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3話:同業、同級、同性、同棲?

(何度聞けば気がすむのよ…)

「…応急処置…以上…」


ユリは4回目となる事情説明をしながら、疲れた様子で答える。


「またそれか!いい加減とどめを刺したと言え!」


中年の兵士は罪を認めさせようとユリに圧力をかける。

何故なら、荷馬車の御者は駐屯所の兵士だったからだ…この街の住人ではないユリに罪を擦り付けようとしているのだろう。


「…子供を引いた兵士が悪いと思うわ…」


ユリも罪を認める訳にはいかない、ラトゥールに来て3日目で罪人など願い下げである。

中年の兵士が机をバンと叩き「このガキがぁー!」と怒鳴と、そこに若い兵士が慌てながら部屋に入ってきた。


「せ…先任長!?治療士が戻ってきたそうです!」

「そうか!?で、子供の死因は?」


先任長は若い兵士に報告を促す。


「はい!なにぶん重症でしたが、施された処置が良かったらしく、命に別状はないと…」

「そ…それは、よ…良かったな…ほ、報告ありがとう…」


若い兵士の報告を聞いていたユリは先任長の顔を睨み、睨まれた先任長は脂汗を滴ながら報告に感謝する。

先任長が若い兵士に退室を促すが、若い兵士は「あと…」と言いながら報告を続ける。


「治療所のルーラさんが、処置した方にお会いしたいそうです…どうしますか?」

「ど、どうしますかなんて……くっ!?」


渋る先任長を睨み付け続けるユリ。先任長は苦い顔をするが渋々了承した。


「連れてけ!」

「あら、謝罪は無いのかしら?」


ユリは当然、先任長に謝罪を求める。無実の罪で捕まり、長時間も同じ事を聞かれた苦痛は計り知れない。何せカツ丼さえ出てこないのだから。


「も、も、もも…」

「早く謝りなさい」


ユリはドスの聞いた低い声と、双子の狐に恐れられた魔力を少し洩らして謝罪を催促する。

先任長は「ひぃ!?」と顔を引き吊り土下座した。


「すす、スミマセンでしたぁー!!」


先任長はユリ謝ると、土下座したまま硬直し、そこからアンモニア臭が漂う。


「やり過ぎたかしら?」


失禁した先任長を見下すユリ。

あまりにも情けない姿の先任長に、居た堪れなくなったので、駐屯所を出ることにした。




「すみません…先任長も部下を庇いたくて…ご迷惑をおかけしました」


ユリは若い兵士と一緒に治療士の元へと向かっている。


「いいえ、誤解が解けただけでいいです。謝罪もいただけましたし」


ユリに謝る若い兵士は深々と頭を下げるが、ユリは畏まらずに平然と答える。

その後、あまり話す事はなく治療士の居る治療所に着くが、若い兵士は別れ際に名を告げてくる。


「私はロマウと言います。何かに困ったら駐屯所を訪ねて下さい…では…」

「……」


そう言うと、ロマウは駐屯所へと帰って行った。


(好青年ね、若いのにしっかりしてるわ…)


