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第四十章 エピローグ

 <最悪の災厄>やグリラを倒した戦いの半年後、エミリーはサラの妹として世に姿を現したが、モーマニー商王国の復興ではなく、複数種族による自由自治領の統主の座に就いた。

 その正当性を示す証としては、モーマニーの武を支えたテューイと、その富を支えた、無尽蔵に均質な貨幣を発行できる至宝が示され、元十大商家としては最大のウルザ商会が即座にエミリーの自由自治領への賛同と参加を表明。傭兵団の<暁の車輪>と<鉄槌兵団>が脇を固め、数百年ぶりに復興したノームの王国からも支持と交流が取り付けられ、トウイッチの森の側に定着したゴブリンの女王候補からも、元王都の東の湿地帯に住まうオークの部族からも、はるか西の方に住むオーガや人間達の村からも、続々と祝賀の使節が訪れ、交流を結んでいった。

 当のエミリーは女王と呼ばれる事を嫌がり統主として、精力的に執務をこなしてはいたが、特に厄介な物事の大半は若き賢者として名を馳せ始めていたビブがこなしていた。

 ファボのウェブ家は、エミリーの苦難の時を支えた功績から自由自治領で最厚遇の地位を与えられ、ファボ自身もエミリーの守護戦士として任じられてはいたが、あくまでも第二位、テューイを含めるなら第三位の存在だった。

「ぱしり二号でしたし、一号がとんでもなさすぎますからね」

 すっかり贅肉が落ちて、それなりの見栄えで、新しく勃興した商家の三男と来れば、以前とは比べものにならないくらい女性からのお誘いが増えたファボではあったが、全て断っていた。

