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第三十八章 到着前夜まで

R15まで、行かない、と思う・・・w(ちょっとだけ性的描写があります)

 ザギが目覚めた時、窓から差し込む日差しは橙色だった。

ーーー俺は、ずっと寝てたのか?

 朝か夕方かも分からず、傍らにいたビブに話しかけようとしたが声は出ず、体は起きあがらなかった。

 それでも何とか瞳は開き、口の端は震えていたせいかビブもザギが起きた事に気が付いた。

「ザギ、具合はどう?」

 見りゃ分かんだろ、とザギは言いたかったが言葉にはならなかった。

 ビブはそれでも表情からザギの言いたかった事を読みとってくれた。

「体を動かした時に、こちらとあちらの両側に干渉出来るようになんて無茶をしたからね。その副作用っていうのかな。こちら側の自分の体だけを動かそうとしてもうまくいってないのかも」

 どういう事だ?、とザギがけげんそうな顔をしてみると、ビブも苦笑いして応えた。

「ぼくにも良く分からないよ。でもね、ザギはもう目的を達成できる何かにはなっている筈。ロザル曰く、目的地に着くまであと一日近くはあるみたいだから、それまでにザギは今の状態に慣れて、思う存分に振る舞えるようになって」

 相変わらず言葉は出そうになかったので、ザギは瞼の開け閉めだけでうなずきに変えてみせると、

「じゃあ、ぼくはみんなにザギが気が付いた事と、ミミシュ達がいる場所に着くまでそっとしておくように伝えにいくから。ザギ、焦らないでね」

 ビブはそう言い残して個室から出て行った。

ーーー怪我は、してねぇみたいだな。

 ザギは自分の全身に意識を巡らせてみて、それはすぐに分かった。が、

 指一本動きゃしねぇ。こんなんじゃ、グリラおばちゃんとも戦うどころじゃねぇな・・・

 腕全体は動かなくても、腱や筋肉の反応はあったし、指の先はかろうじて動いた。だが、今までとは違い、自分の挙動がここではないどこかにも影響を及ぼしている反応が感じられた。

ーーーまるで、水の中にいるみてぇだ。

 ザギは自分の肉体の身体だけではなく、もう一つの身体を得たのだと想像してみた。それは魂の尾の先へと自由に飛翔し、さらにあちら側にも到達する事すら可能だったが、その先に満ち満ちる無数の存在に圧倒されかけ、そこに長く留まる事は避けた。

ーーー役割分担て奴だな。

 ザギはそう自らを納得させ、同時に二つの身体を操る訓練に取り組み始めた。


 ビブはやはり昏倒したままのエミリー達の様子を確かめてから、クルト達の元へと向かった。

「おお、ビブ殿。お待ちしてましたぞ」

「やめて下さい。その呼び方」

「しかし敬意を払うべき相手にはそれなりの」

「その敬意にぼくが値するかどうかは脇に置いたとしても、あまり好きになれないんです」

「わかった。ではザギ君と同じく、ビブ君と」

「それで構いません。で、気持ちは変わらないのですか?」

「無論」

「ミミシュさんは望んでいないかも知れないのに?」

「ガルドゥムの子を宿し産むのも本意ではあるまい」

「グリラは<管理者>の契約者として制御を受けるでしょう。だから彼女から襲われる危険は無いと考えます。けれど、ガルドゥムがもし立ち会いを望まず、<管理者>に認められた誓いを優先した場合、あなたが即死させられるかも知れません」

