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この場所へ誰に呼ばれたのか -1-



王様との謁見の翌日、私はメイドさん達にお願いした通り、マルフェス王立騎士団第三部隊への挨拶に行くための準備をしていた。

優秀なメイドさん達は、私がお願いした後すぐにクラウスさんに今日、私が第三部隊に挨拶に行くための許可を取ってくれていたらしい。


そして、今日もメイドさん達、アイリスさんとカレンさんとステアさんに選んでもらった衣服に袖を通している。

昨日といい今日といい、私の希望なんてついさっき伝えたばかりだと言うのに、どうしてこうもすぐに衣服を持って来れるのだろう?

なんだか私の服に裏でものすごいお金がかけられている気がするのだが、あまり深くは考えないでおこう。


今日の装いは、昨日とは打って変わって、肌触りの滑らかなシルクのシャツに、これまた上等そうな生地が存分に使われたゆったりとした黒のストレートパンツだ。

パンツのウエスト部分に黒いシルク素材の細いリボンを通してベルト替わりにしている。

これならば問題なく自分一人で着れた。

着替えの手伝いは断ってしまったので、ゴールドの台座に淡黄色の宝石が付いたピアスと、同じ宝石がついたシンプルなネックレスはアイリスさんに付けてもらった。

シャツのボタンは一番上まできっちりと留めて、その上に置かれたシンプルなネックレスが首元にお洒落さを与えてくれている。


「雨宮様は、本当にどのような装いもお似合いになられますね」


優しく微笑みながらお世辞を口にしたアイリスさんに、私は内心突っ込みながらも、表面上はにこやかに感謝の言葉を伝えた。

せっかく褒めてくれている彼女達に向かって、自分の容姿を卑下するようなことを言うつもりはない。

なんでも似合うとは全くもって思わないけれど、今日の装いはたしかに昨日のヒラヒラしたドレスよりかは私に似合っていると思う。

もちろん、昨日のドレスも私に似合うようにと短い時間で選んでくれたことはよく分かっている。

彼女達は、私の好きな色や好きなドレスの種類をたくさん聞いてくれたから。

平凡な家庭で育った私はドレスの種類というものをよく知らないので、体のラインを強調しないものと言ったら、フリルがふんだんにあしらわれた足元がふんわりと広がるあのドレスを選んでくれた。

彼女達の発言に下心があるのか、単なる優しさなのか、それはわからないけれど、それでも悪意を持って言われていないことだけは感じることができる。


「ありがとう。みんなが選んでくれたものが素晴らしいからだと思う」


「雨宮様!ありがとうございます!」


僅かに頬を上気させて嬉しそうに笑う彼女達に、私は改めて頭を下げる。


「これからも私のお世話をしてくれる皆さんには、迷惑をかけることも多いと思いますがどうぞ宜しくお願いします。この世界のことをあまり知らないので、私に至らない点が有れば、遠慮せず教えてください。アイリスさん、カレンさん、ステアさん」


いつまで王城でお世話になるかも分からないけれど、その日まで、私のそばにいてくれるであろう人たち。

この世界のことを何も知らない、異世界から来ただけの別に偉くもない私にも、よくしてくれるメイドさん達だ。

出来るだけ友好な関係でありたい。

私は3人の顔を一人一人見つめながら笑いかけた。


「恐れ多いことでございます。けれど、かしこまりました。この王城に滞在される間、雨宮様に誠心誠意お仕えさせて頂きます。引き続き宜しくお願い致します」


アイリスさんはたぶん3人の中で一番年上で、一番言葉遣いが堅め。けれど、表情はとても柔らかく優しい。


「雨宮様が心穏やかに快適に過ごすことのできる場所を作ることが、私たちの誇りであり喜びです!雨宮様も私達には遠慮なんてしないでくださいね」


ほんの少しだけ砕けた態度で接してくれるのは、カレンさん。終始明るく、私に気を使わせないようにしてくれているような印象を受ける。


「わ、私も、精一杯雨宮様にお仕えさせていただきます。どうぞ宜しくお願いします」


未だ強い緊張感を滲ませる口調と、けれど仕事はそつなくこなすアンバランスな少女。ステアさん。私よりも3つか4つは歳下に見える。


「ありがとう。3人がいてくれて本当に心強いよ」


3人は私の言葉にそれぞれ笑顔を返してくれた。






第三部隊への挨拶に行くまでにはもう少し時間があるなぁと思いながら、カレンさんに淹れてもらったお茶を飲みながら本のページをめくった。

この世界に来て、言語で困ることはなかったが、それは会話のみでしか確認できていなかったので、書き言葉も理解できるのか確認したかったのだ。

ステアさんに頼んで、簡単に読める絵本のようなものを持ってきてもらった。

正直、読めると思っていなかったのだが、あっさりと読めてしまい気が抜けた。そして、文字を書くこともできそうだということを実感していた。

頭の中で考えた文章を紙に書こうとすると何故かこの国の言語に変換された文字が頭に浮かんできた。それをなぞるように書いて、カレンさんに読んでもらう。特に文字や文法におかしいところもなく意味が通じた。