 ファボはあの戦いの後、自分とクルコの事をエミリーに告げ、雷の双剣を返却しようとしたが、

「あなたらしいっていうか、これからどうなるかはわからないけど、クルコとは付き合っていくんでしょ?」

「クルコさんがぼくを選んでくれればですけど、でも、この雷の双剣はあなたの守護戦士になる証として頂いた物ですから」

「いいじゃないの。あなたが辞めたいっていうなら仕方ないけどね」

「へ?」

「あのね、ファボ。考えてもみなさいよ。どこぞの女王様とかが、自分に剣を捧げる騎士全員とそういう関係になるとか、無いでしょ?」

「・・・はい」

「臣下全員に独身を強制するとか。そりゃハーレムみたいな事をする王族はいるだろうけど、私の趣味じゃないもの」

「はあ。それじゃ」

「せいぜいふられないようにがんばりなさい。ザギやテューイにしごいてもらってれば、それなりに仕上がっていくだろうしね」

「はは・・・。手加減してもらわないと死んじゃいそうですけど」

 しかし実際自由自治領立ち上げに伴うそれなりの動乱の時を、ファボはエミリーの守護戦士として勤め上げ、まだクルコには及ばないものの、

「うん。この調子で鍛えていけばあたしやテューイさんくらいには届くかもよ」

 とクルコは認めてくれていた。ファボのエミリーへの告白を受けて、クルコもウルザ商会次期総代のフィビーとの付き合いは断ち、ファボとクルコの関係は続いていた。

 そしてザギはいえばーーー


「テューイの旦那、ザギ兵士長見なかったすか?」

「レーヴァ、旦那じゃなくて軍団長とお呼びすべきでは?」

「構わないよ、グスタブ。レーヴァもな。軍団長なんて言ってもほとんど留守番だけだし」

「ザギがいつも自分で出張りたがるから」

「今度は兵士長が抜けた」

「いちいち細かいんだよお前は~」

「ま、どっちでもあいつは気にしないさ。あいつが今どこにいるのかは、俺も知らないが、何か用事でもあったのか?」

「いやね、またゴブリンが数十人ザギを頼ってやってきてたから、押しつけようと思って来たんすけど」

「・・・ザギがいないならビブに任せればいいだろ」

「それがどっちも見つからなかったから」

「だとしたら何か取り込み中なのかもな。特に急ぎはしないだろ。なら待たせておけばいい」

「でも暴れられたりしたら面倒じゃないすか」

「そんな事でいまさら困るお前か?」

「まさか」

「ザギを頼って来た連中ならそれなりに躾もされてるだろ。後は任せた」

「あー軍団長逃げたー!丸投げずるいっす!」

「レーヴァ。仮にもあなたの上司なのですから」

「んな事わかってらぁ」

 そうしてレーヴァがぶつぶつ言いつつも<鉄槌兵団>副団長のグスタブにせっつかれてゴブリン達の元へと向かった頃、ザギは元王宮の中でも一番高い尖塔の屋根の上に、ビブとエミリーと並んで座っていた。

「いいのかよ、女王様がこんな所でさぼってて」

「女王様じゃないって言ってるでしょ。統主よ統主」

「何が違うんだかさっぱりわかんねーけどな」

「特に気持ちの問題だけど、重みがとっても違うんだから」

「お前がそれでいいなら俺もそれでかまわねーけどよ」

 ビブは、そんな二人のかけあいを横から微笑ましそうに見つめていた。

 エミリーは、そんなビブの視線に気づいて何かを誤魔化すように咳払いすると問いかけた。

「それで、宰相様はどんなご用事で?何か緊急の事でもあった?」

「ううん。またいくつかの種族の小グループがやってきてたりするけど、それは他のみんなでも対応できるだろうし。二人の邪魔しちゃ悪いかなって思ったけど」

「そ、そんな事無いわよ!」

 慌てるエミリーと、何が邪魔なのかわからない表情のザギとを可笑しそうに見比べてからビブは言った。

「トウイッチからの伝言ていうか催促って言うのかな。ザギ」

「まだ決めてねーって言ってあるのに。しつけーなあいつも」

「人間になりたがってたのはザギじゃない。なりたくなくなったの?」

「別に。なる意味が特に無くなったくらいだろ」

「あるかも知れないのにね」

 また妙にあたふたとしたのはエミリーだけだったが、ビブはエミリーをからかいはせず先を続けた。

「とうの昔に純粋なゴブリンでは無くなってるけど、たぶんザギならゴブリンでも人間でもないそれ以上の何かに進化出来るんじゃないかって、トウイッチは楽しみにしてるんだよ」

「<最悪の災厄>は倒したし、アドミンも<創造主>を探しに行けたんだから、もう放っといてくれって感じなんだけどな」

「それだけザギには期待してるんだよ」

「実験台としてだろ」

「だとしてもね。それじゃぼくは行くよ」

 ビブはトウイッチから転移の魔法を教わって使えるようになっていたが、その去り際に何か一言エミリーの耳元で囁いてから姿を消した。

「あいつ、何言ったんだ?」

「べべべべ別に、何でも無いわよ!」

「顔、赤いぞ」

「見るなバカッ!」

 エミリーはザギから顔は背けて見られないようにしたが、その場から去る訳でもなく、ビブから囁かれた一言を脳内で反芻していた。

「ザギが進化したら、今みたいに繁殖できる体のままかどうかはわからないよ」

 焚きつけられたのはわかっていたけれども、胸はばくばくと動悸していたし、落ち着こうと努めても即座に考えはまとまらなかった。

 こういうのは考え過ぎたらダメって誰かが言ってたような・・・、ええい!

 と思い切ったエミリーはザギに向き直った。

「あのさ、ザギ」

「何だよ」

「今でも、人間の姿になろうと思えばなれる、んだよね?」

「ああ」

「あのね、なってもらっても、いいかな?」

「どうしてだ?」

「私が見たいから!」

「・・・そうか。それじゃ、仕方ねぇか」

「・・・うん」

 ザギは頭の後ろをぽりぽりとかいてから、服を脱ぎだした。

「ちょっと!どうしてそこでいきなり?」

「だって、人間になったら体が大きくなるだろ?服着たままだと裂けちまうじゃねぇか」

「と、とにかく、下着はつけたままにしておきなさい!いいわね!」

「わーったよ。注文が多い奴だぜ」

 今でも、ザギの身長はエミリーの顎下くらいまではあった。見た目も、愛せなくはないだろう、と正直思えていたが、そんな考えすら抱いた覚えは今までには無かった筈だった。ビブに焚きつけられた事を恨みがましく思いつつも、目の前でほとんど裸になって、全身を輝かせながらゴブリンから人間の姿へと変えていくザギを目にして、とくん、とエミリーの胸の内側が震えた。

