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第八章 次の闘いに向けて


 夜、グーゴルル一家との夕食に招かれてからトウイッチの樹へと戻ったザギは、エミリーに尋ねた。

「なぁ、試したい事があるんだけど、手伝ってもえるか?」

「内容によるけど、言ってみなさい」

「あの外部装甲、軽く出来るか?」

「出来る出来ないで言えば、出来るでしょうね。でも、私が直接触れ続けないのなら、それに意識を集中し続けないといけないし、途切れたら大した時間持続しないわ。どうしたの?あれには頼らないんじゃなかったの?」

 ザギはばつが悪そうに目をそむけて答えた。

「今日、俺は死んでた。殺されてたよ。ウルベが間に合わなかったら」

「でも、助かったじゃないの」

「たまたまだよ。そんな偶然は続きっこない」

「だから、急激に無理にでも強くなりたいってこと?」

「お前は笑うか、ビブ?」

「ううん、笑わないよ。ぼくだってあの炎の魔法使いに近づきたくはなかったし、またやれって言われたら出来ないかも知れないし、あの炎の魔法を防ぐ手段があるなら身につけておきたいって思うよ」

「そうね、どうせ、また来るだろうし。復讐しに」

「だから、使える物は使えるようになっておきたいんだ。手伝ってくれるか、リー?」

「仕方ないわね。トウイッチが帰って来た時に、あんた達が殺されてたら、私の心証も最悪になるでしょうし」

「はは、それは確かにそうかもね」


 そうして三人は地下スペースへと移動し、ビブに手伝ってもらい外部装甲を着込んだザギは、エミリーに頼んだ。

「やってくれ、リー」

「んじゃ、とりあえず一分ね」

 エミリーが外部装甲に触れて重力に干渉する魔法を唱えると、ザギは思わず飛び上がった。

「うっは、何だこれ!軽い!これなら着てても戦えるかも!」

 ザギは何度も飛び跳ねたり左右の拳を繰り出したり、上半身を前に倒したり後ろに反らしたりした。重みにふらつくようなことは無かったが、エミリーは持続時間が切れる前に警告した。

「そろそろよ。しっかり立って骨とか痛めないようにね」

「一分て意外に短いな~、とっとと!」

 重みが戻ってくると、途端にふらついて、戦う為の動作を行うところでは無くなってしまった。

「私がつきっきりで魔法かけ続けられるわけも無いでしょうから、やっぱりその状態に慣れた方が良いのかもよ?」

「う~、それはそうなんだけどな~」

「とりあえず武器持って振り回せるかどうか試してみたら?」

「でも、この状態だと・・・」

 ザギが腰に下げたハンマーを外して、自分の手ではなく、外部装甲の手に握らせようとしても上手くいかず、床に落としてしまい、拾い上げる為に屈み込むことも出来なかった。

「こんな状態じゃ、武器持たずに格闘戦にでも持ち込んだ方がいいのかな」

「でも、ゴブリンの体重じゃ、その外部装甲分を足しても人間の男性の大人と同じくらいになるかどうかくらいでしょ。防御はともかく、攻撃はその装甲使いこなさないと難しいよね」