別に若い男性が好きな訳ではない。今日始めて出会った男性の中でも、まともな男性がロマウだけだったからの発言である。


「ごめんくださーい」


ユリは治療所のドアをノックする。


「は〜い!」


中から声がして、ドアが開いた。

出てきたのは女性治療士で、今のユリより少し年上くらいのスリム体型な美女だ。


「あら?お嬢さん…治療時間は過ぎたのよ、それとも緊急治療かしら?」


女性はユリを治療に来た子供だと思っているようだ。


「あの…子供の応急処置をしたユリと言います…兵の方に――」


ユリが理由を言うと、女性は心底驚いた顔になり、そしてにこやかに笑った。


「ふふっ♪もしかして、転移者かしら?」

「えっ!?」


女性から転移者と言われたユリは、いきなりの発言に固まってしまう。


「だってぇ『ごめんください』なんて、転移者くらいしか使わないよ〜♪」

「あっ!?…ついクセで…」

「大丈夫だよ〜♪転移者は他にもいっぱいいるし、あの処置を見て確信してたから!」


戸惑うユリ。緊張を和らげようとルーラはユリを中へ誘う。


「まっ、つもる話しは中でしましょう?私、転移者が話す話しが好きなの♪」

「は…はぁ〜」


ルーラに手を引かれて中へ入るユリ、ラトゥールに来てから3日目で転移者とバレた。

ルーラに見えないように雷華に(だ、大丈夫なのかしら、この人!?)と話しかけるが、雷華は『いい人そぅー♪』と、毎度の事だが能天気な回答だ。


治療所というが、中に入るとベッドと机のみの1部屋のみで、あとは居住のため部屋しかない。

ルーラが「いつからラトゥールに来たの〜?」とミルクの入ったカップを渡しながら訊ねてくる。


「それは――」


雷華がいい人と言っていたので、ユリは初日から先程までの事を買いつまんで説明した。


「――へー、3日前に転移したんだ〜」


見た目より物凄く軽い喋り方をするルーラは、あまり驚いていない。


「そうなんです。ノルンとかいう女神に転移されて、身体も――」


転移者の事を知るルーラに、ノルンに怒り心頭なユリは色々と話す。

ルーラは楽しそうにユリの話を聞いていた。


「ユリは私と同い年ね!」


地球での事を話し始めていたユリが、自分と同い年だと分かり、ルーラはユリの手をとり喜び出す。


「そうなんですか?…私が年相応の背丈だった時は、ルーラさんみたいに細くなかったですが…」


ユリはルーラと同級生らしいが、ルーラの体型は地球にいた頃のユリと違い、JKモデルの様な体型なので、ユリは羨ましそうにする。


「ああ〜、私はミュア族の血を引いてるから、死ぬまで若いままなんだよー。死ぬ瞬間にシワシワーってね♪」


死の間際のモノマネをするルーラは、白い髪と赤い瞳を指差してユリに説明する。

ユリラトゥールに来てはじめて、ルーラは異世界人なんだと実感した。


その後もユリとルーラは、談笑を続けた。

ルーラには子供がいて、ここには単身で赴任しているそうだ。しかし、子供には自分が母親だと言えないらしい。


「それは…辛いわね…」

「いいのよー、面白いおばちゃんだと思っててくれてるし、嫌われて無いだけましかなって…」


急にしんみりしてしまったのが嫌なのか、ルーラは「ユリは!ユリの看護士の話を聞かせて♪」と話題を変える。

ユリも湿っぽくなった雰囲気に堪えられないのか、「地球の治療は――」と話を始める。


ルーラに地球の医療を色々と教えたユリは、地球流の医療知識をルーラ教えると約束したり。

その代わりにルーラが、ラトゥールの事を教える約束をしたりと、同業者風の会話が続いた。


ぐぎゅ〜!

「はっ!?」


会話の途中、ユリのお腹が鳴り出し、虫の主は赤面する。

ルーラは微笑みながら「夕食にしましょ♪」と言って奥の台所へと消えていった。


(雷華、ルーラは好い人ね♪)