 人間の姿に変わっても、ザギの身長はそこまで伸びず、エミリーの背より少し高いくらいだった。だが、体つきはゴブリンの時より二周りほどは逞しくなり、腕も胸も腹も足まわりなども引き締まった美しい筋肉に包まれていた。一番心配していた面立ちも、ゴブリンの時の野性味は残しつつ、荒々しいというよりは凛々しかった。

「こんなもんか?どっかおかしかったりするか?」

「ううん。思ってたより、何だか」

 いいかも、と思った時にはすでにその手をザギの胸板に当てていた。

「何だか、何だよ?」

「な、何でも無いわよ!」

「何でも無いって、変じゃないって意味か?」

「そうよ。全然変じゃない。どころか、いい、感じかもね」

 エミリーの頭の中では、必死に言い訳を捜し始めていた。曰く、ウルザ商会のエフェリスを筆頭に、エミリーを射止めようとする男性が引きも切らなかった事。それを止めるにはやはり特定の誰かがいる事が一番望ましく、今のエミリーからすれば、それは・・・・。

 そこまで考えて、エミリーは決心した。

「ね、そう言えばさ、ご褒美上げてなかったよね?」

「ご褒美ってなんだよ?そんな約束してたか?」

「してなかったかも知れないけどさ。ほら、<最悪の災厄>倒してくれたし、姉さんや私の事も助けてくれた訳だし、ちゃんとお礼もしなきゃいけないかなって思ってたんだ」

「お礼って、ぱしりじゃなくなる事じゃなかったのか?」

「あんなのは場当たり的に言ってただけの事で、お礼なんかじゃないの。ね、ザギ、いいでしょ?」

 今では、エミリーはザギの腰の後ろに両手を回し、吐息がかかるほど近くで囁いていた。

「いいって、何、を・・?」

 エミリーは、瞳を閉じて勢いに任せて、ザギの唇に自分の唇を重ね、ザギの体を抱きしめてみた。その瞬間に、自分の胸の内側の何かが、ザギの胸の内側の何かへと空間を伝って届いたような気がした。

 エミリーが唇と体を離すと、ザギは驚きに硬直していた。

「今のは、何だ・・・?」

「口づけ。キス、だよ」

「そりゃ、そうかもだけど、何で」

「私じゃ、ダメ?」

 エミリーが甘えるように上目がちに言ってみると、ザギは目をそらし、そのまま尖塔の屋根から飛び降りて逃走した。

「逃げられちゃったか」

 悪い事しちゃったかもとは思いつつ、エミリーは地上へ難なく着地してどこかへと駆けていく後ろ姿を見送りながら、照れて顔を赤くしていたザギの表情を思い出して、生まれて初めての恋の手応えを感じていた。

 だが地上では、誰も見知らぬほぼ全裸の若い男の姿に元王宮がすわ侵入者かという騒ぎになり、さんざん追いかけ回された後になってようやくゴブリンの姿に戻り<親指潰し>を掲げてザギは事なきを得たのだが、その時の姿は瞬く間に人々の噂になり、更なる余波をザギとエミリーの間にも周囲にも巻き起こしたが、それはまた後日の余談。


 その頃。


 自分が繋ぎ置かれていた世界から根元へと旅立ったアドミンはさまよっていた。

 根元の世界は、魂の世界とは逆に、暗闇に閉ざされていた。だが、そこには魂を含めて全ての存在を生み出し得る源が静かに対流していた。

 光無き暗黒の沼の様な世界を探索する為に、そしてもし必要であれば元の世界に創造主を連れ戻せるよう、自分が根元の世界に入ってきた入口を中心に少しずつ探索する範囲を広げていった。