「先行きは長そうね」

 エミリーは、ザギが落として拾えないハンマーを拾い、うん?とその妙な感触に気が付いた。

「ザギ、これ、トウイッチが作ったのよね?」

「そうだよ。軽くて頑丈で気に入ってる。けど、人間の戦士相手だと、打撃力に欠けるかもな・・・」

「それ、どうにかなるかもよ。その外部装甲の重みもね」

「へ、どういうことだ!?」

「トウイッチって意地悪なのね。あなたが自分で気が付く可能性はもちろんあったけど、それはほとんど無理だった筈。だとしたらどうして」

 ぶつぶつと考え込んでしまったエミリーに、ザギはよろめきながら詰め寄った。

「もったいぶるなよ!」

「うんとね、これ、<穀潰し>と同じ仕組みを持ってると思うわ」

「うん?持ってるとどうなるんだ?」

「あなた達、テューイが闘ってるの見たことあるのよね。<穀潰し>を使って、あいつがどんな風だったか覚えてる?」

「もちろん!あいつよりずっと大きいオーガの攻撃受け止めて、オーガの肩よりも高く飛び上がって、一撃でオーガの頭叩き潰してた!」

「そう。そんなの、普通は出来ないのよ。不可能なの」

「でも、あいつは、テューイって奴は、やってたぞ」

「それを<穀潰し>が可能にしてたってこと?ってことはつまり」

「そう、ザギの持つこのハンマーでもたぶん同じことが出来る筈なの」

「どういうことなんだよ。詳しく教えろよ!」

「ザギ、あなた猪と闘ってトドメ刺した時、ジャンプして、ハンマーピックを両腕で振り上げてたでしょ。あれはどうして?」

「そんなの、そうした方が攻撃に重みが乗って、より大きなダメージが入るからに決まってるじゃん」

「つまりね、<穀潰し>とか、あんたのこのハンマー、名前なんていうの?」

「トウイッチは<親指潰し>って。好きじゃない名前だから使ってない」

「まいいわ。<親指潰し>もね、持ってる人の重みの配分を移し替えられるの」

「わけわかんないぞ?」

「そうよね。ま、このハンマーが1キロ、あんたの重みが30キロくらい、分かりやすいように合わせて30キロだとしてみようか。その30キロの内訳を、<親指潰し>はほぼ自由に配分出来るのよ。本当の機能はもっとあるだろうけど、あんたが混乱するでしょうから、今は言わないでおく」

「えーと、つまり?」

「あのね、ザギ。ザギがそう望むなら、そのハンマーに29キロ、自分の体重を1キロにすることも出来るってことなんだよ。テューイがあれだけ身軽に動けて、オーガの一撃も受け止められてたのは、つまりそういうことなんだよ!」

「でも、そんなことしたら、ハンマー持ってられないだろ?」

「そりゃそうよ。だから訓練が必要だってこと。あなたが今着込んでる外部装甲の重みも、相手から受けた攻撃の重みも、思い通りに受け流すことも出来るの。でも、とりあえずは、両腕を前に出しなさい」

「こうか?」

 ザギが自分の両腕と外部装甲の両腕を揃えて前に出すと、エミリーは外部装甲の両手の上に<親指潰し>を載せて言った。

「今は普通に持ててるわね?」

「そりゃそうだ」

「イメージしなさい。自分の体重と、感じてる全ての重みを、手のひらの上に載ってる<親指潰し>に流し込むの。もし成功すればあんたはバランスを崩して前のめりに倒れるだろうから、前もって覚悟しておきなさい」

 ザギは、そもそも外部装甲の両腕を前に出している状態で、ふらついているのをどうにか丸い盾のついているもう二本の腕がバランスを保ってくれている状態だった。

「外部装甲脱いでみる?その方が簡単そうだし」

「いや、どうせ慣れなきゃいけないなら、慣れる!」

 ザギは、目をつぶった。揺れる体重は、自分と外部装甲との重みのバランスが取れていないせいだというのは頭で分かっていたものの、ではどう取ればいいのかは自分でも分からなかった。自分でどう取ればいいのか分からないなら、そう、リーが言っていた通り、<親指潰し>とかいうあのハンマーに全部押しつけてしまえば良いではないか?

