救いの神に乞い願う-1-
美貌の神の胸の中で、私は自分が安堵していることを感じていた。
あぁ、助けを、求めるのならば、この人しかいない。
そう本能が私を突き動かした。
次の瞬間、周囲からワァッと歓声が上がった。
なんだろうと頭を上げれば、目に入ってきたのは眉間にシワを寄せて明らかに困惑している不機嫌な顔だった。
ハッとして、私は必死にすがり付いていた彼の首から腕を離す。
あの男はこの人が私を気に入ってくれたと言っていたけれど、だからと言ってよく知らない、可愛くもない女に抱きつかれていい気はしないだろう。
そもそもあの言葉自体、私を助けるためについた嘘だったのでは…?それはそうか。彼が私を気に入るような要素などどこにもなかった。
「団長!いつの間にそんな可愛い子と仲良くなったんですか!」
「なんてめでたいんだ!」
「その子と団長の関係は!?」
上がった歓声はどうやら私と美貌の神に向けられていたようで、私は思わず顔が青くなるのを感じた。
これは不味い、非常に不味い…。
彼にとんでもない迷惑をかけてる。
たぶん、同僚?の騎士達に私との関係を聞かれている神の顔は明らかに渋面を作っていた。
そもそも私と彼は昨日会ったばかりで、その時助けてくれた彼を私が勝手に神様みたいだと思って、再会した彼を見たら安心してすがりついてしまったただけなのだと、早く伝えなければ。
「あの、」
「静かにしろ。彼女と私は何の関係もない。彼女とは昨日会ったばかりだ。彼女もこのような劣悪な環境におかれて不安定になっていただけだろう」
彼の説明に周囲からは落胆したような声が上がった。
そうだ。きっと、彼の言うことに間違いは一つもありはしないのだけれど、けれど、私は違うと思ってしまった。
きっと、どんな状況であったとしても、私はこの人を…。
この人を、なんだ?私は自らの心の声に、首をかしげた。しかし、答えは出ない。
私との距離を一歩分ほど離して、綺麗な顔を私に向けた彼が口を開いた。
「すまない。私の部下が失礼な誤解をしたようだ。貴女に他意がないことはわかっている。このような場所に連れてこられ不安だったのだろう。だが、知り合いでもない男にあのような行動はしない方が良い。私のような男には尚更だ」
私はただ、ただ、申し訳なくなってしまう。この神様みたいな人に謝らせてしまうなんて。私が軽はずみな行動をとったからなのに。それを叱ることなく優しく諭されて私はますますこの美貌の騎士に心酔してしまった。
これは、この神様を、逃す訳にはいかない。私は直感的にそう確信していた。信じるもののいないこの場所で、自らを信じないなど馬鹿だ。
私は彼に向かって頭を下げた。
「貴方が謝ることなんて1つもない。昨日も、今日も、貴方に助けてもらったから、つい貴方の顔を見たら安心してしまって。だからといって失礼なことをしてすみませんでした」
「いや、貴方が謝ることはないんだ」
ほんの少しだけ焦ったような声。周りからも謝罪の声が飛んでくる。
私はそれらをほんの少し不思議に思いながら頭をあげる。私みたいな素性のしれない女との関係を疑われて、彼が不快に思うのは当たり前だろうけど、私がこの美貌の神様と恋人だと思われて怒るわけないのに。
「貴方のお名前は?」
「は?」
「私は、雨宮紫乃。貴方のお名前は?」
「あ、あぁ、私は、クラウス・ファン・ユーネル」
「クラウスさん、助けてくれてありがとうございました。どうか、私をこれからも貴方のそばに置いてください」
あぁ、その為ならばなんだってしよう。