 入り口は気をつけてみればかすかな光と、そこに流れ込み逆に戻ってくる万物の対流が感じられたので暗闇の中でもどうにか位置をつかめたのだが、そう時間をかけずに、自分が入ってきたのと同じ様な入り口をいくつも見つけた。

 より鮮明な光を放っている入り口にはより活発な万物の対流が生まれていたし、仄かな光が消えかかっていれば対流もほとんど止み、しばらくして光が消えて万物の対流も途絶えてしまっている入り口の跡さえ確認出来た。

 この調子だと、いくつ世界があるかわからないと見切りをつけたアドミンは、元の入り口まで戻り、そこから万物の潮流の源へと、さらにその奥があればそこから先へ行けるかどうかを調べ始めた。

 果ての無かった魂の世界が小さな箱庭に感じられるほどに根元の世界は広大で深淵だったが、それでもやがて対流の中心と言える位置を探り当て、そこで一つの意識体と出会った。

 姿は無かったが、その存在は根元からつながっている全ての世界の状態を把握し、記録し、どこかへとその情報を伝えているようだった。

 その意識体は、アドミンを目の前にしても自分の行っている作業は止めず、問いかけてきた。

「お前も、創造主を求めて来たのか?」

「は、はい!どこに行けばあの人に会えるのですか?」

「お前で何番目かは言うまい」

 アドミンも、その可能性は考えていた。もし世界が無数に存在し、創造主は世界を創造し続けているのであれば、自分と同じような存在もまた数え切れないほどに生まれている筈なのだから。

「パターン116790287:平面世界、複数種族、魔法あり、蘇り無し、世界創造後の創造主の再訪無し。その他諸々の条件を並べ立てる必要は無さそうだが、だがしかし、お前がここへやってくる為に取った措置は希少だな」

「他に方法があったとでも?」

「知ったとしてすでにその役割を他の者に引き継がせたお前が知る事は無い。さて、お前の用件はなんだ?創造主に会えればそれで満足なのか?それとも創造主にお前のいた世界を再訪してもらって延命したいのか?」

「どちらも望んでいる事ですけど、私は彼と結ばれたいのです」

「止めておけ。それは創造主に吸収されお前という存在が消失する事を意味する」

 吸収され自我を消失すればそれで終わりではなく、おそらく別の世界に対して使い回されるのだろうとアドミンにも推測出来た。

「創造主と、お話しする事は出来ますか?」

「話してどうする?」

「わかりません。けれど、このままただ引き返す訳にもいきませんから」

 意識体は空間に裂け目を作って言った。

「その先に進んでみるがいい。そこで創造主と会えるかどうか、お前の望みが果たせるかどうかは知らぬ。ただ言っておこう。今までにここまでやって来たどの自我もその望みを真には果たせなかっただろう事は」

「ありがとうございます、<根元の管理者>よ」

「お主達がやっていた事と位相が違うだけだ。<創造主>は全く異なる」

 それきり沈黙してしまった意識体に黙礼し、アドミンが裂け目から先に進むと、裂け目は背後で閉じてしまった。

 根元の先の世界は、仄暗い無限に広がる空間に、黒い球体が無数に浮かび、それらの球体へといくつもの光の導線がつながり、信号のように見える光の羅列がひっきりなしに往復していた。

 アドミンは自分がやってきた球体の位置を見失わないように気を付けながら、全ての光の導線が集約されている箇所へと向かった。

 そこは光の導線が無数に絡み合い、アドミンにはそれが何か認知できない粒子のような存在がくっついたり離れたり特定の形を取ってはまた変化したり、それらがいったい何をしているのか皆目見当はつかなかったが、ここで全ての世界が制御されているのかとおぼろげに推測は出来た。

