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影の使い手  作者: 葬儀屋
双龍編
184/206

勇者召喚術式

 特異点や切り札などの、この場に到るまでの疑問は全て解消した。


 しかし、辿り着いたこの部屋を一瞥(いちべつ)すると、新しい疑問が浮上してしまう。

 特異点の周囲、すなわち鳥居に接続するように設置されている、無数の術式についてである。


「カ……」


 説明を請おうとして、やめた。

 結果的に意味不明となった自分の発言に、国王が怪訝な表情を向ける。


 願いとして求めたのは、特異点に対しての説明だけ(・・)である。

 更なる説明を願うのであれば、新しい献上品を差し出すのが筋であろう。


 今の自分に差し出せて、目の前の権力者を満足させられるものはあるか。

 すぐには答えを見つけ出せず、口元に手を置いて考え込んでしまう。


「……時に、カゲヤマ。

 そなたの職業(ジョブ)は、戦士ウォーリアであったな?」


 突然国王が、こちらへ確認の言葉を投げかけた。


「……いいえ、忍者(アサシン)です、カイゼル様。

 行動に制限をかけられたくはなく、偽りの職業にて申請しておりました。ご容赦を」


 少しの躊躇の後、自分は本当の職業を伝えることにした。


 この非公開の場で偽ることによる利点はない。


 むしろここで偽ってしまうと、後に真実が暴かれた際、国王からの信頼関係に余計なこじれを生み出す原因となる。


 何より、極秘中の極秘を開示してくれた相手に対して、こちらが嘘をつき続けるのは心苦しかった。


忍者(アサシン)……特異職業(ユニークジョブ)か」


 国王は、虚偽の報告に対する怒りを表さず、むしろ面白い玩具を見つけたような笑みを浮かべて髭を撫でた。


「……確かにありのままに申せば、周りから希少な人材として持ち上げられ、そなたにとってはさぞやりにくかったであろうな。

 ゆるす。この件はこの場のものだけの秘密としよう」

「寛大なご処置、感謝いたします」

「して、腕っぷしはどうだ?」


 老人の視線は、こちらの(てのひら)に向けられていた。


 自分もまた、今日まで苦楽を共にした己の身体を見やる。

 これまでの災難と努力が傷として残る、お世辞にも綺麗とは言えないが、誇ることのできる頑強な五体であった。


「まだまだ井の中の蛙ではございますが、冒険者ギルドの討伐依頼は一通りこなせると自負しております」

「実に結構」


 カイゼルは頷いた後、近くの魔法道具が置かれた台に腰掛けた。


「今後、一度だけ力を貸してくれ。無論、事前に状況を説明し、同意を取るという形にする。

 承諾すれば、対価として術式を説明しよう、どうだ?」

「……喜んで馳せ参じさせていただきたく思います」

「よろしい」


 流石は人の上に立つ傑物とでも言うべきか、こちらの心中をすべて読まれたうえで、会話の主導を握られてしまった。


「これは勇者召喚の術式。

 言うなれば、そなた達がこの世界に訪れることとなった、きっかけそのものだ」

「特異点自体に、人を引き込む力はないという訳ですね?」

(しか)り」


 先ほどの国王の言葉を借りるなら、特異点はあくまで世界の架け橋、人を渡すためには別の力が必要となるのであろう。


「技術の話になってしまうが、別世界から人を召喚するなどという術式は、我がルべリオスの技術の粋を尽くしても完成できなかった。

 しかし、」


 国王は一度言葉を区切り、虚空の渦をチラリと見る。


「別世界を地続きにする特異点があれば、別の場所の人間を召喚する術式が作れてしまえばよい。

 そのような妥協によって、技術的問題を突破したのだ」


 技術者とは言えない自分にも、今のカイゼルの言葉は感覚的に理解できた。


 人を別の場所に移動させるのと、人を別の世界に移動させるのとでは、必要とされる技術に隔絶という言葉では生ぬるいほどの(へだ)たりが存在する。


 故に新しく一から作るのではなく、もともと存在していた超常現象をうまく利用したのである。


「……もしよろしければ、術式の大まかな仕様をご教授いただいてもよろしいでしょうか?」

「教えること自体は問題ない。

 しかし……今すぐには出来ぬ」


 これまでいかなる質問にもよどみなく答えてきた口から、初めて歯切れの悪い言葉が出てきた。


「専門的な知識を多く必要としてな。

 完全な説明を行うには、後日担当の宮廷魔術師を召喚する必要がある」

「カイゼル様」


 相手の注意を引きながら、隣の頼もしい術式専門家の背中に手を当てた。


「こちらは私の仲間なのですが、術式を読み解くことに非常に優れております。

 どうか彼女に、術式解析の許可を願います」

「用意がいいな。

 よろしい、この場以外の人物に口外しない事を条件に許可しよう」


 相手の許可をとってから、横の紅の瞳へ視線を移した。


「クラマ、頼む」

了解(りょーかい)


 指示を受け取った彼女は、解析の作業を始めるために対象へと駆け寄っていく。


「はーい。ちょっとくすぐったいですよん、てね」


 今から触れる術式に対して、まるで病人を触診する医者のような台詞を吐いていた。

Q:たしか冥王が、世界移動を禁止していなかったっけ?

A:118話より。冥王の特例(ハデス・ノミコン)■■■(特異点)を用いた世界移動を特別に許す】

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― 新着の感想 ―
[一言] 英雄召喚と勇者召喚はまた違うということか・・・?
[良い点] 世界の設定の緻密さにいまさらながら眩暈がするくらい、嬉しくて面白い! [一言] 投稿感謝です^^
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