「覚悟の上だ。それでも私は彼女を救わなくてはならない」

「あなたが殺されても、ミミシュさんは誓いから解放されないというのに?」

「それは・・・」

「むしろその誓いの目的は喪われるのに、束縛だけが続く事になるでしょうね。最悪、彼女はあなたの後を追うでしょう。それも、あなたの望む所ですか?」

「・・・・・・」

「あなたには、ミミシュさんと同じくらい愛している他の女性も、その女性との間に生まれた子供もいるのでは無かったですか?」

「・・・・しかし、放ってはおけぬのだ!」

「ミミシュさんも、同じ思いだったとしても?」

「どういう事だ?」

「あなたがミミシュさんを放っておけないと思うのと同じくらい強く、ミミシュさんはあなたを命の危険にさらしたくは無い。こういう場合、クルトさんをふん縛って会わせないというのが一番かも知れませんね」

「・・・私一人でこの船に乗る他の皆の制止を振り切れると考えるほど私は自惚れていない。だが、必要に迫られればためらいもすまい」

 クルトが剣の鞘に手を伸ばす気配を感じてビブ達も身構えたが、剣の束に手をかけたクルトの手をつかみ止めたのはテューイだった。

「いざガルドゥムやグリラとやりあうって時に手負いだったら元も子も無いだろうが。頭を冷やせ」

「しかし、もし拘束され閉じこめられれば、私は自分やミミシュの命運を決する場面に立ち会えない事になります。それは、受け入れられない」

「気持ちは分かる。俺も名案は浮かんでいない。幸い、着くまでにはまだ一晩ほど時間はあるようだからな」

「私の決意が変わるとも思えませんが」

「ザギやエミリーが起きてくれば、今この場では見つかってない妙案が出てくるかも知れないだろ。それまでの短慮は控える事だ」

「そうですね。夜風に当たってきます」

 クルトが立ち去ると、他の者達も三々五々に散って行った。

 その中にファボとクルコの姿が無い事にビブは気が付いたが、特に捜さなくてはいけない理由も無かったのでそっとしておく事にしてザギの所へと戻った。


 そのファボとクルコは船底の格納庫で秘密の特訓をしていた。キーブーに頼んで用意してもらったいくつかの具材を元に、雷の双剣をさらに有効に使う手立てを模索し続けていた。

「うん、いい感じじゃないかな」

「ほ、ほんとですかぁ!?」

「うんうん。あの初見の時に、剣を身代わりにして手を離した時から見所はあると思ってたけど、ここまでとは正直予想してなかったよ」

「へへ。クルコさんにほめられると嬉しいすね」

「そこは素直に喜んでいいよ」

「いや、自分は、テューイさんみたく強くないし、ザギ・・・様みたくあんな化け物じみた成長は出来ないでしょうから、だから、姑息でも策でも何してでも、グリラの動きを一瞬でも止められれば、後は他のみんながどうにかしてくれるでしょうから」

「信じてるんだね、みんなを」

「一撃で、心臓をぶち抜かれるとか頭かち割られるとかしなければ、アビエトさんやビブ様にヒールもしてもらえるでしょうし」

「そのくらいはあたしが何とかしてあげるよ」

「はい、ありがたく、頼らせて頂きますっ!」

「全く、君はエミリー様の守護戦士じゃなかったの?」

「それは、ぼくが勝手に言った事で、雷の双剣はもらいましたけど、強さから言えば、ザギ様にだって全然追いつけそうにありませんから」

「あの子はね、やっぱり、特別だよ。トウイッチ子飼いってのは伊達じゃないし、ビブ君も言ってたでしょ。いろいろいじられてるって。だから君は君なりにしゃんとしてればいいのさ。あんま卑屈になるな」

「そーは言われましてもね。あまり、自分を誉めていい材料には恵まれてはないわけでして」

「ふつーの町娘さん達からすれば、そこそこなんじゃないの、君?」

「よくぞ聞いてくれましたって言うべきなんでしょうかね。ぼく、三人兄弟なんですよ」

「で、一番情けないのが君だったって?」

「です。長兄のツンブラ兄さんは賢くて堅実でどっしり構えてて、父は引退しても何も心配は無いでしょう。次兄のイングレス兄さんはちゃらちゃらしてる風に見えますが、堅物になりがちな長兄の目が届きにくい所に目を配り、足を届かせにくい所へと率先して立ち回り、その・・美形な面立ちもあって、立ち位置を確立してます。ぼくの役所なんて、無かったんですよ・・・」