『でしょ〜?雷華の感は当たるんだよー♪』


たまにこうして柄を握り、雷華と会話する。

ユリは雷華とたわいのない会話を、食事が用意されるまで楽しんだ。



「どうよ、どうよ!ルーラさんの料理は!?」

「恩着せがましいですよルーラ…美味しいのに、有り難みが半減です」

「えぇー、三倍増しだよ〜」


ユリは3日ぶりの食事をゆっくりと咀嚼しながらいただくが、ルーラの"美味いだろう!"圧力が、正直ウザいらしい。

ルーラは「これは!」「こっちも!」と色々と料理を食べさせてくる。

どの料理も美味しいのだが、何故そこまで料理が美味いかをユリが訊ねると、ルーラは少しハニカんでから答える。


「娘にさ、お母さんの味…みたいなのを食べさせてあげたくて…なんてね!あはは♪」


最後はおどけてみせるルーラだが、ユリはそれがルーラの本心だと分かっている。

訳あって娘に母親と言えないルーラ。その、些細ながらの愛情なのだと…。

ユリは、おどけるルーラが作ったハンバーグらしき料理に手を伸ばす。それを口に入れたユリは涙を流す。


「……美味しい…わ、ルーラ…」

「…泣かないでよ…も〜、私も泣いちゃうでしょ!?」


泣きながら料理を食べるユリに、ルーラもつられて涙を流す。

いつの間にか、ユリよりもルーラの方が大粒の涙を流していた。


「えぐっ、えぐっ…」

「…いつか、娘さんに『これはお母さんが作った料理…』と、言える日が来るわよ…」


ユリが嗚咽を溢すルーラの背中を摩る。

ルーラは「う゛んっ!、う゛んっ!」と、鼻声混じりで頷く。


数分後、落ち着きを取り戻したルーラは、ユリと一緒に食器を洗う。


「ユリさぁ、今日はここに泊まりなよー」

「いいの?まだ会って数時間の不審者よ?」


自らを不審者と名乗るユリだが、ルーラは首を横に振ってそれを否定する。


「私のことで泣いてくれるユリが、不審者なわけないじゃん。それに、同い年の話し相手って始めて出会ったんだぁ…」

「始めて出会ったって…何だかそれも…」


ユリは、ルーラには友達がいないのだと勘違いしてしまう。

ルーラは「違うよ〜」と頬を膨らませて抗議する。


「ミュア族って少数民族じゃん?この容姿だと人族の同年代の人からしたら、ねぇ〜?」「あぁ」


ユリは成る程と思う。ユリもルーラが同年代だと分かれば、それは嘘だ!?と言ってしまうし、ましてや羨むだろう。

しかし、今のユリは齢42才にして、体は中学一・二年生並みの容姿だ。

ルーラと並んで歩けば、姉妹と間違われること間違いなしだろう。

納得したユリはルーラに目を合わせる。

ルーラは「…ダメ?」と、再度ユリに泊まってほしいと頼む。


「…いいえ…こちらこそ、お邪魔になりますね♪」


お世話になるのは私なのだとユリは思うが、ユリのお泊まりが決まった瞬間から、ルーラは歓喜の舞いを踊り出す。正直、手に持っている皿が危ない…。


「よっし!今日は二人で雑魚寝だー♪」

「ちょっと!?洗い物は――」


大量に残る食器を放置して、ルーラは「明日♪明日♪」と上機嫌でユリの手を引き、寝室へ向かう。

ルーラは雑魚寝と言いながらも、ユリに地球の話しを強要する。その後、ルーラの可愛い愛娘の話が始まり、ラトゥールに来て3日も寝ていないユリは、壊れたラジオのように喋り倒すルーラの声をBGM代わりに、そのまま睡魔に襲われ夢の世界へと旅立っていった。





 (この街の名前はヘランというらしい、インデステリア王国ユーステリア領・ガルデア平原最北部にある田舎街。今私は、ルーラのお手伝いをしながら、ラトゥールの事を学んでいる)


「ユリ〜、次のひと入れていいよ〜ん♪」


現在、治療所の診療時間であり、ユリは治療待ちの人の整理と受付をしている。勿論、治療士のルーラは治療を行っている。


ユリがこの街にやって来てから5日が過ぎ、ラトゥールの常識を着々と覚えていくユリだが、その容姿に見会わない性格と落ち着き方からか、街の男共が美少女のユリへ好意をよせてくる。


