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影の使い手  作者: 葬儀屋
日常編
48/207

感謝祭の主役達

神聖ルべリオス王国で年に一回行われる『ルべリオスの感謝祭』

祭り当日は見事な快晴だ、涼しい風が吹き横になれば気持ちよく昼寝ができる。


俺、柿本俊は今この祭りを楽しんでる最中...のはずだ。

素直に楽しめない、なぜなら


「言峰様、次はあちらに向かいましょう?」

「いいえ言峰君、まずこちらに向かいましょう。」

「言峰さん、言峰さん、あっちで腕相撲大会やってるからウチと行かないか?」

「みんな引っ張らないでよ、順番に回っていこ?ね?」

今俺の目前で勇者言峰が王女、生徒会長、スポーツ少女に引っ張りだこ状態されている。

くそう、うらやましい...じゃなかった、なんて奴だ。

そういえば王女様、いつの間にか言峰のハーレムメンバーに加わっていた。

恐らく俺の盟友、影山との戦闘で少女を助けようとする言峰のひたむきな背中が、王女様の胸をトクンと打ち抜いたのだろう。


まぁそれだけならいい。

もともと王女様は言峰を一目見たときからその気はあったし、別にあんなキラキラな美少女を取られたからと言って悔しいわけじゃない。

...本当に。誓って本当に。


「おお勇者様だ!」

「キャー言峰様よ!」

「この国の守護神だ!」

言峰は行くとこで盛大に歓迎されている。

そりゃそうか、あいつはティファの件で一躍この国一番の人気者になったわけなんだから。

言峰の周りにはすぐ人垣ができてしまう、王女様の護衛の騎士達がその中から道を作って誘導してくれなければ俺は祭りが終わるまでこの中にいたかもしれない。

騎士をつけてくれた王国には感謝する。


ただ俺が本当に許せないのは、祭りを自由に参加できる制限として王国側が『クラス全員一緒に動くこと』としたことだ。

誰だよこんな案言い出した奴、おかげさまでクラスの男子は目の前で漫画のようなラブコメを見させられることになったんだぞ。

先生怒ってないから出てきなさい!俺先生じゃないけど。


まぁ監視がしやすい、ていうのが王国の本音なんだろうから素直に従うしかないのだけれど。

それにクラス単位で動くといっても、一つの場所に行ってそこである程度自由に散策した後、再度集合してまた別の場所に行く、といった感じなのでそこまで不自由を感じているわけじゃない。


出店で焼いた肉やお菓子などを食べ、たまたま見かけた大道芸を見て大いに楽しんだ後、俺たちは大きな広場の一角を陣取ってどこへ行くかを検討していた。


「次はどこへ行きますか?」

クラスメイト達の前で生徒会長が司会を務めている。

まぁ俺としてはもう一回出店ゾーンへ行って、美味しいものを発掘したいのだが。


そんなことを思っていた次の瞬間、俺はクラスメイトの井川の言葉に最高の気分を急降下させられることになる。


「俺、次冒険者ギルドに行きたい。」

「...え?」



◆◆◆



「なんでこうなったんだ...」

俺はギルドへの道を歩きながら呟いてしまう。

ちょっと待ってくれ。

20字以内で簡潔に述べてほしい。


すると隣を歩いていた井川が答えた。

「さっき冒険者とすれ違ってな、せっかく王城から出たんだから冒険者ギルドに行こうってことになったんだ。

お前も大賛成だろ?」

「え、まぁ...」

いつもの俺なら何のためらいもなく賛成するが、今回は違う。


俺の盟友影山、いやクロードは冒険者だ。

冒険者なのだからギルドにいてもおかしくない、するともしかしたら冒険者ギルドを訪ねた勇者言峰や、他のクラスメイトと鉢合わせするかもしれない。

俺が考える中で一番最悪なのは、クロードの正体が言峰達にバレることだ。


「いやそもそもなんで冒険者ギルドにいくことになったんだ?」

勇者として召喚されてから少し経った頃、俺たちは王国から国内の名所を案内されたはずだ。

その時に行かなかったのだろうか?


