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影の使い手  作者: 葬儀屋
双龍編
173/207

影山の誤算

「マズイんじゃないか?  クロード」


 分身体を通して中村と遠藤の会話を盗み聞きしていた影山亨(かげやまとおる)へ、同じく千里眼で盗み見していたクラマが話しかける。


「何かしらこちらから介入するかい?

 ナカムラの選択次第で、あんたの計画が大きく狂ってしまうだろう?」


 全てを楽観的に語るこの山伏にしては実に珍しく、焦りを含んだ声色でこちらを急かす。


「……いつか遠藤が、この話題を中村に振るだろうとは思っていた」

「ほう? この状況は想定の範囲内だと?」


 問いかけに影山は頷く。


「そしてその時に私がする行動も決めていた。何も口出ししない、と」


 クラマは、ぶつけた頭を痛そうにさすっていた手を顎へと持っていき、興味深そうな視線で少年の言葉を待った。


「仮に中村が中曽根を見捨てる選択をしても問題ない。

 重要なのは、周囲からのリベリオンズの評価だ。

 いじめられていた中村がいじめていた中曽根を助けようとした、という美しい事実があればいい」

「あんたもなかなか冷淡な事言うねぇ」

「……非道な事を言っている自覚はある」


 忍者は首をひねって、顔を隣に座る烏族(テング)とは反対方向に向ける。

 仮面をかぶっていても、この少女の慧眼に心を読まれるのではないかという警戒の表れであった。


「でもさでもさ。

 仮にあんなに素直な弟子が復讐の道を選んだとして、あんたは何も思わないのかい?」

「私は過去に一度、中村が中曽根に虐められている現場に遭遇しながら助けようとはしなかった。

 その時点で、この一件(復讐)に関して口を挟む権利はないと思っている。

 中村がどんな選択肢を選んでも、それが彼の決断だとして尊重するつもりだ」


 師匠なりの結論を隣の山伏に告げたその時、影山の懐にしまっていた水晶が淡く輝いた。

 待ってましたと立ち上がった話し相手に、クラマが問い掛ける。


「次の下準備かい?」

「ご名答、出来るだけのことはしておきたい」


 相手の回答を聞いて、少女はわざとらしい膨れ面を作った。


「で、例によってあたしには教えられないんだろう?」

「謝るから、秘密にして本当に申し訳ない」

「……うん、今のはちょっと嫌味が過ぎた。ごめん」


 これだけ尽力してもらっているというのに、肝心な部分で蚊帳の外というのは、普通の感性で考えればなるほど確かに面白くはないのであろう。


「……これからとある人物と会談をするとだけ説明しようか、

 正直かなり待たされるだろうと思っていたんだが、ギルマスが奮闘してくれて早々に実現したんだ」


 お盆に円形の影が生み出され、そこから果実酒に満たされた徳利が生えてくる。

 己が会話している間はこれで楽しんでくれという、影山なりの功労者への配慮であった。


「頼りになるねぇ、ギルドマスター。

 Sランクパーティーに君の事をばらしそうになった時は、ちょいと張り倒してやろうかと思ったけど、やらなくて正解だったよ」

「あの時そんなことを思っていたのか」


 少年が呆れながら襖を閉めた後、吞兵衛が意気揚々とおかわり(・・・・)を盃に注ごうとしたその時であった。


「何? 柿本が無理になった?」


 襖の向こう側から聞こえてきた影山の驚声が、クラマの内に眠る出歯亀(でばがめ)根性をくすぐった。


◆◆◆


 冒険者ギルドのギルドマスター部屋、部屋の主であるバットは机に足をのせて乱暴に座っている。


 机上には急遽発生した書類の山。


 平常時でも相当の労力を要するというのに、今はカレラをはじめとする職員が有力なパーティーをかき集めて東奔西走しているので、作業量は泣きたくなるぐらいに増加する。


 そんなうんざりする現実から逃避するように、片手に持った水晶へ話しかける


「あぁそうだ、今の七瀬と村上からは離れられないらしい」


 影山はこの後控えているとある人物との会談において、相手側より一名まで仲間を同席させられるという許諾(きょだく)をもらっていた。

 これに対し、影山が指名したのは盟友たる柿本俊(かきもとしゅん)である。


 しかし今この瞬間、彼のささやかな望みは絶たれることとなった。


『なるほど、そういう理由なら仕方がない……会談には一人で(おもむ)こう』

「それはお前にしてはちょいと早計過ぎやしないか? 他に誘える人間はいないのか」

『ない。私にとって柿本俊の代わりになる存在はいない』


 静かではあるが堅い意思が込められた一言。

 相手に反論の余地を与えないほどの即答且つ断言であった。


 しかし、いかに影山がいくつもの修羅場を乗り越えた猛者とはいえ、今から行く魔境を考えれば一人はどうしても心配してしまう。


 どうしたものかと背もたれに寄り掛かったその時であった。


 中年の脳内に、影山の傍に立っていた心強い女傑を思い出した。


「クラマはどうだ影山?」

『……なんて?』


 間をおいて絞り出された声だけで、影山のあっけにとられた様子が手に取るように分かる。


「そうだ……! 思い付きで言ったがなかなか良い提案だと思うぞ。

 基本一人を好むお前が長期間傍に置いたんだ。(はた)からは、いくらか心を許していると見て取れるがどうだ?」

『それは……まぁ。しかしクラマにだって予定があるだろう。いきなり申し出るというのも……『はいはーい! あたし参加します!』


 いきなり水晶から聞こえる声の、音階(トーン)が数段・情緒(テンション)が数十段上がった。

 近くで本人が聞いていたとは話がはやい。


「本人の許可もとれたぞ。」

『……頼む』


 分かりやすい間から伝わる、水晶の向こう側の影山の諦めをギルマスニヤリと笑った

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― 新着の感想 ―
[良い点] 柿本君はもちろんだけれど、クラマもまたクロードにとって良き友なのだと再確認できたこと。 [気になる点] クラマ、今日の選択を悔いはしなくても軽く頭を抱えるハメにならないか心配(期待?)です…
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