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影の使い手  作者: 葬儀屋
王城編
9/206

クラスの影

少し長くなりました

「迷ってしまった…」


 まず言い訳をさせてほしい、自分こと影山亨は方向音痴ではない。

 行きたい場所やクラスでの現地集合などは、事前に下調べをしてからいく派である。

 いざという時に遅刻をして目立ってしまうからだ。

 少なくともあの有名な三刀流剣士の剣士よりは、方向感覚はしっかりしているだろう。

 しかしこの城がとても広いうえに入り口が多数あって、どこから来たのか記憶がだんだん希薄になってしまう。


「こんなことになるんだったら城の従者に尋ねるべきだった。」

 ここまでに数人の文官とすれ違いながら、彼らに聞くことは叶わなかった。

 なにせ道を尋ねようにも、彼らの形相が鬼の形へと変貌していた。

 今回召喚された勇者の数は40人弱、クラスメイト一人一人にそれぞれ勇者としての対応をしようとすればその事務処理は計り知れないものとなる。

 そんな彼らに余計な仕事を増やせるほど、自分の肝は据わっていなかった。


「さて、どうしたものか…」

 いかんせんこの状況を打破する手段を模索しなくてはならない。


 さっさとこの迷路を抜け出してクラスの『その他』になりたい。

「念のためスキルの【隠密】をとっておく…か?」

 気配を隠して不測の事態に備えることも、方法としては有効かもしれない。


 しかしその心配は杞憂に終わる、いくつかの角を曲がったところで視界が開けた。

 とても金をかけて作られただろう、噴水を中心としてそこから十字に道が広がっている。

 そして庭に、それぞれ緑の葉を基準とした色とりどりの花が並んでいる。

 もし上から見えたなら、きっと何重にも重なったカラフルなバウムクーヘンが見えるのだろう。


 ここは見覚えがある、窓から見えていた中庭だ。

 三階の自室から見渡せばさぞかし壮観だったのだろうが、生憎昨日はスキルの確認やら柿本の話やらクラスの会議やらでじっくりと眺める機会がなかった。

 こうしてみるとなかなか散歩のし甲斐があるいい庭だと感じる。


 そんなことを思っているとどこかで鈍い音がした。

 自分の耳が聞き間違えるはずがない、クラスの空気を読むために散々鍛え、一番前の席から一番後ろの席の会話が聞こえるこの耳が空耳なんてするはずがない。

 少し怖いが音の発生源を調べようと聞き耳を立てる。

「念のため【隠密】をとっておこうか…」

 口にした言葉を即座に否定する、昨日の偽装のせいで大分 Sp(スキルポイント)を使ってしまった、残りを考えても慎重に判断した方がいいはずだ。


 抜き足差し足で音の発生源へと忍び寄っていくと次第に人の話し声が聞こえてくる、声は庭の隅にある小さな林の陰から流れてきた。

 このドスの効いた声はクラスの不良、中曽根なかそね 隆一りゅういちのものだ。

 誰かと話している会話を聴くところほかに数人、おそらく彼のつるんでいるグループがいるのだろう。


「おいなんか言ってみろよ無職ニート!」

 木の陰から覗いた瞬間そんな言葉が飛んできた。

 見てみると中曽根のグループが輪となって一人の男子に暴行を加えている。

 加えられている男子には見覚えがある、確か中村なかむら 賢人けんとという名前でおとなしい方の男子だ。


 彼らの間にはちょっとした因縁があり、中曽根は中村のことを目の敵にしている。

 クラスで表だっては行わないが陰で良い噂は聞かない。

 柿本に聞いたところ、いつも中村がいじめられるところで、言峰がうまく立ち回って彼の気をそらしてくれたらしい。

 どうして彼らが今ここにいるのだろうか。


 しかし今はそんなことよりも気になることがある、彼の発言の中のセリフ『無職ニート』という言葉だ。

 当然ながら中学生は特殊な場合を除いて学業を本分にしている、自分の学校はバイトは禁止なので基本的にクラスメイト全員が職についていないはずだ。

 ならばここでの職の定義はステータスにある『職業ジョブ』のことを指している。

 しかしながら自分の記憶が確かならば、中村は確か戦士ウォーリアだったはずだ。

 なぜ『無職ニート』なんて不名誉な呼ばれ方を?