「いや、実は冒険者ギルドからの出し物の中に、めったにお目に掛かれない伝説の代物があるらしくてな。

これは一目拝んでみたいって事になったんだよ。」

「伝説の代物?」

なるほどね、と心の中でため息をついてしまう。

そりゃあゲームをたしなむ中学生たるもの、このゲームのような世界で『伝説』とか『レア』という単語が耳に入れば、ついつい足が向かってしまうのは自明の理というものか。


「王女様は反対しなかったのか?」

影山から『王国は勇者を冒険者にしない』という話を聞いていた俺としては、そこがかなりの疑問だった。

『伝説の代物』なんてもの見せられたらクラスメイト達が冒険者に興味を持ってしまうのではないだろうか?


「それも大丈夫だ、王女様『このようなものを手に入れる冒険を、後でたくさんしてもらいますので安心してください』って言ってから許可だしたから。」

「あぁ...」

どうやら『勇者たちの気持ち』と『王国としての方針』を考え合わせた結果、そんな答えになったらしい。

王女様のストレスがやばそうだ。


閑話休題それはともかく


「祈るしかないか...」

もう事態は自分が収拾がつかないほどに動いている、こんなことならオークの焼き肉に舌鼓打ってるんじゃなかった。

もうできれば影山と言峰が鉢合わせしないように祈願するしかない。

影山、運が悪かったらスマン。


◆◆◆


「さぁさぁこちらは数十年前に一度しか出なかった幻の酒、『森の滴』だ。

魔法薬ポーションとしても最高級に引けを取らない代物だぜ。」

冒険者ギルドの前では今年の酒の競りが行われている。

中年の厳つい体の人が大きな声で樽を叩きながら、商人や富裕層に呼び掛けている。

とりあえず俺は影山と鉢合わせしなかったことを神に感謝した。


「あの方はこの冒険者ギルドのギルドマスター、バットという人物です。」

王女様が俺たちに説明をしてくれた。

「強いのですか?」

そんなことを言峰が質問する。

そりゃぁないぜ言峰、強くなかったらギルドマスターになんてなれないだろ?


「はい、バットさんはこの国でも1,2を争うほどの実力者と言われています。」

やっぱりか、俺もいつかチート能力を身に着けたら勝負を仕掛けてみようかな?


「(金貨)200!!」

「205!!」

そんな未来への自分の妄想を膨らませている中、競りの値段はどんどん上がっていった。

すると言峰が王女様に質問する。


「あの...お酒って15歳から飲めるのですよね?」

「はい、そうですがどうしました?」

おっとまさか?


「あのお酒って魔法薬ポーションの代わりにもなるらしいですし、これから戦う身としては手に入れておきたいです。」

そして言峰が下を向きながら。


「それに...伝説のお酒っていうもの...その...少し味見してみたいです。」

そっちが本音だろう?


すると王女様はクスリと笑ってギルドマスターの所まで歩み寄っていき、ギルドマスターと何か交渉していた。

するとギルドマスターが大きな声で

「いまこの酒を勇者様が一部貰いたいそうだ!

どうだ!この酒に『勇者も飲んだ』って箔が付くんだが反対の奴はいるか?」

と言ってきた。

あの人本当に宣伝がうまいよな。

当然反対する人なんかいない、満場一致で一瓶がクラスに送られた。


ふと辺りが赤く染まっていくことに気付く、どうやらもう夕方のようだ。

クラスの雰囲気はすっかり伝説の酒を飲んでみようという事でまとまっている、もう王城に帰るだろう。

俺は影山に遭遇しないか気が気でなくて疲れてしまった。早く帰れるなら歓迎だ。










「ご苦労さん、変な気使わせたね。」

そんな言葉が後ろで言われたような気がした。


その後、酒を飲んで言峰達が色々とラブコメのお約束をするのだがそれは別の話で。

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