雑用係ならば、読み書きが出来なくても良いかなと思っていたが、流石に名ばかりとはいえ隊長補佐ともなると、書類仕事もあるだろうし出来ないままではいられないだろうから頑張って勉強しなきゃと思っていたのに、なんとも呆気なく問題は解決してしまった。

というか、私この世界でならどの国の言葉でも操れそうな、そんな予感さえする。


(これが、言語チート、とかいうやつか)




「雨宮様、王立騎士団第三部隊のルベラ・ベルベット様と王立魔法師団の副団長のステファン・ドロージー様がお迎えに来られました。入って頂いて宜しいですか?」


どうやらルベラが迎えに来てくれたらしい。もう一人の魔法師団の副団長という人物に心当たりはないが、ルベラと共に来ているみたいだし、アイリスさん達が部屋に通そうとしているところを見ると、別に悪い来客者というわけではないのだろう。


「はい。入ってもらって大丈夫です」


まだ約束の時間には僅かに早い。少し不思議に思いながらも私は立ち上がってルベラと、もう一人の知らない人物を出迎えることにした。

カレンさんに案内されて部屋に入ってきたのは、見慣れた騎士服を身に纏ったルベラと、顔の半分ほどを覆うような真っ黒なフードを被った不審な人物だった。


「失礼致します。紫乃様、お迎えにあがりました」


ルベラの口調に私はパチクリと目を瞬かせた。


「ルベラ、おはよう。その喋り方嫌だわ。いつも通り喋って」


私が心底嫌そうな顔をするとルベラは困ったように頭をかきながら了承してくれた。


「わかった。ごめん!国王陛下が紫乃の後見人になられたから、態度を改めるべきだと思ったんだけど。そんなに嫌そうな顔しないで」


焦ったように私の機嫌を伺う様子が以前と変わらないので、私はにっこりと笑った。それにルベラは安心したように綺麗な顔を緩ませた。にしても、私の後見人に王様が付いたなんて知らなかったな。まぁ知ってても特に反対するつもりはなかったけど。


「それで、あなたはどなた?」


私は、ルベラの後ろにいるフードを被った人物に声をかけた。未だ黙ったままだったその人物は、フードを取ることなく私に対して胸に手を当てて礼を取った。


「このような姿でお目にかかる無礼をお許しください。私は、ステファン・ドロージー。マルフェス王立魔法師団の副師団長を務めております。この度、国王陛下より、異世界からの来訪者である雨宮様の護衛を仰せ付かりました。今後は御身をお守りする為外出時はおそばに付かせて頂きます。どうぞ宜しくお願い致します」


慇懃無礼な印象を受ける固く冷たい声音に、私は首をかしげた。そもそも、私は守られる必要なんてあるのだろうか。しかも魔法師団の副師団長ってかなり上の役職だよね…。異世界の来訪者って、そこまでの危険に晒されるの?


私の疑問を察したように、アイリスさんが私に教えてくれる。


「雨宮様は、異世界からの来訪者でらっしゃいますが、この度雨宮様をこの世界にお呼びした術者はまだ見つかっておりません。術者がこの国の者であればまだ危険は少ないですが、もし、他国の術者が雨宮様をお呼びしたのであればおそらく、他国へと雨宮様を連れ去ろうとするはずでございます。その場合強硬な手段を取る可能性があるのです。雨宮様は、この国に滞在されることを望んでくださいましたので、そのご意志を我々は尊重いたします。そのために、ステファン・ドロージー副師団長が護衛として選ばれたのでしょう」

「第三部隊も当然、紫乃の身の安全を守るけど、術者は基本的に魔法師である場合が多いから、魔法師団の中でもトップクラスの実力をもつドロージー副師団長が紫乃の側について下さるなら安心だよ」


アイリスさんとルベラの言葉に私は驚く。

私以外の誰もが当たり前のことのように話している内容は、私にとって受け入れ難いものだった。

自分の身が脅かされる可能性があるかもしれないということは、なんとなく理解していた。幸運を運ぶ鳥は己が望まぬ何者かに捕らわれる可能性だってあるだろう。

けれど、今わたしが愕然としているのはそちらではなくて、つまり、この世界に私が連れて来られたのは、この世界の誰かが私のことを呼んだからってこと?

そんな身勝手なことがあってたまるか。

こんな世界、私は来たくなかった。

呆然とする私に、声をかけてくれたのは、フードを目深に被ったステファンだった。


「顔色がよろしくありません。どうか、おかけください」


椅子に座るよう促され、私はステアさんに支えられながらソファに身を沈めた。頭の中が混乱していて、言いたいことがたくさんあるはずなのに、言葉が出てこない。



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