「前からお前のことは臆病者だと思っていたが、まさか自分のステータスで嘘つくほどとはな!」

 その言葉を聞いて思わず頭を押さえる。

 かれのその一言で大体のことが理解できた、つまり中村は生徒会長に戦士ウォーリアだと申告していたが実は何の職業も身に着けていなかったと。

 そしてそれがどこを伝わったのか、よりによって中曽根にリークされてしまったという。

 …何というかとても他人事ではない。


「お前のことがもしばれていなかったら、いざっていうときクラスの全員が迷惑すんだよ?わかってるの~?」

 すみません。

 中村に投げているはずの言葉なのに、こっちの心にまで突き刺さる。


 言葉の内容には間違いはないんだが、少なくとも多勢で一人を殴りながら言う事ではないだろう。


 さて、どうしようかこの状況。

 生徒会長に報告してもいいが、そうなると今度はこっちまで目をつけられる、自分のことで手いっぱいな状況で、余計な面倒事を抱えたくない。

 できるなら都合よく今ここに言峰達が来てくれるのがうれしいのだが、そんな出来た話はないだろう。


「はは、お前は俺たちが活躍するのを見ながら、指でもくわえてればいいんだよ。」

 最後に満足げに中村の腹を蹴り上げ、中曽根達は城へと戻っていった。

 後に残ったのは傷だらけの中村だけ、うまいこと服で隠せる部分だけ殴っていたので、はたから見ればあまり目立った外傷はないように見える。


 後で柿本からそれとなく伝えてもらおうか。

 どのみち自分が介入すべきことではない、いったところでより事態を複雑にするだけだ。


 中村に背を向けこの場を立ち去ろうとしたとき、ふと柿本の昨日の発言が頭によみがえってきた。


 クラスの中でいじめられていた主人公がダンジョンなどの危険な場所に取り残されてしまい、そうなってから初めて自分のチート能力に気付きそこからどんどん成り上がっていく。

 そして成長した主人公はクラスメイトと再会しいじめっ子に仕返しするという。


 もしかすると中村がその『主人公』に当たるのだろうか?

 その結論に至ったとき、中村という存在に興味がわいた。 

 『本当に』職業ジョブがないのだろうか?もしかしたら自分は今、ジャックの豆の木を小粒だと嘲笑しているのではないだろうか?

 今はまだ力がないが今後脅威になるのなら早めに知っておいた方がいい。


 ステータスボードを出して一瞬躊躇った後スキルを取得する。

 取得したのは【鑑定】、汎用性がありスキルを取得するのならまずこれだろうと決めていたものだ。


■■■

スキル【鑑定】Lv,1を取得したことにより条件が満たされたため。

新しく【看破】Lv,1を取得できるようになりました。

■■■


 何かスキルを取得できるようになったらしいが今は中山のステータスを調べることが先決だ。

 転がっている中村に対して【鑑定】を行ってみる。


■■■

【Name】 中村なかむら 賢人けんと

【Race】 人間

【Sex】 男

【Lv】1

【Hp】 100

【Mp】 100

【Sp】 100

【ATK】 90

【DEF】 90

【AGI】 90

【MATK】 90

【MDEF】 90


■■【職業ジョブ】■■


■■【スキル】■■


■■【称号】■■

【異世界人】


■■■


 たしかに職業ジョブがない。

 中曽根は見下せる材料として見切った、しかしクラスの中で彼だけが職業を持っていないなんてあり得るのだろうか?

 普通に考えれば実に理不尽で不公平な環境だ。

 さきほどステータスボードに表れていた文字を思い出す。


■■■

スキル【鑑定】Lv,1を取得したことにより条件が満たされたため。

新しく【看破】Lv,1を取得できるようになりました。

■■■


【看破】の説明を見てみると。


■■■

【看破】Lv,1

敵の【隠蔽】Lv,1や【変装】Lv,1など、またそれに準じるレベルのスキルを見破るスキル。

■■■


 名前をみて大体予想はついていたがどうやらその予想通りらしい。

 このスキルを使えば何か彼について新しい発見があるかもしれない。

 【鑑定】と同じで汎用性が高いと思うので取得しようと思う。

 【看破】のスキルもとってもう一度見てみる。

 すると、


■■■

【Name】 中村なかむら 賢人けんと

【Race】 人間

【Sex】 男

【Lv】1

【Hp】 100

【Mp】 100

【Sp】 100

【ATK】 90

【DEF】 90

【AGI】 90

【MATK】 90

【MDEF】 90


■■【職業ジョブ】■■

合成獣キメラ


■■【スキル】■■

<特殊エクストラスキル>


人間擬態ヒューマノイド】Lv,1

■■【称号】■■

【異世界人】


■■■


 メッキがはがれるようにして文字が浮かんできた。


■■■

合成獣キメラ

様々な魔物を人の体に宿した職業。

「魔物の力を扱う能力」を持つ。

基本的なステータスが低くなる代わりに、扱う魔物の種類によってステータスが変動する。


人間擬態ヒューマノイド

周囲からの畏怖の念を避けるために人間の状態になるスキル。

合成獣キメラ】という事を隠すため職業ジョブは表示されない。

【鑑定】Lv,1まで欺ける。

■■■


 『面白い』

 説明を一通り読んで出た感想はその一言に尽きた。

 一見あまり強そうに見えないが、彼の努力次第で後々化けることになるだろう。

 とりあえず彼には一応警戒しておく必要がある。

 意外なところで介入してくるかもしれない。


 一定の収穫を得た後、中曽根達の後をつけていく。

 彼らについていけばクラスに合流できるだろう。

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