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異世界からの来訪者-2-



クラウスさんに案内されるがまま、私は宰相殿の執務室へと案内された。その部屋の前でクラウスさんは扉を叩いて中にいる人に声をかけた。


「マクスベル殿、異世界からの客人をお連れした」

「どうぞ」


クラウスさんによって扉は開かれ、私は広い部屋の中へと通された。

部屋の中には大きな執務机があり、部屋の右手には隣の部屋に繋がるとおぼしき扉がある。宰相らしき男は大きな執務机の奥に立っていた。にこやかな微笑みを浮かべた男は、扉の前で立ったままの私のそばまでやって来て、優雅な動作で一礼した。クラウスさんよりは年上だろうが、思っていたよりも若く見える。


「はじめまして。異世界からの麗しきご客人よ。私の名前はメイベル・マクスベル。貴方の来訪を心から歓迎致します」

「はじめまして。マクスベルさん。私の名前は雨宮紫乃。歓迎してくださりありがとうございます。よろしくお願いします」


何をよろしくなのかさっぱりだが、とりあえず丁寧な挨拶をされたので一応それに合わせて軽く頭を下げておく。相手は国の宰相で、私を鑑定する相手だ。下手を打つわけにもいかない。


頭をあげてふと気づく。

え、もう、鑑定終わったの?

そんな私の疑問が伝わったのかクラウスさんが私に向けて大きく頷いてくれた。想像していたような何か、もなくひとまず私の言葉が嘘ではないと証明されたことに、ほっと胸を撫で下ろす。

宰相殿はニコニコと微笑んでいた顔をスゥーと引き締めた。


「…雨宮殿、この度は我が国民が御身を拐かしその自由を奪ったこと心から謝罪致します。また、保護が遅れ多大なる心労をお掛けし申し訳ありませんでした」


かちりと深く頭を下げられ、私は困惑する。この人に謝られる理由がわからないので、とりあえず、頭をあげてもらうことにした。


「貴方に謝られても…。どうか頭を上げてください」


私としてはクラウスさんが助けてくれたので今はもうそこまで気にはしていない。関係のない人に謝られたところで意味がわからないだけだ。


「いいえ、簡単に許されることではないでしょう。だから、貴女をこの国の賓客としてもてなさせて頂きたい。貴女にはこの国の良い面をたくさん知っていただきたいのです」

「…それは、ある程度私のお願いを聞いていただけると解釈して良いのでしょうか?」

「ええ!私の差配で出来ることであれば何なりとお申し付けください」


宰相殿の思惑は恐らく私をこの国に留め置きたいということなのだろう。私はどうやらその場にいるだけで幸運がやってくる青い鳥みたいなものらしいし。だが、それはこちらとしても願ってもないことだ。私はクラウスさんのそばにいると決めたのだから、この国の貴族であるクラウスさんと気軽に会える保証は欲しかった。まぁ、クラウスさんの側にいられるならば彼の奴隷でも良いけれど。

そう思って口を開きかけた私を制するようにクラウスさんが声をあげた。


「マクスベル殿。紫乃が異世界からの客人であるということは間違いないのだな」

「あぁ!間違いないよ。なんという幸運だろうね。彼女が我が国にいてくれさえすれば数多の万難は排されたも同然さ」


宰相殿の茶目っ気たっぷりのその言葉に私は軽く驚いてしまう。クラウスさんとマクスベルさんはわりと親しい間柄なのかもしれない。

宰相殿は私とクラウスさんを、部屋の隣にある応接間のような部屋に案内した。高級そうな皮張りのソファーに座りローテーブルの上に準備された紅茶とお菓子を頂くことになった。

マクスベルさんは部下のような人に声をかけられ隣の執務室へと戻っている。

私の隣、人一人分を軽く空けて座るクラウスさんの顔を見上げた。


「紫乃、この世界において異世界からの来訪者という立場は非常に価値がある。マクスベル殿に悪意があるわけではないが。あまり軽率にこの国に肩入れしすぎない方が良い。貴女は自由であるべきで、その身の安全は護られるべきものだ」


蒼紅の瞳は穏やかに真摯な光をもって私を見返す。この人はどこまで優しい人なのだろう。その心根までも清らかで純白の羽根の幻想すら見える気がした。自らの利益には目もくれず、私が不利益を被ることがないようにと。この国が非常事態に置かれていないから、なのかもしれないけれど、それでも今は私の意思を尊重してくれるつもりなのだろう。


「私の命は貴方に救われた。だから、貴方の側にいさせてくれるなら、何でもいいの。どこへ留め置くのもどこに連れて行くのも貴方の好きにして」


私はにっこりと微笑んで見せた。従順なふりをしながら、私は絶対に彼のそばを離れないことを決意を込めて告げる。クラウスさんは表情までは変わらないものの目を見開いている。その頬が僅かに赤く染まっていて、身勝手なことを言ったから怒らせてしまったのかと思う。けれど、クラウスさんの大きな手によって彼の表情は隠されてしまって、その真意は結局のところ分からずじまいだった。

ほんの少し、席を離れていたマクスベルさんが帰ってくる。


「そういえば、クラウスは雨宮殿のことを名で呼んでいるようだが、ずいぶんと仲が良いんだね」

「…紫乃は、誰に対しても分け隔てなく接してくれるだけだ」

「それは違うわ。私を救ってくれたクラウスさんだからそう呼んでほしいの」


私としてはそこは誤解してほしくないので押しておく。それに対してマクスベルさんが目を見張っている。そして僅かに優しげに瞳を細めて私を見た。


「ほぉ。もしや雨宮殿はクラウスのことが?」

「やめろ!…やめてくれ」


次の瞬間、恐ろしく低く厳しいクラウスさんの声が聞こえて、私はビクリと体をすくませた。



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