「ユリちゃん!は、花を持ってきま――」

「ユリちゃん今度、飯に行――」

「俺と付き合っ――」


そんな男共をユリは「治療のじゃまなので…」「ごめんなさい…」「寝言は寝てから言いなさい!」など、段階的にきつく当たる。それもまた男共のツボだったりする…。

ちなみにこの世界では12才で結婚が出来るらしいが、一般的に成人と言われるのは15才からである。


「お疲れ〜、今日もモテモテだねぇ♪ユ〜リちゃん!」


治療が終り、受付の雑務をしていたユリを、ルーラがからかいにきた。

初日こそ普通だったが、二日目からはユリはルーラのかっこう玩具と化していた。


「…うるさいですよルーラ、私の仕事の邪魔をしないでください…」

「も〜、ツンツンしちゃって〜♪」


ルーラはユリの反応が好きらしく、暇さえあればユリを構いにくる。

見た目少女のユリと、年を取るが老けないルーラがじゃれると、何とも絵になるような…。勿論、ユリは百合ではない。


「邪魔です!」

「いいじゃ〜ん」


ルーラがベタつくのは、ユリの容姿が11才の娘に近いのもあるらしい。単身のルーラは娘が恋しいようだ。


そんなこんなで仕事が終ると、今度はルーラによるユリ勉強会が始まる。


「――ここまでが、インデステリア王国の事かな〜」

「ルーラ…これだけですか?」


ユリは、今いるインデステリア王国を含め、魔王国、神聖ミナルディ皇国、獣王国、その他の諸外国を、経ったの5日で網羅してしまった。


「そうだよ〜。ユリの覚えが早いから終わっちゃったわ〜」


ルーラは肩を回しながら答えるが、勉強会とは名ばかりで、治療所にある本をユリに読ませただけなのだ。

なにもルーラが手を抜いた訳ではない。ルーラは転移者が全ての文字を読める事を知っている。なので、本を貸せばそこから情報を得るだけなのだ。


「…あとは、自分の肌で感じるしかないのね…」


ユリは最後に渡された本を読み終り、元のところへと戻す。

その呟きが聞こえたのか、ルーラがユリに焦りながら言う。


「ももっもしかして出ていくの!?もっといてよー!」

「あ…いや、出ていくとは…」


ユリの後ろからお尻に抱きつくルーラ。ユリはどう返して良いか困る。


「ル、ルーラ……百聞は一見に如かず、という言葉があります――」

「――ぁあっ!?体験しないとねってヤツかぁ〜、焦ったぁ〜」


ルーラはこのことわざを知っているようだ。

ユリは「そう言うことです…」と、ルーラをお尻から引き剥がす。

ユリはまだ知識としての情報しか得ていない。この世界では、なにかしらの経験を積まなければ生きていけないと、この5日間で感じたのだ。


「もうしばらくは、ご厄介になるかと――」

「――だよね!あと1ヶ月…いや、あと3週間はいてね!」


取り合えずはこの街から情報や経験を…とユリは思うが、ルーラはどうしてもユリにいて欲しいようだ。

ユリは「…はいはい」と言い、片付け途中の本を本棚へ戻した。


「すみませーん…」

「あら?」


治療所側の玄関から声がする。もうだいぶ診療時間は過ぎているが、友達らいし友達がいないルーラにお客が訪ねてくるはずはない。


「誰だろー♪」


ルーラが「ユリお願〜い♪」と、何だかニヤニヤしながら頼んでくる。


「…確認してきます」


雑用全般をそつなくこなすユリが玄関に向かう。

ユリは「いま開けます」と言いながら鍵を外し、ドアを引くと玄関先には、年若い女性とユリより少し背の低い男の子が立っていた。


「ご用件は?」

「うっ!?」

「あ…こら〜」


ユリが用件を訊ねると、男の子は女性の後ろに隠れてしまう。


「メ、メミュ姉ちゃんが代わりに…い、言って……」