 ザギは、上体がふらつくタイミングを読んで、自分がそれを支える為に軸足を踏み込む重みを、肩にかかっている外部装甲の手のひらに載っているハンマーに流し込むイメージをしてみた。そしてものの見事にバランスを崩し、前向きに倒れたが、外部装甲の腕がつっかえ棒のようになって、顔から倒れ込むことは免れた。

「今、もしかして出来たのか!?」

「たぶんね。やらせといて何だけど、やっぱり外部装甲は脱いでおいた方がいいかな。背骨とか下手したら折っちゃうかも知れないし」

「いや、いい。このまま訓練する。ていうか、もしかして<穀潰し>も同じ感じで使えるんじゃないのか?貸してくれよ!」

「ダーメ。あれはね、もうちょっと特別な仕掛けがしてあるし、あんたには使えないの。今はその外部装甲と<親指潰し>を持って、ふらつかずに立ったり歩いたり出来るようになりなさい。もちろん、体は壊さずにね」

「言われるまでも、無ぇっ!」

 ザギは外部装甲の右手にハンマーを握り込むと、何とか一人で立ち上がり、今度はハンマーではなく全体の重みを両足のひらの裏に流そうと意識してみた。すると嘘の様に、両肩の上に乗っていた無骨な重みが消え、ハンマーですら握っている感覚が無くなった。

「あら、ふらつきが無くなったじゃない。飲み込みが早いわね。でも」

「はっはー!これでもう外部装甲も着こなしたも同然だぜ!」

「甘いわね。その状態で歩けるかどうか試してごらん」

 ザギはいつも歩く通りに、片足を持ち上げようとして、足が持ち上がらないことに気が付いた。

「言っておくけど、下手にもう片足に全体重乗せようとしたら、膝とか関節がぶち壊れるかも知れないんだからね。気をつけなさい」

「じゃあ、どうすればいいんだよ?」

「知らないわよ。あなたがあなたの体を壊さない動き方を修得するしかないんだから」

「むぅ~」

「ザギ。体重を移動する方法を学んだだけでも大進歩なんだから、焦らずに今日はもう休もうよ」

「いやだ。一歩か二歩くらいは歩いてみせる!」

 ザギは、両足のひらに均等に割り振っていた重さの半分を片足に、もう半分を上体に戻す感じに割り振ってみたが、やはりうまくいかず、ぐらりと傾いたと思ったら、もう地面に倒れ込んでいた。

「先は長いわよ。まずは外部装甲脱いで<親指潰し>持った状態で、意識的に重みを移動することに慣れなさい。続きはそれからよ」

「まだやる、まだやれる!」

「ザギ、あんたはまだ私のぱしりなの。命令には従いなさい」

「くっそー!」

「それに、今日は邪魔が入ったからちっとも私のスペース掘るってのも出来なかったでしょ。明日は朝から取りかかるように。いいわね?」

「わかったよ」

 ふてくされたザギから外部装甲を脱がせたビブは、エミリーに提案した。

「そのスペース掘る作業、外部装甲着てやったら早いんじゃないかな?」

「でも、重み移動しながら掘るのは難しいと思うよ?」

「座りながら上体だけ動かすのなら、意識するのは上体の重みになるから、バランス取るのも半分くらいの難しさになるんじゃないかな?」

「ビブ、お前賢い!偉い!」

「えへへへ。ほめてくれてありがと、ザギ」

 そんな二人の仲の良い様子を見て、エミリーは自分が魔法の手ほどきをサラから受けた時のことを思い出して目頭が熱くなってしまい、その感傷を振り切るように言った。

「さぁ、寝ましょう。どうせ明日の朝早くからザギは動きたがるんでしょうから」

「うっし、明日一日でエミリーの部屋を掘りきってやるぜ!」

「歩けるようになるのは、それよりも長くかかるだろうけどね。背骨とか痛めても面倒だから、一つ一つ課題を片づけていこ?」


 その翌日、午前中だけでザギは外部装甲の片腕ずつに体重を乗せて掘る行為を修得し、立ち上がった状態でも左右の腕を交互に振るうことは出来るようになった。歩けるようになるには、それから何十回となく倒れながら、まずは外部装甲を脱いだ状態で、夕食を食べてからの続きで夜遅くまでかかって、外部装甲を着て初めて二歩歩くことに成功した。



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