プロローグ
(死ぬ気になれば、何でもできる。か)
嘲笑されている日本人の青年がいた。
世界最大規模を誇るクラウドファンディングサイトで起こった珍事。
『世界一のMMORPGを作りたい!』
MMORPGとは、マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲームの略称で、インターネットを介し多人数が同時に参加することのできるRPGのことである。
近年、ゲームやコンテンツへの没入感を向上させるために開発されたVRデバイスと呼ばれる視聴覚装置の登場により、かつて数千万人がプレイした名作MMORPGでさえも日陰へと追い込まれ、世界はVRMMORPGへと転換期を迎えていた。
MMORPG制作のプロジェクトはクラウドファンディングでも数多く存在したが
公開されたプロジェクトの支援目標額に誰もが誤表記だと口を揃える。
『支援目標額二千万ドル』
半年間に及ぶの掲載期間が過ぎ、最終日を迎える。
二千万ドルという、あまりにも桁違いな夢に投資する人間は現れない。
あざ笑うかのように誹謗中傷は風に舞い世界を覆う。
いつしか鋭い刃となり、青年を容赦なく貫く。
眼の先に映る数字は、半年前と何も変わらないまま終わりの鐘を鳴らそうとしていた。
― 掲載期間終了迄 残り九分五十九秒 ―
サイトの文字は無常にも時を刻む。悪意はない。
逃げるように青年はモニターから目を反らす。
強く握りしめられた左手の中からは、キャンセルしたはずの片道切符が零れ落ちていた。
残り八分〇〇秒、まさにその時だった。
機械仕掛けの音が失意の部屋に鳴り響く。
目標金額を大きく超えた一億ドルと共に、支援者からのメッセージが一言添えられていた。
『"lend a hand”(手を貸すよ)』
そう、全てはそこから始まった。
MMOと素材学を愛する黒衣と申します。
なかなかいいMMO作品との出会いがないのでせめて小説の中だけでも自分が思い描くMMOが作れればなと筆を取った次第です。のんびりと書いていきます。