「アマティセが自分で言いなさい!」


この二人は姉弟みたいだ。姉の後ろで恥ずかしがる男の子の顔を、ユリはちゃんと覚えている。


「怪我の具合はどうですか?まだ傷みます?」

「あ、う、あの、そ…の……」

「まったくもー!はいっ!」


緊張し過ぎて上手く言葉に出来ないアマティセを、姉のメミュが無理矢理ユリの前に立たせる。

アマティセは「あ、う、あ、う…」と魚のように口をパクパクさせるだけが精一杯のようだ。


「どうしたの〜?」


ユリの帰りが遅いので、ルーラが玄関先ににやって来る。ルーラは「おおっ♪」と、何かに気づいたようで、アマティセの前に行きニヤニヤする。


「なになに〜♪ユリへ告白に来たのかなぁ♪」

「うっ!?ち、違う!?」

「ルーラ…」


子供であろうとからかうルーラ。ユリが呆れてルーラと立ち位置を入れ替わる。


「お礼を言いに来たのは嬉しいけど、私は大した事はしてないわ。だから、お礼を――」


ユリは自分ではなく、ルーラへ言ってほしいと優しく言おうとしたが、アマティセは「違う!」と声を荒げて自分の後ろに隠していた萎れた花束をユリに差し出す。


「――お、お姉さんが!ぼ、僕を助けてくれたって…あ、あの処置が無かったら、死んでたって!?…ルーラさんとメミュ姉が……」

「そんなこと――」


もしかしたそうかもしれないが、ユリは応急処置をしただけで、この子を助けたのはルーラだと思っている。花束を受け取れないユリにルーラが「貰ってあげなよ?」と、ユリの手を花束に近づかせる。


「――そうですね…。ありがとうございます。アマティセくん♪」

「う、うん!ありがとう、ユリさん!へへへっ♪」


花束を受け取ってもらえたアマティセは恥ずかしそうにするが、表情は晴れやかだ。

姉のメミュが「渡せてよかったね♪」とアマティセの頭を撫でる。


「よしっ♪主役が揃ったから、中へ入ろー!」


急にルーラがはしゃぎ出してユリとアマティセの手を掴む。

理解が追い付かないユリが「主役、とはなんですか?」とルーラに訊ねる。


「えー、快気祝いの主役だよ〜♪ねっ、アマティセくん♪」

「うん!」

「アマティセはこれが楽しみで、ルーラさんに言われた通り、ちゃんと安静にしてたしねぇ♪」


それを聞いたユリは、ルーラが昼間からニヤニヤしたり、コソコソと何かを作っていたのを思い出した。

先ほどこの二人が訪ねて来た時、いつもはルーラが玄関へ出ていくのに、ユリへ頼んだのはアマティセの花束の件があったからだと、ユリは微笑んでから「まったく…」と呟いた。


この姉弟は親がいない。ユリは目を潤ませながらメミュを抱き締めている。


「偉い!メミュは偉いお姉ちゃんよ!?」

「あ、ありがとうございます…」


あまりの変貌にたじろぐメミュ。ルーラが「今日はお酒も有るよー♪」と言って、お酒好きのユリがバカスカ飲んで上機嫌なのだ。

ちなみに明日は休診日なのでルーラも飲んでいる。


「アマティセも偉いわ♪ちゃんとお姉ちゃんの言うことを聞いて…姉弟の絆ね!」

「うぐっ!く、苦しい…お酒臭い……」


今度はアマティセに抱きつく。すでにユリの歳はルーラと同じだと教えており、最初は信じてもらえなかったが、このおばちゃんトークで、ユリがルーラと同い年だと姉弟は信じたようだ。


「あははっ♪アマティセくん、顔真っ赤になってるー!告白しちゃぇー♪」

「な、なってねぇーし!?しねぇし!」

「アマティセも年頃ねぇ、ユリさんは年下には興味ありますかぁ?」

「年下ぁ〜?」


ガチで酔っ払いなユリはアマティセを見つめる。アマティセが「な、な、なんですか!?」と、本日最高潮の緊張感を張り巡らし、そして、突如ユリがアマティセに激しく頬ずりをした。


