明治夜鷹人力車紀行
ヨコハマへ行くのであった。
朝起きたらマグロになっていた
3分で死んだ
息できないから
これを4コマにして週刊誌の賞金狙って出したら、メジャー作家がリライトして載せてた。
5回目に、これはそういう雑誌なんだと思いました。
老舗有名週刊雑誌ほろびろ。
朝起きたらマグロの男が寝ていた
3分で死んだ(良い意味で)
マグロはいいね
徳川様のころはもういやになったね。わっちなんざ若いものだからなんにも知らなくて、あっちの組合へ入っては3割こっちのシマに来たら5割、すごい上納取られてた、でもそれが夜鷹なんだきっと前世の宿縁なんだって自分で慰めてた(正しい意味で)。たぶん売られて店に囲われてた(覚えてないからたぶんだよ)、かぶろのときは太夫になれるなんて思ってなかったからね。そしたらほんとになれなかったんだ。なれないっと思ったらなれないよ。なろうと思ってもなれないんだからね。
見世でも隅っこで暗がりがすきさ。目だけ鋭くてゾッと痩せてるから余計厚塗りすると新粉細工みたいで光って見える。二重三重の衣で膨れ上がって作り物の福良雀さ。ソンなのも売り物になるってんで、ひもじいから客をとるんだけど姐さんたちから教わったこと使う機会も無かったからスッパリ忘れてる。そこでちょっとね、工夫をね。
モウ酒も肴も運ばせない。ピシャリ障子を締めてやる。面倒だから福良雀はさっさと白骨だけにしてハイ、これからよ。
蕎麦食うくらいの時間しかかからないね。あとはじっくり寝てもらうさ。真っ朱な布団に埋まってね。懐紙は二枚だね。勿体無いからね。
チチチ目白の朝なきのころ手を引いて送り出してやるときには振り返り、次もまた来るぞと両の手をギュウだ。顔を隠し二本差して駕籠でお帰りになる殿様もいらっしゃった。二度とこなかったけどね。
まあ、そんな大したことではないが、どこの岡場所にもそんなことすんのはいなかったろうね。とにかくこの技だけはだれにも言わない。そこのあんたにもね。説明がしにくいんだ。コウ、左のかいなの裏に小さく赤いとんぼが見えるかい?これを使うやつの印さ。訳ありでね、伊賀者に教わったんだ。
これがあるからね、ほぼ借金は返したみたいだよ。ほかの女と大喧嘩やっちまって、いっそ出ていってしまおうといって、こっそりいくばくかの金をくれたのはあるじだった。ああいう場所の男は悪鬼か阿呆しかいない。阿呆だったね。なにせ顔が思い出せない。
大川端に着いたんだ。似たような御仁とすぐにめぐりあった。表でくらすのは夏は虫がこわい、冬は寒さがこわい。ただ外で暮らすのではなくって、どんな空き地にもルールがあって、そのルールを守らせるお役人のできそこないみたいなのがいるわけさ。てんでここからは世間知らずの遊女が衣装も化粧もなく男から巻き上げる仕事になるわけさ。そう、男を拾うんじゃないよ。巻き上げんだ。
この技でね。
ご維新から向こう徳川様と綺麗なお侍たちがいなくなって、髪の伸び散らかした田舎侍がたくさん威張ってござるよ。とくに威張ってるお役人は服は唐人の真似してへんてこな留め具がたくさんついてて赤だったり黒だったり、短くて袴のものすごい細い、ズボンってやつだな。天子様がお城に入ってからまだそんなに経ってないだろう。あんなに変わるものかね。夜鷹はよく知ってるんだよ。昼間は暇だし夜は聞きたくもない話を聞かされる。とくにこれだけひっくり返って大騒動のときには、そう、締め付けも徳川様のころよりひどくてさ。とうろくしろとうろくしないとか、結局は店についてないとけしからんというわけさ。風俗が乱れるだって?唐人がウブなだけだろう。自分も知らん身じゃあるまいしさ。阿呆らしい。
そんなわけでさ。ここだけの話。横浜にえらく懇意にしてるのがいんのさ。ええ、客だよ。それが呼んでるんだ。急だとかで手紙よこしやがったが読める文字で書いてくれなきゃわからないよ。横に書く文字なんてわっちが読めるわけがない。まあ夜鷹だからどこへでも飛んでくさ。昼は捕まるから夜。こんど陸蒸気なんてものができたろう。海の上をいっぺんに、さーっと、早舟みたいにまっすぐ横浜へ。よじ登ってさ、あそこの上を走ってけば横浜まで一番早い。どうだ、駄賃は向こうの旦那が弾む。弾むに決まってるから、その力車でさーっと、横浜連れてっとくれよ。夜鷹は載せないだって?臭かねぇよ。そういうの、旦那一番嫌ってた。旦那の気に入ったら、何せ横浜の旦那だ、たんと褒美をもらって2台になって帰ってこれるかもしらんよ。
2台でどう引くんだって?
…わっちかい?
明治と大正の間に謎の元号が生まれたのは彼女らのせいだったのである。