なのか?こんなもんを前にしちゃあ、もう神でも何でも信じるほかない。


 海底に見える船のようなものたちは俺のご先祖のだろうか。ひいひい爺ちゃん以外にもこれに挑んだ人がいたのだろうか。ハッキリ言って"可哀想"だ。


 俺程度のヒヨっ子が、一人で来りゃあただの馬鹿で済んだが、よりにもよって二人も巻き込んじまっている。無責任なのは明らかだ。


 なのに。それでも、だ。


 「なあ、お二人さん。こっから先は正直誰の命も保証できねえ。引き返すか?」


 「君らしくないことを言うね」


 「…俺が言わなきゃなんねえことだろう」


 「こんなところに連れてきておいてかい?それに、そんな顔じゃあ説得力がないよ」


 やっぱり俺も海の男の血筋なのか。自殺行為にも等しいこの状況で、ワクワクする気持ちが抑えられていないみたいだ。本能が先に進むことを求めているのだ。魅せられてしまったのだろう。過去の船乗りも皆。


 「付き合わせてるのは僕の方だ。僕は大丈夫だよ。覚悟はとっくにできてる。なんなら無謀とも思っていないさ。エリダはここを越えてきたんだ。死ぬつもりは更々ないよ。それに君の腕はそこそこ信用してるよ」


 「私も。フラマに同意」


 「おいおい、自信がないのは本当だぜ?」


 二人共々進む気マンマンらしい。というか、エリダはさっきから凄いバランス感覚だ。度々人外な体の曲がりかたをしてはいるが。


 この船に乗っている全員、決意は固まっているようだ。俺らは決して勇敢なんかじゃなく、狂っているだけなのかもな。


 「…それじゃあ、行くぞ。しっかりつかまっとけよ!」

ほんとはもう少しまとめて章ごとに投稿したかったんですけど、モチベ維持の問題で分割します…

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