「で、剣を学ぼうとしたの?」

「荷馬車の護衛とかくらいは出来ないと勘当されかねないとこまで一時期身を持ち崩してましたから」

「どうせ君の事だから、家のお客の一つの令嬢辺りを見初めたんだけど、兄貴の方を紹介してくれとか言われて失恋していじけたとか?」

「大外れではないですよ・・・。イングレス兄さんはその頃それなりに真剣に付き合ってる人がいたから、気を使ってくれて、そのお嬢さんの気をぼくに向けるよう振る舞ってくれたりもしたんですけど、それを見て、ああ、ぼくには無理だなって。その人も結局は兄をあきらめて、別の人の所に嫁いでいきました、ってね」

 クルコは小さなため息をつくと、床にへたり込んでいるファボの両頬をつまんで言った。

「君、前はもっとたぽたぽしてたでしょ?それをあのゴブリン達と出会って、だいぶ絞ってきたんじゃないの?それは何の為だったの?」

「それは、その、やっぱり絶望しきるには若すぎたし、誰かを好きになって好きになってもらいたかったし、・・・その」

「童貞のままでいたくなかったし?」

「そうですよ!悪いですかっ?!」

「別に。うん、君を好きだというのは嘘になるだろうけど、嫌いじゃないよ、私」

「ありがとうございます。でも、友達までならね、ていうのも、もう何度聞いた事か」

「だーかーらー、君がもてないのはそーやっていじけてるせいだっていうの!」

「いじけてたっていじけてなくなってもてなかったんだから、どっちだっていいじゃないですか!」

 クルコは眉をつりあげると、ファボが床に置いたままにしていた雷の双剣を手に取り、ファボの両足に剣先を触れさせ、対象を短時間痺れさせ動けなくするくらいの電流を流し込んだ。

「ぐぁっ、ク・・ルコさん、なじぇ?」

 クルコは格納庫の入り口にかんぬきをかけて戻ってくると、床に大の字に寝そべって動けないファボの身体の上に馬乗りになった。

「君を助けた時の事覚えてる?」

「え・・?」

「雷の双剣を手にして間もない初めての実戦。相手のオーガの方が確実に強くていつ殺されててもおかしくなかった。だけど君は怖じ気付きながらも、立ち向かって逃げなかった。それこそ、殺される直前までね」

「助け・て、もらえなかったら、死んで、ましたね」

「君が殺されてから現れて雷の双剣回収して味方になってってのも考えたけど、私が君を助けたのは、君が仲間を見捨てるような情けないような奴じゃなかったから」

「ぼくが、情け、なく、ない・・・?」

「私がグリラにやられた時も、君が命乞いしてくれたんだってね?」

「あれは、だって、その直前に助けてもらって・・たし」

「だからね、これは、その時のお礼。君は私に痺れさせられて抵抗できなかった。不可抗力。黙ってればばれないしね」

「な・・何、を・・・?!」

 クルコの手がファボの股間をズボンの上からまさぐって、ファボは悲鳴に近い声を上げた。

「お、君、悪くないモノ持ってるじゃーん?」

 またぐりぐりといじくられむくむくと背丈を伸ばす息子の有様に、ファボは

「ぼ、ぼくは、サラ様に、エミリー様を裏切らないと誓っ」

「これは、裏切りなの?」

「へっ?」

「君は、エミリー様の恋人?」

「いいえ・・・」

「一度でもエミリー様から愛を誓われた?」

「いいえ・・・・・」

「これからも、たぶん、無いよね?」

「・・・・」

「エミリー様の守護戦士にはなれるかも知れない。でもこの最後の戦いがもしも無事に終わったら、たぶん、エミリー様はモーマニー様の跡を継ぐ事になる。それがどういう事になるか、わからない君じゃないよね?」

