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影の使い手  作者: 葬儀屋
双龍編
149/207

リベンジ

 床から天井に至るまで緑に統一された長い廊下、等間隔にはめ込まれた窓からは月光が差し込む。

 リベリオンズ一行は、青に銀の刺繍が施された絨毯の上を走っていた。


 遠くからの爆音と振動で、小ぶりのシャンデリアが揺れる。

「おうおう。派手にやりなさる」

「憲兵の皆さんが引き付けてくれたみたいですね」

 呑気(のんき)な感想を()べる山伏の前で、手足を龍化させた中村が音の原因を自分なりに分析する。

 屋敷の防衛が憲兵に集中しているためか、リベリオンズに襲い掛かる敵は今のところいなかった。


「このまますんなり通してくれれば良いのですが……」

 エストの希望に誰も同意はしなかった。

 警備が薄くなっているだけであって、完全に誰もいないとは考えられなかったのだ。


「止まって!」

 周囲の雰囲気の変化を、龍の鋭敏な感性が捉える。

 リーダーの言動で何かを察したのか、メンバーは足を止めると同時に互いに背を預け、周囲を警戒する陣形をとる。


 互いの吐く息さえ聞こえそうな沈黙。




 頭上で金属の甲高い音が微かに響いた。


「上か!」

 見上げると天井に吊り下げられていたシャンデリアが、位置エネルギーを運動エネルギーに変換してこちらに迫ってくる。

 中村が眼球に力を入れ、特異(ユニーク)スキル【龍人擬態(ドラゴノイド)】の派生スキルの一つ、【龍眼(ドラゴン・アイ)】を発動する。

 金色に輝く細い瞳孔が、切断された支えの鎖を見つける。

 侵入者を一網打尽にするために、敵が質量の暴力をぶつけてきたのだ。


「むん!」

 中村は奥歯を噛みしめ気合を入れると、爪が伸びた両の手でシャンデリアを受け止めた。足元の皺ひとつない絨毯が波打ち、大理石が嫌な音を立てて罅割れる。


「あぃてっ」

 シャンデリアのしずく(・・・)が一つ外れて、クラマの鼻先をコツンと叩いた。

 しかし、パーティーへの被害はそれだけである。リーダーの奮闘により落下物は完全に停止した。


 拳を握りしめていたローザが息を吐いた次の瞬間、周囲から無数の刃物が飛んできた。刃の輝きを見るに毒が塗られているようである。

「させない!」

 筋肉がついた背中から一対(いっつい)の翼が飛び出た。赤く鈍く輝くそれで、後ろの仲間を包み込むように囲う。


 廊下の奥まで硬い者同士の衝突音が響く。

 手足に比べて防御力は劣るが流石は龍の一部というべきか、刃の嵐でも貫通はおろか僅かな切り傷さえつくらない。

 刃先が翼にぶつかる音と刃物が床に落ちる音の洪水に、聴覚の優れたエストが眩暈を覚えて耳を塞いだ。

 最後の一本が弾かれると、廊下の突き当りから呆れたような声が聞こえた。

「頑丈な皮膚ですね」


 全員が視線を向けると、メイド姿の少女が曲がり角から優雅に登場した。相手の顔を確認して、遠藤の眉が訝しげに寄る。

「久しぶりだな、ヒルダ」

「……!」

 声を掛けてきた者を見て、驚きでメイドの眼が開かれた。


「あれは俺が引き受けよう、リーダーは先に進んでくれ」

「……ありがとう、もう大丈夫だよ」

 念のためと解毒の奇跡をかけてくれたローザに感謝を述べて、中村は遠藤に向き直る。


「俺たちの目的は主犯格の逮捕であり迅速さが要求される。

 ここであいつ一人に全員で戦って、無駄な時間を使うべきではない」

「顔見知りなんだね?」


「……そうだ、俺が奴との戦い方を一番心得ている。

 引き受けるには最適だと思うがどうだろうか?」

 遠藤の言葉は理詰めの正論だった。

 しかし中村の心に、遠藤を一人にしてしまって良いのかという迷いが生じてしまう。今の彼は普段と比べて、どこか感情的になっていて危うい印象を覚えた。


 リーダーの逡巡を機敏に察したのか、次に言葉を発したのはクラマであった。

「それならあたしはエンドウの後ろにいようか」

「頼みます、クラマさん」

 彼女の提案に願ってもないと飛びつく。


「少しでも劣勢になったら、予備戦力のクラマさんと連携してね? 遠藤君」

「……あぁ」

 少し不満げな頷きを確認して、中村は一呼吸して気持ちを切り替える。


「時間をとられた、先を急ごう!」

 掛け声と同時にメイドと距離を開けて横を駆けていく、ローザとエストが後に続いた。


「通すな」

 ヒルダの合図で、どこに隠れていたのか黒い外套の部下数人がリベリオンズの前を塞ぐ。しかし、彼らの足から血しぶきが舞う。

「よそ見とは舐められたものだ」


 見たことの無い光景にあっけにとられたヒルダの横腹を、狙撃銃(スナイパーライフル)の柄が襲った。

「ぐう!」

 殴られた反動で吹き飛ばされた彼女は、体勢を立て直して一撃お見舞いされた相手を見やる。

 遠藤は構えていた長い武器を、用済みとばかりに後ろへ放り投げる。持ち主を離れた獲物は、地面にぶつかると光の粒となって溶けて消えた。


「思いがけない場所で再会したじゃないか。俺を殺し損ねてここに左遷されたか?」

「逆でございます。あなたの暗殺が成功した、と雇い主に伝えたところ大変喜ばれました。そして、さらに重要な任務を任され、この地へ派遣されたのです」


 戦闘においてははるか後輩に不意をつかれたことがプライドを傷つけたのか、年下の少年を睨みつけて怒気を含めた言葉を紡ぐ。

「今度こそ排除を行います。今の私にあの時のような油断はありませんよ?」

「意見が合うな。俺も。あの時のように命乞いを聞く気はない」

 ヒルダの額に血管が浮き出た。


要請(リクエスト)系統(タイプ)拳銃ハンドガン

 遠藤の左手に光の線が形を作る。

 見たことの無い魔術、完成させるべきではないと判断したヒルダは、地を蹴って接近し妨害を試みる。


 かつてダンジョンにて相対した二人。

 遠藤はヒルダを殺せず、ヒルダも遠藤に後れを取った。

 初戦におけるそれぞれの恥を(すす)ぐ、二回戦(セカンドバトル)の火蓋が切られた。

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