結成・リベリオンズ
冒険者の間では、パーティーが最も安定する構成人数は、五人から六人であると考えられていた。
倒した魔物の経験値配分、
平均な能力の人間がリーダーとなった際に、統率することが出来る集団の最小値、
遠征時の食料の運搬と消費の効率に至るまで、
先人たちが検討と実施を繰り返し、夥しい数の成功と犠牲を重ねて辿り着いた結論である。
リベリオンズも【盗賊】のエストを加えて、現在五人パーティーになっている。
つまり、この構成メンバーで問題なく戦闘をこなし、余裕をもって探索から帰還出来るか否かに、パーティーとしての真価が問われていた。
「グオオオオォォォオオオ!」
王都から少し離れた森の奥、様々な効能の薬草が生えていることで知られるこの秘境にて、獣の猛々しい咆哮が木々を震わせる。
筋骨隆々の双頭の獅子は、ここを仕事場としている冒険者が一目散に逃げだすほどの強大な魔物であった。
相対するは新進気鋭のリベリオンズ。両手両足を赤き鱗で覆った中村を前衛に、クラマとローザが後衛として布陣している。
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【Name】《名前なし》
【Race】賢帝獅子
【Sex】男
【Lv】120
【Hp】1800
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獣はもう一度威嚇の咆哮を放つと、大地を蹴って敵めがけて突進する。
相手の猪突を確認した中村は、避けようとせずに人ならざる両腕を大きく掲げた。
両者の距離は瞬く間に縮まり、吐いた息がかかるほどに鬣が近づいた時であった。
「があぁ!」
龍人の少年は、素早く両手で獅子の片方の頭をがっぷりと捕まえる。
驚愕したもう片方の頭が掴んだ腕に嚙みつく。しかし流石は龍の鱗、表面に微小のひっかき傷は作るものの、鋭い牙が肉に到達することは無かった。
「むんっ!」
特異スキル【龍人擬態】によって隆起した筋肉を総動員させ、自らの十倍をゆうに超える巨体を大地から浮かせた。
ハンドルを切るように大きな額を回転させ、脳天から地上へ叩きつける。
左手で暴れる獣の首根っこを掴み、右腕を天高く掲げた。
「『いと聖なる主よ、我に癒しの力を与えたもう、眼前に奇跡の御業を、【ヒーリング】』」
ローザの詠唱が、中村の鱗に刻まれた軽傷が消えていく。
「岩漿悉く我に従え、煌ろ煌ろ外殻の息吹、此即ち耐える者無」
クラマが三行呪言を唱え終わると、振り上げた中村の鉄拳に赤い光が宿り、それを鉄槌のように魔物の腹にめり込ませた。
肉を叩く音の奥で、ボキリと骨の折れる音が響く。
今まで経験したことのない鈍い痛みに、獅子の眼が大きく開かれた。
魔物は獣の王として必要な、病的なまでの臆病さを持ち合わせていた。己の力が通用しないという未知に、即座に撤退を選択する。
「グルァアアアア!」
「うわっ!」
巨躯に満載されている筋肉を躍動させ、拘束していた中村の手を振り払う。
もはやこの場に留まる意味はなかった、脱兎のごとく敵に背を向けて走り出す。
四つ存在する瞳の一つが、脇を通り過ぎる一つの影を捉える。
しかし、今は注意する状況ではないと二つの脳味噌が判断し、目の前の草むらへとわき目も振らずに駆け続けた。
――突然の事であった、魔物が前のめりに転倒する。驚いて四肢に目をやると、右後ろ脚が氷漬けとなって大地に繋がっていた。
冒険者アイテムの一つ、魔術【フローズンバインド】を込めた『呪符』の効果であった。
「足を封じました! 今です!」
木陰から飛び出してきた少女、エストが中村達に声を掛ける。
中村は背中の翼を大きく開き、天高く飛翔した。
周囲に自生している背の高い針葉樹すら超えたところで、今度は地面に対して自由落下よりも速い速度で急降下する。
足蹴りの体勢のまま突撃するその迫力は、極小の隕石を思わせる。
つま先が魔物の首を捉えた瞬間、轟音と共に土煙が上がる。
周囲の仲間が固唾を呑んで見守っていると、煙の奥から一つの足音が聞こえてくる。
「みんな、お疲れ様」
姿を表したのは、完全にこと切れた獅子を引きずる一人の少年であった。
真っ先に彼へ駆け寄ってきたのは、懐からナイフを取り出すエスト。
「これから大型の魔物の解体を行います。
もしよろしければ、ナカムラ君がやってみますか?」
怖さ半分興味半分で頷くリーダーに、残りの仲間が駆け寄ってくる。
こうして冒険者パーティー『リベリオンズ』は無事強敵に勝利した。少し離れた場所で狙撃銃を構えていた、遠藤という予備戦力を残してである。
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「素材採取場所に突然出現した賢帝獅子の討伐完了、確かに確認しました」
剝ぎ取った肉と骨と牙が並ぶ冒険者ギルドの一室にて、カレラが達成確認の判を押す。
「これにてナカムラ様、エンドウ様をCランク冒険者。
ローザ様をEランク冒険者に認定させていただきます」
ローザには左端に芽が、中村と遠藤には四隅に木の枝と葉が刻まれた冒険者プレートが渡された。
師と同じ階位に到達した弟子たちへ、受付嬢は言葉を続ける。
「Cランクに到達した御二方は、来週開催される『国家認定冒険者証』の試験を受ける資格を得ました。
受験のご希望をなさいますか?」
少年二人は顔を見合わせ、
「はい!」
「当然」
カレラに対して勿論というように大きく頷いた。