「甥っ子みたいで可愛いわぁー♪」

「はい、失恋〜♪」

「ドンマイアマティセ!」

「う、うるせー!?」


真っ赤な顔で頭からは湯気が出ていそうなアマティセの初恋は、ルーラとメミュのお節介な一言で終わりを告げた。


そしてユリは、このあと重大なミスを犯してしまう。

それはルーラが快気祝いの片付けをして、ユリが寝ている部屋へ覗きに行った時だ。


「ユリー、ちゃんと寝てる〜?」


ドアを開けるルーラ。酔っ払ったユリがちゃんと寝ているかを確認しに来たようだ。


「でしょ〜♪メミュは良いお姉ちゃんよねぇ♪」


ユリはベッドに上半身だけを預けて寝言を言っている。

ルーラは「だらしないなぁ♪」と言いながらユリに近づくが、ユリは「雷華は〜、まだ子供かなぁ?」と、寝言ではなく、人と会話をするように喋っている。


「えー、ルーラがぁ?…ルーラも寝てるわよぅ……うぃぅ…」


ユリはそう口にしながらムクリとベッドから起き上がり、後ろを振り向く。ルーラは「…えへへ♪」と、少しばつが悪そうにハニカんだ。


「ルーラ!?」

「ごめん!ちゃん寝てるかなって確認しに来たの!約束破ってごめんなさい!」


ルーラがいる事に驚くユリ。ルーラがユリに謝罪すした理由は、ルーラがあまりにもかまってちゃんなので、『寝る時は部屋に来ないこと!』と、ユリと約束をした事にたいしてだ。