「・・・」

「負ければ全員死ぬ。勝っても一緒にはなれない。もし側にいられたとしても一生手が届かない相手になる。君は、そんな誰かを望んでいたいのかな?」

「そ、それは、てぇ、なぜ、上着を脱いで、手、手を胸に」

「嬉しいでしょ?揉んでみれば?」

「嬉しくないわけないかもだけど、でもおおぉぉ?!」

 クルコの空いている片手はファボのベルトのバックルを外し、ズボンの内側に潜り込んで目的のモノを掴みこすり上げ、ファボはもうまともな言葉を発せなかったが、

「童貞のまま、死にたくないんじゃないの?」

 唇が触れそうな距離で囁かれて、ファボは、陥落した。

 それからいくばくか、それなりの時間が経って、クルコは自分の衣服を身に付けながら、にやけた顔と青ざめた顔を交互に往復するファボに言った。

「一つ、ヤった女が自分のモノになったとか勘違いしない事。したら即殺すから」

「は、はいいい!」

「一つ、言いふらさない事」

「それももちろん!」

「一つ、あと一、二割は体重落とす事」

「は、い・・、ってそれはどうして?」

「君、悪くないよ。今くらいに身綺麗に保ってられて鍛え続けてるなら、また相手してあげてもいい」

「で、でもっ!クルコさんてウルザ商会の」

「そ、付き合ってる人はいるけどね。相手にも奥さんはいるし、複数の愛人もいるし、私はあくまでもその中の一人。モーマニー様の至宝探しに金満宮にいる間、腕利きの護衛として、<暁の車輪>の指導部につける鎖として、私は選ばれたの。私も悪い気はしなかったから付き合ってただけ。さばさばしたもんよ」

「そういう、もの、なんですか・・・」

「女と男が一人ずつ、互いだけを見つめ合って、ていう人達も多いだろうけど、そうじゃない人もやっぱり多いだけ。結婚したらとか子供が出来たらとかだって、別に絶対条件じゃない。その人がどうしたいかだけが問題なの」

「じゃ、じゃあ、ぼくは、もしぼくが!」

「それも童貞卒業した男が言いがちな台詞。ダメだよ」

「でも、それじゃ、不実に」

「そんなもん、無いよ。グリラおばちゃんとかならまた違う事言うだろうけどね」

「はは、そうですね。でも、もし、生き残れたら」

「君はエミリー様の守護戦士じゃなかったの?誰かと一発ヤれたら、それだけで対象が変わっちゃうの?」

「・・ただ童貞を捨てるだけなら、いつだって出来たんです。次兄にもそういう相手紹介されそうになったし、家のメイドなんかにも、もろに食いっぱぐれない為の相手として声かけられた事はあるけど、でも、本当のぼくを見てくれた上で、ぼくを、情けない奴じゃないって言ってくれたのは、あなただけなんです!」

「エミリー様も、サラ様だって、ちゃんとそういう所を見ててくれたと思うけどね。ま、全部が済んで互いがまた生きてたら考えればいいさ」

「・・・ですか」

「あ、もう一つ。分かる連中には分かっちゃうだろうけど、でも、不自然に馴れ馴れしくしてくるなよ。今まで通りに振る舞え」

「努力、します」

「がんばれ、ファボール・ウィンゴット。応援しててあげるから」

「じゃ、じゃあ、最後の戦いの先まで生き残れたら、ぼくと、付き合って下さい!」

「考えといてあげる」

「ありがとうございますうぅぅぅっ!」

 ぼろぼろとみっともなく涙を流すファボの傍らにクルコは戻り涙その他をふき取ってその頬に軽く口づけしてから、閂を外してクルコは去っていった。


 そんな夜が更けて明けるまでの間に、ザギは上体を起こせるくらいに、エミリーもまた壁に手をついてだが歩き回れるくらいには回復していた。

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