語り
今からお話しするのは、私が幼い頃に亡くなった祖母の若き日の物語。
生前の祖母は自分のことなどほとんど語らない、穏やかで物静かな人でした。
しかしそんな祖母が亡くなる数週間前、たった一度だけ私にこの話をしてくれたのです。
私はその時の祖母の顔を今でも忘れることができません。
なぜならその時の祖母は儚く、とても美しかったからです。
まるで愛しい人をいつまでも思い続けている少女のように。
そして祖母は窓の外の森を見て言うのです。
「今年も桜が綺麗に咲いている」
と嬉しそうに微笑みながら。
桜なんて咲いていないのに。
きっと祖母には......
と、そろそろ始めないと長くなってそまいそうなので。
では、始めましょうか。
祖母と桜の森に潜む妖たちとの不思議で儚い物語。
よろしければ少しの間お付き合いください。
今から数十年前。
舞台は京都の街を見渡せる山の中、一千年以上の歴史を誇る如月神社。
神社では年に三回、巫女による舞が披露されてる。
春に行われる「桜の舞」、夏に行われる「風の舞」、秋に行われる「月の舞」。
そんな由緒正しい神社の一人娘として生まれた美都。
お話は美都が一六歳になり、春の「桜の舞」が行われる少し前から始まります。
「桜の舞」とは桜の枝を持ち、桜の美しい刺繍が施された衣装を身にまとって舞を披露するというものです。