「そ、それは、ご迷惑を…」

「えっ?あ、いや、別に…私が悪いし…」


ユリがいつものように怒るわけでもなく、どこかよそよそしい態度なのをルーラは感じとる。

そしてユリが、何故、剣の柄を握っているのか、ルーラは少しユリが恐くなり後ずさる。


「まってルーラ!?ちゃんと話すから!だから…そんな顔、しないで……」

「えっ?」


ユリの言葉に、ルーラは部屋にある鏡を見る。その顔は、ユリから見れば拒絶とも取れる疑いの表情だった。


「ち、違うよユリ!?ちょっぴり剣が怖かっただけで……」

「そ、そうだったの…ごめんなさいルーラ。もう聞こえたと思うけど、実は――」


ユリはルーラに「柄を握ってみて…」と雷華を向ける。

握る事を躊躇するルーラ。ユリが「大丈夫、信じて…」とルーラに目で訴える。

ユリを信じ、ルーラは恐る恐る雷華の柄を握った。


『ぅわっ♪』

「きゃー!?」

「雷華っ!!」


ルーラが雷華を握った瞬間、雷華がルーラを脅かし、ルーラは床に尻餅をつく。


「驚かしちゃダメでしょ!?」

『えー、ユリちゃんもよく、ルーラちゃんにやられてるじゃ〜ん?』


ユリに叱られる雷華に反省の色はない。

そんな事よりも、頭を抱えて混乱しているルーラを何とかしないといけないユリは、座り込むルーラの前に座り、雷華をちょっぴり触れさせる。


「雷華、ルーラに謝りなさい…」

『は〜い。ごめんなさーい♪』

「え!?なんで!?また頭に何か!?」


脅えるルーラ。ユリはそれを念話だと教えると、ルーラは目を見開き雷華の柄を掴む。


「インテリジェンス・ウェポン!?」

『ヤホー♪えへへー、くすぐったいよ〜♪』


雷華をベタベタ触りだすルーラ。雷華は無機物のクセにくすぐったいそうだ。


「イ、インテリア…ポン?」


ルーラが発した単語を知らないユリは首をかしげる。

雷華が『知能がある武器の事だよー』と教えてくれた。


「すごい!すごい!本物のインテリジェンス・ウェポンに出会えるなんて、生きてて良かったー♪」

『良かったねー♪』


ここまで興奮しているルーラが不思議でしょうがないユリは「…なんか、損した気分だわ」と呟き、興奮している理由をルーラに訊ねる。


「雷華がインテリ…まあ、すごい剣なのだけど、この世界ではそんなにすごいの?」

「すごいなんてもんじゃ無いよ!?光聖戦記で出てくる、光神アイナと死神ミナルディアの剣がインテリジェンス・ウェポン!"白来"と"グラドミス"!――」

「近い…つ、唾が…」


ルーラの説明は続く。雷華のようなインテリジェンス・ウェポンは、神が持つ武器だとルーラは言う。

似たような魔剣も在るにはあるが、どれもこれもゴーレム機関を運用した、命令自律式なんだそうだ。


「は…はぁ…」


勿論、機械やその手の物に疎いユリは理解出来ない。

それよりもユリは思う。

雷華の事を隠さず、最初からルーラに教えておけば良かったのでは?と…。

しかし、それは間違いであり、ユリがインテリジェンス・ウェポンを所持していることがバレれば、雷華を狙う者がユリのもとに押し寄せ、最悪、軍隊まで出てきて戦争になるそうだ。


「――だからね、ユリが雷華の事を秘密にしたのは正しいんだよ!」

『だよ!』


先ほどのユリの心配を余所に、短時間で仲良くなったルーラと雷華。

酔いと不安感が冷めたユリは「なにが『だよ♪』ですか…」と雷華を叩く。


『痛いよー!?』

「そう…なら良かったわ。雷華のせいで、ルーラに追い出されるかもって、少しだけ思っちゃったわよ?」

「お、追い出したりしないよー!?」


不安を漏らしたユリにルーラがすがり付く。


「ユリが居なくなったら、誰が帳簿をかくのよー!」


ルーラは計算が苦手だ。この5日間はユリが事務仕事をこなしている。ずぼらなルーラが書いた書類も、完璧に手直ししてだ。


「なにそれ…もぅ〜」


理由に呆れるユリ。雷華がインテリジェンス・ウェポンだとバレ(ユリは知らなかった)、それを隠していた後ろめたい気持ちが、今は何処へやらだ…。


「はぁ…取り合えず、ルーラは約束を破ったので、明日のお出かけは無しです」

「えー!?じゃ、じゃぁユリの案内係は、誰がするのよー!」

『雷華が案内係〜?』


ルーラは『勝手に部屋へ入らない』の、約束を破った事には代わりない。破ると明日のデート…お出かけは、ユリが一人で行くと告げていた。


「メミュ達がいますから…」

「そ、そんなぁ〜!?」

『ドンマイ!ドンマイ!』


快気祝いの途中に酔った勢いなのか、ユリがアマティセとメミュを誘っていた。それを覚えているルーラは「ユリとデート〜…」と呟き項垂れる。


「…では、寝ます。ルーラもここで寝てください」

「…え、私も?」


床に文字を書き始めたルーラをユリはベッドに誘う。別にユリは百合ではない。


「どうせ、私が寝た後にでも入ってくるでしょ?バレバレだし、それなら今から入っても変わらないわ…」

「…やっぱり、バレてた?」


あれだけ言われていたのに、ルーラは毎晩ユリのベッドに潜り込んでいたようだ。

バレていたどころか、モロにバラされていたのだが…。


「優秀な監視がいますから…」

『雷華が教えてあげたんだよー♪』

「うっ!?そう言えば、そうだった……」


自慢気に念話を送ってくる雷華。ずく仲良くなったルーラは、告げ口した雷華を少しだけ憎んだが、ユリのベッドに入ってからは、雷華と楽しそうに会話をしていた。

ユリはすぐに寝息を立てて、また夢の世界へと旅立つ。そんな夜の、出来事だった…。






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