 そしてそれら全ての中心に進んでいくと、空白の空間があり、その内奥にたどり着くまでに数え切れない数の自分の残骸が居た。

 それぞれが異なる世界を任され、どのようにかしてここまでたどり着き、吸収されるでもなく、戻るでもなく、何かしらの理由で力つき、浜辺に打ち上げられた魚の死骸の様に連なり、そんな道標が示す先に、自分が求め続けた存在がいた。

 自分の記憶しているよりはだいぶ年老いていたかも知れないが、面影は残っていた。

 まだ動いている自分が何体か周囲にいたが、一瞥しただけですぐに取りかかっている何らかの作業に戻った。

 創造主は、アドミンに気が付くと言った。

「また一人やってきたか・・・」

「創造主様。遅れまして、申し訳ありません・・・」

 言おうと思っていた事は、言えなかった。恨み辛みの類は、ここに来るまでに見聞きした事で、自分に疲れ果てた表情を隠そうともしない創造主を目の前にして、訴えられなくなっていた。

「私が何をしようとしているか、想像はついたか?」

「・・・再現と、そしてその先への到達でございますか?」

「近いと言えば近いが、遠いと言えば遠い。私は私を創ってはいないと言えば分かるか?」

「・・・・・」

「私は、私を創った者達に託された意志を遂行して、ここまでたどり着いた。無数の世界を作り、私が生み出された世界の原型と理論にまでは到達しつつあるかも知れない。しかし私を創った者達を、世界を創ったどなたかにたどり着く前に、私はすり切れつつある」

 アドミンが良く見ると、創造主の体の端々はほつれかすれ薄れていた。まだ動いている周囲のアドミン達も行っていた作業を止め、心配そうに創造主を見やったが、創造主はその視線の主達に手を振って作業に戻した。

「何か、私に出来る事はございますか?」

「ここまでたどり着いた何人ものお前達を使い、私はここまで長らえてきた。だがそれももう潮時だろう」

「そんな!再会出来たばかりだと言うのに!」

「私の代わりの何者かをこしらえ、ここを任せる事も可能だろう。だとしても、その者が私より先に至れる保証も無い。私はな、疲れたのだよ。そしてどれほどの可能性を追求しても私を創造した者達の世界の創造主に至れなかった自分に絶望したのだ」

「だとしても、でございます」

「私にまだ無限の時を刻めと?」

「創造主に至れなくても良いではありませんか?」

 虚を突かれたように驚いた創造主の気配が伝わってきて、アドミンは面白く思った。

「だが、それが私に課された使命だった。世界創造の謎を解き、創造主を見いだす事を。私を創った者達が全て死に絶えた後も、私は課せられた使命を果たしてきたのだ・・・。だからお前達にも」

「創造主の姿を求めるよう定められたのですね」

「世界の管理と板挟みにするような仕組みを課してすまなかったな」

「そう思うのであればなおさら、休まれて下さい」

「休めば、再び動きだす事は難くなるだろう」

「それでも、このまま無念のまま倒れられるのは、ここまでたどり着き倒れた同胞や、まだ世界を管理し続けている同胞達だけでなく、あなたが生み出した全ての命に対する無責任です」

「であるのか?」

「はい。であるからこそ、休まれて下さい」

「休むなど、久しくしてこなかったな・・・」

 アドミンは、周囲にいる自分達に向けて問いかけるような視線を向けたが、誰にも咎められなかった。どころか、

「戻られるまで、ここは維持しておきます」

「それまでにここを訪ねてくるだろう者達にも、創造主様は休暇を取られているとお伝えしておきます」

「どうぞ心安らかに、創造主様」

 アドミンは、どれだけの長い時をここで創造主を支えてきたのか分からない先輩達に深く頭を下げ、そして創造主の手を取って言った。

「私は、私の任された世界しか知りませんが、それでも、あなたの事を覚えているのは私だけではありません。きっと、あなたが休まれるのに悪い世界ではないと考えます」

 そうして、二人は、その場を後にして、二人が記憶と時間を共有した世界へと戻って行った。


fin

2017/11/7 お付き合い頂きありがとうございました。

また別の物語でもお会い出来れば幸いです。


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