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妖が潜む桜の森で  作者: 神楽
第1章 桜の森
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美しい母と出来の悪い娘


「あなたやる気があるの?明日は本番なのよ」


そう厳しいまなざしを美都に向けているのは美都の母、如月千景。


千景は二人姉妹の妹として生まれたが、神社を継ぐはずだった姉は駆け落ちをし家を出て行ってしまった。


そこで千景は姉の許嫁と結婚をして無理やり神社を継がされたのだ。


そんな母はいつも美都に厳しい。


美都はそんな母に優しい言葉をかけられたことは一度もなかった。


千景は華やかな美しい舞で多くの人々を魅了してきた。


しかし、それとは真逆に娘は舞を踊ることも人前に出ることも苦手であった。


気高く、そして美しい母。


内気で、出来が悪い娘。


どうして親子なのにこんなにも違うのだろう。


美都はずっと疑問に思っていた。


そして何より母と比べられることが嫌いだった。


千景は美都に、「舞を踊れることを誇りに思え」と言う。


しかし、美都には誇りになど思えなかった。


なぜなら自分の出来の悪さを思い知らされるから。


「千景、そんなに怒る必要はないだろ」


そう言って稽古場に入って来たのは父、如月慶一郎。


慶一郎は婿養子として千景と結婚し、千景とともに神社を継いだ。


「あなたは口を出さないで。何もわかっていないんだから」


母は父の方を見ることなく、冷たく言った。


「しかし、お前は美都に少し厳しすぎる」


「それは美都が......」


ああ、また始まった。


美都の父と母はよく喧嘩をする。


でも、それは自分のせいだ。


美都は二人の喧嘩のたびに自分を責める。


「ごめんなさい。私のやる気がないから」


言い合いが酷くなる前に二人の会話に美都は割って入た。


すると、そんな美都の一言に母はため息をつきながら


「もういいわ」


と呆れたように言った。


「はい、申し訳ありませんでした」


美都は二人に頭を下げる。


しかし、そんな娘の姿を見ても何も言わない母、何も返せない父。


まるでこの三人の間には家族であるという繋がりがないように見える。


しばらく沈黙した後


「美都、練習はもういい。そろそろ枝を取りに行こう」


慶一郎は頭を下げている美都の肩に手を置き、優しく言って千景に背を向けた。


「はい」


美都もそう返事をし、母の方に向き直ると


「ありがとうございました」


と言って再び頭を下げた。


しかし、やはりここでも母は何も言わない。


こんな時、母の顔を見ることが怖い。


ゆっくりと頭を上げ、母の顔を見ないようにして


「行ってまいります」


と一言だけ告げて背を向ける。


「行こう、美都」


「はい」


そうして父と娘は母を残したまま稽古場を後にした。



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