断章/談笑 裏方と悪戯っ子
「やぁやぁ二人とも立派に着飾っちゃって。
お姉ちゃんは鼻が高いよん」
表彰を受ける弟子を、クラマが千里眼を用いて保護者視点にて見守る。
自分ことクロードもとい影山亨は、ヴァンシュタイン城内の一室にて、彼女と共に待機していた。
「いよいよ弟子育成計画の最終段階に入ったって感じだねぇ
クロードの中では、今のリベリオンズの成熟度はどのくらいなんだい?」
「三割弱」
「低ぅ……」
あまりに予想を下回っていたのか、彼女は驚愕の表情で紅い瞳をこちらに向ける。
「中村と遠藤は、予想以上の成長を見せてくれた。
問題は他のメンバーが揃わなかった点に尽きる」
「と、言いますと?
あんたの理想のメンバーは?」
息を吐き、自分の失策を曝け出す覚悟を決めてから、名前を順に羅列していく。
「中村、遠藤、エスト、ローザリンデ、ナイトハルトとなっていた、はず。
……計画通り進んでいれば」
指を折りながら数えていた烏族が首をかしげる。
「……ナイトハルト君とローザリンデちゃん、リベリオンズから去ってんじゃん」
「十中八九、ナイトハルトはローザリンデが所属するリベリオンズに、流れで加入するものだと決めつけてしまっていて……ね」
完全なる誤算である。
ナイトハルトの、断固たるパーティ立ち上げの決意を見通せなかった。
「命を助けた恩として、リベリオンズへの加入を確約させれば良かったのに」
「その手は使いたくない」
クラマの提案を、間を置かずに却下する。
「加入も脱退も、本人たちの意思を尊重したい。
それに、『主人公』の仲間の人生を恩で縛り付けるというのは、『端役』の範囲から逸脱しているようで性に合わない」
合理主義の遠藤に話したら、鼻で笑われるであろうか。
しかし、自分の立ち位置は、黒幕ではなく黒子であると決めていた。
リベリオンズのメンバーを、己の手駒のように扱うつもりはない。
「肝心なところをポカをした、阿呆だと笑うか?」
「いんや? あんたのそういうこだわり、あたしは大好きだよん」
自分の信条の理解者である山伏は、ニマニマと笑みを浮かべた後、何かを思い出したように側頭部に人差し指をあてた。
「するとなんだ。ヤコちゃんが憲兵から脱走してリベリオンズへ加入するのも、当初の計画には入っていなかったのかい?」
「クラマの遠藤評価を聞いてから、急遽計画に組み込んだ。
もう少し先の加入になると思っていたが、彼女の遠藤に対する想いは、こちらの想像よりも強かったという事らしい」
「賢いエンドウのことだ、ヤコの一件の裏にあんたが暗躍している事を薄々察しているだろうね」
「自分もそう思う」
広いルべリオスの王都で、偶然にも、リベリオンズが滞在していた蝶の羽ばたき亭の前に行き倒れになるなど、いったいどれほどの極低確率か。
頭脳明晰な遠藤であれば、この影山亨が導いたことに既に気が付いているであろう。
「憲兵様も謝罪したんだ。あんたも腹きめなよ」
「分かってる、今度会った時に一発殴られるつもりだ」
遠藤の心にヤコを受け入れさせるためとはいえ、彼女を危険な目に遭わせたことについては言い逃れ出来ない。
けじめはつけるべきであろう。
「それはそれとして。
ギルドマスターがそんなに偉いお人だとは知らんかったよん」
「よく自分の正体を国王に言わないでいてくれたと思う。
本当に有難かった」
考えてみれば不思議な話ではない。
王国の根幹ともいえるダンジョン。
そこに立ち入る冒険者をまとめる重要な役職に、権力側が介入するのは当然といえる。
たかが一介の冒険者である自分が、カイゼル陛下への面会が叶ったことも、王弟であるギルドマスターの力添えであるところが大きい。
「どうしよう。この借りた服、出所を聞くのが怖くなってきたぞぉ」
クラマは、身に纏っていた黒いドレスに手を当て、わざとらしく身震いして見せる。
「返した次の日に、カトリーナ第三王女が着ていたりして」
「冗談に聞こえないからやめなさい」
彼女がこちらの両肩を掴んで乱暴に揺らしたところで、入り口の扉がノックされた。
「カゲヤマ様、そろそろ」
「承知しました」
憲兵隊長アイアタルの合図に、急いで身につけている服を整える。
「行くのかい?」
「あぁ」
友達の問いかけに、外套のフードを被りながら振り返る。
「ちょっと他人を陥れてくるよ、クラマ」
次話『序幕・サプライズニンジャ理論』は火曜日の更新を予定しております。
→ごめんなさい、言い訳の台詞が予想以上に苦労しておりまして更新もう少しお待ちください。




